スリリングな展開が続く映画『TAR/ター』に、心のざわめきが止まらない!
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自分では絶対にたどり着けない地位。そこに立つ人は、どんな思いで仕事に取り組み、どんなプレッシャーや苦境に立たされるのか……。これは数々の映画で疑似体験させてくれるが、その究極とも言っていい作品が誕生した。あまりに凄まじいドラマに、映画自体が強烈な体験となるはず!
主人公は世界最高峰のオーケストラ、ベルリン・フィルで女性として初の首席指揮者になったリディア・ター。当然、その才能は抜きん出ており、作曲者としてもアカデミー賞やグラミー賞などを受賞。難関ともいえる交響曲の録音を控え、自伝の出版も予定されている。まさに、天才の人生。
一方で問題も山積みで、新曲を作る苦闘や過去の対人トラブル、私生活でのパートナーとの関係に加え、ター自身も身勝手な行動をとるなど、とにかくトップに立つ者の生々しい実情にひたすら呆然となる物語。冒頭こそ、長回しの映像も使われゆったりした流れだが、中盤から一瞬たりとも目が離せない展開に、観ているこちらも呑み込まれてしまう感覚だ。
やや極端なこのシチュエーション。それをリアルに突きつけてくる最大の要因は、やはりター役のケイト・ブランシェットの鬼気迫る演技。超インパクトのシーンがいくつもあるが、学校でいじめを受けた娘に対する彼女の行動は、ちょっとトラウマになりそうなくらい怖い! もちろん指揮者としての動きを、ブランシェットは完璧にマスター。実際に彼女がタクトを振ったオーケストラの音楽が、そのまま本編に使われていたりもする。
そして本作は、人間のダークな欲望も激しく刺激。セレブや高い地位の人がハラスメントを起こし、スキャンダルにまみれ、危うい運命に陥ってしまう。そんなプロセスは、不謹慎かもしれないが覗き見したくなるもの。そこをスリリングな演出で描き、あまりに意外な着地点へと導いていく『TAR/ター』。観終わった後、ここまで心のざわめきが止まらない映画は、年に何本もあるものではない!
『TAR/ター』5月12日公開
製作・監督・脚本/トッド・フィールド 出演/ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス、マーク・ストロング 配給/ギャガ
2022年/アメリカ/上映時間158分
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