PROFILE
1978年、米ミネソタ州生まれ。『ハロウィンH20』で映画初出演を果たした後、『パラサイト』『ヴァージン・スーサイズ』『パール・ハーバー』『ブラックホーク・ダウン』『ホワイト・ライズ』『シン・シティ』『ブラック・ダリア』『ラッキーナンバー7』などに出演。2009年の『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』では木村拓哉と、2010年の『BUNRAKU』ではGACKTと共演している。俳優のジェームズ・フランコが監督を務める『ザ・ロング・ホーム(原題)』など、多数の出演作が待機中。
『パール・ハーバー』や『ブラックホーク・ ダウン』の主演スターとして、かつてはアイドル的な人気の高かったジョ シュ・ハートネットもいまや40代。パートナーの 女優タムシン・エガートンとの間には、3人の子供もいる。そんなハートネットの近年のフィルモ グラフィに目を向けると、大作映画の顔となり、 ハリウッド式喧騒の中に身を置いていた時期とは幾分事情が異なっているのがわかる。
2014年から2016年にかけて制作された主演ドラマ『ペ ニー・ドレッドフル』は革新的なゴシックホラー で、TVドラマの枠を超えたチャレンジ精神が表 現描写の端々に滲んでいた作品。2017年の日米 合作映画『オー・ルーシー!』では、同作で国際的 評価を高めた寺島しのぶらとの共演を楽しんで いた。なんでも、それら2作に出演する前には、ハ リウッドセレブとしての注目度に居心地の悪さを感じ、故郷のミネソタ州に長期間帰省していた ともいう。わかりやすいアメリカンドリームから 一旦距離を置き、バラエティに富んだ作品への出 演機会を得て、自分のやりたいこと、望む環境と 自然体で向き合うことにしたハートネットにと っては、今こそが充実の時間なのかもしれない。
まもなく日本で公開される映画『キャッシュト ラック』も、ジョシュ・ハートネットの現在のスタ ンスを如実に物語る1作だ。この映画は『シャー ロック・ホームズ』シリーズや『アラジン』を手掛 けたガイ・リッチー監督が、フランス映画『ブル ー・レクイエム』をリメイク。『ロック、ストック& トゥー・スモーキング・バレルズ』など、監督自身 のキャリア初期作品を思わせるクライムムービ ーとして注目を集めている。物語の舞台となるの は、ロサンゼルスの大手警備会社。その中心には、 特殊な訓練と厳しい試験を経て、現金輸送車を守 る敏腕警備員たちがいる。ハートネット演じるボ ーイ・スウェット・デイヴも、その1人。
ある秘密 と目的を抱えた主人公の新人警備員“H”(ジェイ ソン・ステイサム)と同僚になった日を境に、思い がけない荒波がデイヴらの日常に押し寄せてく ることになる。 「デイヴは警備会社フォーティコ・セキュリティ の従業員で、現金輸送車の運転手と配達人をして いる。ジェイソン演じるHをライバル視している のだけど、三枚目キャラだからあまり相手にされ 『パないんだ。デイヴは実際に攻撃するよりも口先だ けで騒ぐような男だしね。人を怖がらせようと吠 えまくっているけど、当然ながらHには効かない。 モブ扱いされて終わりなんだ」
ジョシュ・ハートネットがモブ扱いされる役 を? などと思ってはいけない。パブリックイメ ージから大きく逸脱する役柄も、現在の彼にとっ ては楽しみの1つなのだから。ハートネットはキ ャラクターにより憑依するため、嬉々として役の 背景に思いを巡らせたりもしている。 「僕が考えるに、デイヴは軍人を目指したのに入 隊できなかったのだと思う。原因はきっと、カッ となりやすい性格だろうね。そこで、次は俳優を 目指してロサンゼルスに行く。でも、向いていな いことに気づくんだ。その点、警備の仕事なら2つの夢を同時に叶えられる。タフな男を演じるこ とができるから。デイヴは母子家庭で父親不在の まま育った若者だった。まわりに自分を証明しよ うと、躍起になっているんだ」
また、ハートネットが楽しんだのは役柄だけで なく、撮影現場でのコラボレーションも。これま でのガイ・リッチー監督作に比べるとダークで、 ユーモアも控えめだが、アクションとスリルの絡 みようがお馴染みとも言える作品世界を作り上 げるにあたり、リッチー監督はこれまたお馴染みの通し稽古を行った。撮影前に出演者全員を集め、 わずかなセットと小物を使用しながら実際に演 じてみるのがリッチー流だという。
「ガイの大ファンだったから、是非とも現場を経 験してみたかった。彼は言葉をとても大事にして いて、セリフによく耳を傾けている。もちろん映 像も大事だけど、セリフの響きがいいと満足する みたいだ。それが作品の大きな特徴にもなってい るね。しかも、ガイは現場で常に新しいことを思 いつき、形にしていく。彼にとっては、スピリチュ アルな経験なのかもしれない。こう言うと嫌がる だろうけど。創作活動からカタルシスを得ている ようなんだ。だから、現場に行くまでなにが起こ るかわからないけど、そういったやり方は嫌いじ ゃない。その場で反応を求められ、対応していくのが楽しかったよ」
楽しさは本物だったようで、ハートネットはリ ッチーの次回作『ファイブ・アイズ(原題)』にも出 演。5カ国の諜報機関がタッグを組み、世界規模 のミッションに臨むスパイ映画だという。本作に 続いてジェイソン・ステイサムとも共演予定。おそらくこちらでの経験も、ジョシュ・ハートネットの役者魂を満たすものになりそうだ。
ロサンゼルスの警備会社フォーティコ・セキュリティでは、精鋭警備員たちが現金輸送車を日々ガード。そこに雇われた新人の“H”はある日、高い戦闘スキルで強盗を撃退する。同僚のデイヴ(ハートネット)らが彼にいぶかしげな目を向ける中、全米で最も現金が動く日“ブラック・フライデー”が到来し……。ジェイソン・ステイサム、ホルト・マッキャラニーらが出演。
●10月8日より、新宿バルト9ほかにて全国ロードショー
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He’s sitting there, coming up
the ideas as it works.
監督(ガイ・リッチー)はその場でアイデアを出すんだ。
ジョシュ・ハートネット
『Urban Safari』Vol.23 P10~11掲載
photo : Julien Lienard(COVER), Fabrizio Maltese / Contour by Getty Images text : Hikaru Watanabe