Gastronomic City Phuket*
タイ・プーケット島のリゾートホテルにある極上レストラン〈プル(PRU)〉。
〈プル(PRU)〉は、プーケット島屈指のラグジュアリー・リゾート、〈トリサラ〉の施設内にある。先頃大リニューアルを経て内外装を刷新。アンダマン海の絶景を望むそのダイニングからいち早くリポートする。
先頃リニューアルした〈プル〉の内観。大きなカウンターの客席は厨房と一体になり、窓からはアンダマン海に沈む夕日の絶景が望める
いい意味でビーチ・リゾートホテルの料理のイメージを覆すレストランだと思う。タイを代表するリゾート地、プーケット島のラグジュアリー・リゾート〈トリサラ〉にある〈プル〉である。
〈トリサラ〉は2004年のオープン以来、世界中のセレブリティたちに愛されているリゾートホテル。その魅力は枚挙にいとまがないほどだが、個人的にはこの〈プル〉の存在が白眉だと思っている。島リゾートの料理というのは高級をうたいつつも、予定調和の味わいというか、紋切型のテイストに陥りがちだが、ここはひと味もふた味も違う。
まず食材が素晴らしい。オランダ出身の総料理長のジミー・オーフォストは「Farm to Fork(農場から食卓まで)」を標榜し、島内の広大な自社農園で野菜やハーブ、果樹などを育て、ジミー自らが調達する。「ファインダイニングは、文化的な繋がりを育む役割を担うべき」とインタビューで答えているが、彼はその他の食材や器などもすべて、タイ国内の契約生産者や工芸作家と直接取引し、プーケットやタイの食文化をひと皿に芸術的に盛り込んでいる。
実際に〈プル〉は食の専門家たちにも高く評価され、タイ版『ミシュランガイド』では首都バンコク以外で唯一の1つ星を獲得し、『アジアのベストレストラン50』でも100位以内に選ばれた実績を誇る。
実は、筆者が〈プル〉を訪れるのは、数年ぶりのこと。今回は料理の進化にも驚いたが、昨年に大リニューアルした店舗そのものが特筆に値する。日本の割烹からヒントを得たというダイニングは、眼前のアンダマン海に大きく窓を配し、カウンター席との間に厨房を設置。ゲストが、絶景と調理風景の双方を見ながら楽しめるという趣向である。
肝心の料理だが、フルーツの王様ドリアンを薪火でローストしてキャビアを合わせた逸品や、新鮮なカニ身に発酵茶葉オイルと燻製したカニの卵の皿、タイ南部の発酵味噌を取り入れた料理など、どれも未知なる風味の楽しさにあふれている。しかも、どれも美味しいのである。ワインのペアリングも実に巧みだ。
〈プル〉は独立したレストランとして、外来のゲストも歓迎しているが、個人的にはむしろ、〈プル〉を訪れるためだけに〈トリサラ〉にステイすることおすすめしておきたい。“ガストロノミー・リゾート”とでも名づけたくなるような新体験ができるからだ。是非、次のリゾート候補に入れてみてはいかがだろうか。
総料理長のジミー・オーフォストはオランダ出身。トップシェフたちからの評価も高い
“イカとブルーチーズ”は、スモークして1カ月熟成させたイカに酸味のあるハーブを添えて
薪で何時間もローストしたドリアンと地元ホアヒン産のキャビア。塩味と甘味のコントラストは悪魔的な美味しさ
鴨の旨味とタマリンドの風味の組み合わせが抜群な“熟成鴨とタマリンド”
取材・文 中村孝則 美食評論家
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より『世界ベストレストラン50』の日本評議委員長も務める。'22年春、JR九州が運行する「ななつ星in九州」の車内誌の編集長に就任。
●プル[PUL]
住所:A60/1 Moo 6, Srisoonthorn Road,Cherngtalay, Thalang, Phuket
TEL:+66 (0)76-683-344
URL:https://www.prurestaurant.com/
『Urban Safari』Vol.42 P30掲載
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