『私の中のあなた』
製作年/2009年 原作/ジョディ・ピコー 監督・脚本/ニック・カサベテス 出演/キャメロン・ディアス、アビゲイル・ブレスリン、アレック・ボールドウィン
ドナーとして生まれてきたアナの決断に心震える!
“泣ける映画”というのは、設定を聞いた段階である程度、予想がつくもの。逆に、泣かそうという“あざとさ”を感じ、引いてしまう人がいるのも事実だ。しかし時として、予想した感動の、さらに一歩先へ突き進んで心を揺さぶってくる映画もある。『私の中のあなた』はそんな一本だ。
主人公は、11歳の少女アナ。彼女には白血病を患う姉のケイトがいるのだが、アナはその姉のドナーになるべく遺伝子操作で生まれてきた。幼い頃から白血球やリンパ球を提供するなど、過酷な治療に耐えてきたアナだったが、腎臓移植手術の際、ついに「自分のために生きたい」と両親を相手に訴訟を起こす。
親の都合によって“デザイナーベイビー”として誕生したアナ。それだけでセンセーショナルで、アナの立場になって胸が締めつけられるのは確実。ただ本作は、ケイトの病気、家族がバラバラになりかけるアナの訴訟の先に、さらにエモーショナルな展開も用意している。そこで不覚にも泣かされる人が多いのだ。
アナ役のアビゲイル・ブレスリンは天才子役ならではの複雑な心情を見事に体現。そしてアナに無理を強いてきた母親役、キャメロン・ディアスのクライマックスでの演技が心にしみて、(キャメロンには失礼だが)そこも意外な感動のツボになっている。
『グラン・トリノ』
製作年/2008年 原案・脚本/ニック・シェンク 製作・監督・出演/クリント・イーストウッド 出演/ビー・バン、アーニー・ハー
頑固者が次第に心を許すさまにグッとくる!
大げさな感動は好まない。静かにしみわたる後味こそ、映画の魅力だ。そう考える人にオススメしたいのが、クリント・イーストウッド監督作。大スケールの事件を描いたとしても、その後味はどこか繊細で穏やか。ゆえに、しみじみと浸っていたくなる。こうしたイーストウッドの境地を実感できる最高の1本を選ぶとしたら『グラン・トリノ』だろう。
長年勤めたフォードの工場を辞め、妻にも先立たれたウォルト。愛犬と、愛車のグラン・トリノだけが心の支えで、周囲から見れば偏屈な男だ。そんな彼が、隣に住むアジア系のモン族の少年を助けたことで、意に反してその家族との交流がはじまる。
自分の意見を断固として曲げない主人公ウォルトは、絵に描いたような頑固老人。人種差別主義者であり、隣にアジア系が住んでいることも許せない彼が、その考えを変えていくドラマが、劇的ではなくじっくり描かれていく。その変化が、じつに心地よい。
カルチャーギャップ、年代ギャップによるユーモアも絶妙だし、何より、イーストウッド本人が演じるウォルトの感情の流れがナチュラル。ライフルを手にする姿は、彼の当たり役『ダーティハリー』が重なり、映画ファンの胸も熱くさせる。結末はかなりハードだが、息子カイル・イーストウッドの音楽とともにグラン・トリノが走る映像に、涙がやさしく頬を伝う。
『オーロラの彼方へ』
製作年/2000年 監督/グレゴリー・ホブリット 脚本/トビー・エメリッヒ 出演/デニス・クエイド、ジム・カビーゼル、ショーン・ドイル
これこそ隠れた感動作!
公開当時は大ヒットせず、それほど話題に上らなくても、その後、根強い支持をキープする映画がある。“泣ける映画”としてのこのパターンが『オーロラの彼方へ』ではないか。NY上空にオーロラが現れるという珍しい現象が起こった日、ジョンは父が大切にしていた無線機を発見。そこから聞こえてきた声に応答したジョンは、声の主が父ではないかと思う。しかし消防士だった父は、30年前、ジョンが6歳だった時に殉職していた……。オーロラが引き起こした、時空のパラドックスなのか? 本作がユニークなのは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような王道のタイムトラベル作品とは違い、声だけが過去と現在をつなぐ点だ。
30年離れた時間がひとつになることで、父と息子が同年代の立場になるのが、最初の感動のツボ。そして誰もが予想するように、まだ“生きている”父の運命を、息子がどう変えようとするかが、次なるポイント。本作の場合、そこからさらに二転三転が起こるのだが、ストーリーもわかりやすく練られ、感情移入しやすい。愛する人の運命を変えられるなら、自分はどうするか? そんな思いでいっぱいになった瞬間、登場人物たちの迎える運命に涙してしまう。
『フォエバー・フレンズ』
製作年/1988年 原作/アイリス・レイナー・ダート 製作・出演/ベット・ミドラー 監督/ゲイリー・マーシャル 出演/バーバラ・ハーシー、グレイス・ジョンストン
理想と現実に戸惑う友情物語の傑作!
“友情モノ”も、映画では泣けるポテンシャルの高いジャンル。この『フォーエバー・フレンズ』は、日本語タイトルが示すとおり、友情物語として揺るぎのない作り。主人公2人は女性だが、性別に関係なく観る者の心をわしづかみする。
サンフランシスコのビーチで、たまたま出会った2人の少女、CCとヒラリー。遠く離れた場所に住む彼女たちは、それから長い間、文通を続ける。やがてCCはクラブ歌手、ヒラリーは弁護士となって再会。同居生活や、それぞれの結婚、ケンカに仲直り……と、濃密な友情ストーリーが続いた後、2人には切実な運命が待ち受ける。
“文通”というのが時代を感じさせるが、メールやSNSとは明らかに違う、相手への心配、伝わらないもどかしさを実感させる本作。追い求める夢、理想と現実に悩むドラマでは、主人公2人のキャラが対照的なので、親友との距離感なども含め、どこかで必ず共感ポイントを発見できるはずだ。出会いの場所であるビーチが、クライマックスでも重要な役割を果たす。『Beaches』という原題の意味にしみじみと感動し、CC役のベット・ミドラーが歌う主題歌の歌詞が胸に迫ってくる。
『縞模様のパジャマの少年』
製作年/2008年 原作/ジョン・ボイン 製作総指揮・監督・脚本/マーク・ハーマン 出演/エイサ・バターフィールド、ジャック・スキャンロン、ベラ・ファーミガ
戦争映画の枠を超えた友情ドラマに泣く!
観た瞬間は衝撃の方が上回り、涙も出ないが、しばらくしてその結末がじわじわと思い出され、不覚にも泣いてしまう。『縞模様のパジャマの少年』は、そんな作品だ。第二次世界大戦下のドイツで、8歳の少年、ブルーノの一家が静かな片田舎に引っ越す。孤独な彼は、ある日、有刺鉄線のフェンスの向こう側にいた同い年のシュムエルと仲良くなり、2人はフェンス越しに話す時間を楽しむようになった。シュムエルはいつも縞模様のパジャマ姿だったが、ブルーノはその理由を知らない……。
ユダヤ人の強制収容所をテーマにした作品なので、なんとなく展開を頭に描きながら観続ける人も多いだろうが、この作品の場合、エンディングがあまりにも切実。戦争の悲惨さを伝えるのがテーマだとしても、これは一瞬、わが目を疑うレベルだ。
それでも映画を振り返れば、自分を正当化するために、大切な友人の心を傷つけるなど、戦争映画という枠を超え、等身大の友情ドラマとして感動が蘇るので、流れる涙は温かい。95分という長さなのでテンポもいいし、主人公たちを演じた2人の奇跡的な名演技にも引き込まれる、珠玉の名作だ。
文/斉藤博昭 text:Hiroaki Saito