PROFILE
1969年、米テキサス州生まれ。『バッド・チューニング』で映画デビューを果たし、『評決のとき』で主演に抜擢。『アミスタッド』『U-571』『サハラ死の砂漠を脱出せよ』など、話題作への出演を重ねる。『リンカーン弁護士』『MUD -マッド-』『マジック・マイク』などで演技派として改めて注目を集め、『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞主演男優賞を受賞。ほかの出演作に、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』『インターステラー』『TRUEDETECTIVE/二人の刑事』などがある。
オスカー像を手にしたことのある実力派でありながら、“セクシー”なる形容詞とも長い付き合いで、ハリウッドセレブの1つの理想型とも言える地位を築いてきたマシュー・マコノヒー。コロナ禍でエンターテイメントが立ち止まらざるを得なかった昨年は 日本公開作こそなかったが、全米では10月に出 版された彼の自叙伝が話題に。長年にわたって書 き綴ってきた日記を自叙伝の形で書籍化した『グリーンライツ(原題)』には、幼少期のエピソード から両親の思い出まで、かなりプライベートに踏 みこんだ内容が記されている。2012年に結婚し た妻や3人の子供たちのことを含め、これまではプライベートを積極的に明かすタイプではなかったが、人生の新章を意識してのことだろうか。 現在、51歳。さらなる注目が集まる中、今年は彼の新作映画も見られる。
そのうちの1本である『ジェントルメン』は、マ コノヒーがイギリスの人気監督ガイ・リッチーと組んだ作品。23年前の大ヒット作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』など、軽快なクライム映画で一躍脚光を浴びたリッチー 監督の原点回帰とも言える内容で、ロンドンに住 むアメリカ人ミッキー・ピアソンをマコノヒーが 演じる。このミッキーはドラッグビジネスの成功 者でもあり、複数の人物の思惑と運命が絡み合う物語の中心にいるのが彼だ。
「ガイの映画は言葉、パンチ、ユーモア、巧妙なごまかし、大胆さ、そして勇敢な挑戦で成り立っていて、登場人物たちの誰もが明確で忘れがたいアイデンティティを持っている。見ていると一緒にいたいと思うし、1人として退屈なキャラクター がいないんだ。僕が演じたミッキーもそうで、彼は20年前にロンドンにやって来て、オックスフ ォード大学で教育を受け、上流階級の中に入りこんだ。そして、貴族の広大な所有地が何千もある ことに目をつけ、その地下でマリファナを栽培し はじめる。土地を貸した貴族たちが、そこでなに が行われているかすら知らない間にね。そうやって、ミッキーは帝国を築いていったんだ。言ってしまえば、彼はイギリス人にイギリスを売りこむアメリカ人だね。身のまわりにあるものの価値に気づくには、他人のロマンチックな視点が必要なこともあるから」
そんなミッキーが愛する妻とのんびり暮らす優雅なセカンドライフを求め、「ビジネスを売却する!」と宣言したことから波乱が幕開け。「足を洗いたいけれど、それほど簡単に抜け出せるもの じゃない」というドラッグビジネスを巡り、ギャ ングや探偵、街のチンピラまでもが入り乱れての 大騒動が起こる。この“ギャングや探偵、街のチン ピラ”もマコノヒーの言う「明確で忘れがたいア イデンティティを持っているキャラクターたち」 で、ミッキーをはじめとする登場人物たちのアク ション合戦や台詞の応酬にガイ・リッチー節が。 脚本を読んで出演を決めたというマコノヒーに とっては、それこそが撮影の楽しみでもあったよ うだ。リッチーはギリギリまで脚本を微調整し続 け、その日に撮影するシーンをリライトすることもよくあったという。
「ほかの映画では経験したことがないほど、ガイと僕はたくさん話し合った。リライトし続けるこ とで、脚本が本当に生き生きしてくるんだ。僕が今までに演じてきたのとは別次元の美味しい台 詞が生まれる。しかも、彼は台本どおりに進める ことに固執しないから、僕ら俳優は台詞に縛られ なくてもいい。内容を理解し、リズムと韻を踏む ことができればいいんだ。歌詞と同じだね。ガイは台詞の一定のリズムを聞いている。登場人物中唯一のアメリカ人であるミッキーの言葉にはリ ズムがあり、曖昧さがない。形容詞や副詞が少な く、核心を突くのが早いんだ。“殺すか否か”だけ の明確なルールを持っているしね。だからこそ、僕みたいに言いよどんだりせず(笑)、話し方に無駄がない。単刀直入なんだ」
また、心躍ったのは小粋で軽妙な台詞を口にす ることだけでなく、衣装もしかり。劇中のミッキ ーは“ジェントルメン”らしく、何着ものスーツを 魅力的に着こなしている。マコノヒー自身も衣装 は相当お気に召したようで、「いいスーツだった。 何着か盗んだよ」と冗談(?)を飛ばすほど。ちな みに、ファッションといえば、今年の日本で見ら れるマコノヒー主演映画のもう1作、『ビーチ・バ ム まじめに不真面目』(4月30日公開)は鬼才監 督ハーモニー・コリンと組んだ異色コメディで、 こちらのマコノヒーは落ちぶれた放蕩詩人役。ド レスやワンピースを独特のスタイルで着こなす 姿も話題の1つだ。
麻薬王から詩人まで、クラシカルなスーツから フェミニンなドレスまで、すでにさすがの飛距離 と言うべきか。2021年のマシュー・マコノヒーは、 まだまだ魅せてくれそうな気がする。
イギリスに大麻帝国を築いたアメリカ人のミッキー(マコノヒー)が、ビジネスからの引退を決意。ユダヤ系大富豪、ゴシップ紙の編集長、ゲスな私立探偵、街のチンピラから中国&ロシアのマフィアまで、その噂を嗅ぎつけた暗黒街のクセ者たちが500 億円相当の利権を巡って激突することに……。チャーリー・ハナム、コリン・ファレル、ヒュー・グラントらが共演。
● 5 月7 日より、TOHO シネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
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As we know, sometimes it takes someone’s
romanticized point of view to show
value to the things we have around us.
ご存知のとおり、自分の身のまわりにあるものの価値に気づくには、
他人のロマンチックな視点が必要なことがある。
マシュー・マコノヒー
『Urban Safari』Vol.21 P10~11掲載
photo : George Pimentel / Contour by Getty Images text : Hikaru Watanabe