PROFILE
1965年、デンマーク生まれ。国立演劇学校で学んだ後、『プッシャー』で長編劇場映画に初出演。以降、『しあわせな孤独』『アフター・ウェディング』『誰がため』『ヴァルハラ・ライジング』などに出演し、2012年の『偽りなき者』でカンヌ国際映画祭男優賞を受賞。2013年にはドラマ『ハンニバル』のレクター役でファン層をさらに拡大した。近年の主演作に『ポーラー 狙われた暗殺者』『ライダーズ・オブ・ジャスティス』、そしてアカデミー賞国際長編映画賞受賞の『アナザーラウンド』などがある。
マッツ・ミケルセンがハリウッドで最も成功したデンマーク人俳優であることは、もはや疑う余地もない。“北欧の至宝”と呼ばれる彼は母国での活躍が国際的な注目を集めるのに前後し、活動の場をワールドワイドに拡大。2006年に公開された『007/カジノ・ロワイヤル』を筆頭に、『ドクター・ストレンジ』『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』といった大型シリーズ作品に次々と出演している。
いまや「マッツの出演していない大型シリーズ作品はあるのか?」という言葉は本人にとってもささやかなジョークになっているようで、やはり大型シリーズ作品である出演最新作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』について、こんな秘話を明かしている。
「出演に際しては、面白い経緯があってね。ある日、友人が面白半分に、僕がこれまで出演したシリーズものの作品を列挙していったんだ。そして、彼は“唯一出演していないのは『インディ・ジョーンズ』だね”といった。おかしかったよ。ところがなんとその1週間後、“『インディ・ジョーンズ』の新作に出演しないかい?”というオファーの電話がかかってきたんだ。友人にもすぐさま喜びのメッセージを送ったね」
ただし、大型シリーズ作品に登場する際の役柄の大半が、“悪役”であることに思うところのあるファンもいる様子。先頃開催された『大阪コミックコンベンション2023』でも来日&登壇したマッツに対し、観客から「あなたはそんなにもいい人なのに、どうして悪役が似合うのでしょうか?」との質問が飛んだ。
「どうして悪役が似合うのか?」の回答は後に取っておくとして、まずは『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の話を。この作品で彼が演じる科学者フォラーも、どうやら“悪役”らしい。世界公開まであと1カ月。いまだ極秘事項だらけの状況に注意を払いつつ、フォラーについて明かす。
「公開まであまり話せないのだけど、彼はドイツ人の科学者で、1930年代の終わりから’40年代の初頭にかけ、ドイツのための任務に就いていた。こう話せば彼が歴史上、どんな立場の人間かは察しがつくよね。そして、フォラーには、(考古学者である)インディ・ジョーンズと重なるところがある。60歳代後半の2人はある意味、時代に取り残されているんだ。彼らはああいった職業に就く男たちの典型で、その原動力になっているのは仕事。遺物を愛し、同じものを探しているという共通点もあるため、必然的にお互いと遭遇することになる。2人は長年、そういったことをずっとやってきたんだろうね」
インディの冒険を阻む宿敵だというフォラーは劇中、全世界を股にかけ、陸で海で空でインディに牙を剥くという。もともとフットワークが軽く、「撮影のためならどの国にも駆けつける」と公言しているマッツのこと、多岐にわたった撮影場所での時間を楽しむこともできたようだ。
「幸運にも、モロッコに行かせてもらった。シチリア島にもね。大半の撮影を行ったロンドンやグラスゴーを含め、旅をたくさんしたよ。本当に、美しいところばかりだった。シチリア島に行ったのは、撮影にぴったりの美しい風景があったから。そういった場所を目にする機会を得られたのは、間違いなく幸せなことだった」
インディとフォラーが繰り広げるバトルの規模は想像の域を出ないが、インディにとって、彼の物語において、フォラーが大きな存在であることは間違いなさそう。「印象的なキャラクターになっていればいいけどね。それが使命だから」と語りつつ、独自の“悪役論”を展開させる。おそらく、「どうして悪役が似合うのか?」の回答もここから読み解くことができるだろう。
「フォラーには目標がある。その目標は、インディ・ジョーンズの目指すものと必ずしもかけ離れているわけじゃない。問題は、目標を達成するための手段。それが違うんだ。彼は(インディとは)別の道を歩んでいる。そこが善人と悪人の違いなのだと思う。欲しいものを手に入れるための手段が、ほとんどの人間にとっては考えられないものなんだ。僕が演じる際にいつも留意するのは、“彼の野心はなんだろう? 夢は? そんなことをする動機は? 目標はなにか? なにが彼を突き動かすのか?”といったことだね。それをキャラクターを演じる際の燃料にするんだ。その方法が人に認めてもらえないものかどうかは、演じるうえでは重要じゃない。僕はただ、その人を突き動かすキーワードを探せばいいだけなんだ」
悪役に人間味をもたらし、魅力的にする方法を知っているからこそ、“悪役が似合う”ように見えてしまう。演じるキャラクターに対する圧倒的な“寄り添い力”も、マッツ・ミケルセンの躍進にひと役買っているのは間違いなさそうだ。ハリソン・フォードにとって本作が最後のインディ役となる。
数々の冒険を繰り広げてきた考古学者のインディ・ジョーンズ。そんな彼が人類の歴史を変える力を持つという究極の秘宝“運命のダイヤル”を巡り、元ナチスの科学者フォラー(ミケルセン)と争奪戦を繰り広げることに。『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』からはじまる大ヒットシリーズの第5作。監督は『フォードvsフェラーリ』のジェームズ・マンゴールド、製作総指揮にスティーヴン・スピルバーグ。●6月30日より、全国ロードショー
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マッツ・ミケルセン
『Urban Safari』Vol.34 P6~7掲載
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photo : AP / AFLO text : Hikaru Watanabe