『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ 』
世界的パンデミックによる、公開の延期に次ぐ延期で長らく待たされた『007』シリーズ第25作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』が、やっと、やっとスクリーンに登場!まさに待ちに待ったというべきだろう。殺しのライセンスを持つ英国特殊諜報員ジェームズ・ボンドが、どんな活躍を見せるのか?
注目は、5度の登板にして本作を最後にシリーズを退く6代めボンド俳優ダニエル・クレイグの最後の熱演。14年にわたってボンドを演じ続けたのは、歴代ボンド俳優の中でも最長であり、彼が主演を務めたシリーズは、過去5人のボンド俳優による主演作の世界興収をいずれも上回っている。その魅力はどこにあるのか? 熱烈に愛されたクレイグ版ボンドシリーズを、改めておさらいしてみよう。
『007/カジノ・ロワイヤル』/世界興収:6億1650万2912ドル ※Box Office Mojo調べ(以下同)
クレイグ版ボンドがシリーズに初登場したのは2006年の第21作『007/カジノ・ロワイヤル』。新ボンド俳優はつねに注目を集めるもので、クレイグの抜擢が発表された際の反響は大きかったが、過去のボンド俳優とのイメージの違いを指摘する批判的な声も少なくなかった。金髪であることや長身ではないことが、その主な理由。また、当時のクレイグが歴代ボンド俳優の中でももっとも若かったことも、一部のファンには懸念された。
『007/カジノ・ロワイヤル』
しかし、それがシリーズの再生に活かされる。本作でのボンドは、“00”(ダブルオー)のコードネームを取得したばかりの新米スパイという設定。過去作のボンドとは異なり、スマートにミッションをこなし、ダンディに振舞うのはもう少し先の話。で、キャラクターは無鉄砲で感情的だ。先輩のボンド俳優と比べたとき、クレイグはシリーズの人気を決定づけた初代のショーン・コネリーの野性味に近いと評されることもあるが、そういう意味では納得がいく。
『007/カジノ・ロワイヤル』
しかし、それこそがクレイグ演じるボンドの魅力。裏を返せば行動的で、命令に反して派手な爆破を起こし、上司のMに叱責されることもある。高所での追跡など、命を懸けたアクションも多く、必然的にアクティブな個性は映える。当時は『ミッション:インポッシブル』シリーズや『ボーン・アイデンティティ』にはじまる“ジェイソン・ボーン”シリーズが人気を博していたが、これらのニュータイプのスパイ活劇に刺激を受けたことも作用しているに違いない。
『007/カジノ・ロワイヤル』でのボンド・ガールはヴェスパー・リンド役のエヴァ・グリーン
また、ボンドが本気の恋に落ちて結婚を決意するのもシリーズでは珍しい。過去作では第6作の『女王陛下の007』でボンドは結婚をしているが、それ以来のロマンチックなキャラクターでもあった。ボンドの恋の相手ヴェスパーの存在は、その後のシリーズにも影を落とすことになるが、この“続き物”の要素も、過去のシリーズに比べて強く出ている。それまでの『007』は、稀に前作から話が続くことはあったが基本的には一話完結で、どれから見ても楽しめるつくりになっていることが多い。
『007/慰めの報酬』/世界興収:5億8958万0482ドル
『007/慰めの報酬』でのボンド・ガールはカミーユ役のオルガ・キュリレンコ
しかし、クレイグ版は物語が続いており、『007/カジノ・ロワイヤル』から順に観るのが望ましい。続く22作め『007/慰めの報酬』ではヴェスパーの仇を追ううちに犯罪組織クォンタムの存在が明らかになり、第23作『007/スカイフォール』では、当初から厳しい上司だったMとの間の緊張が高まるうえに、ボンドの出生の秘密が明らかに。
『007/スカイフォール』/世界興収:11億0856万9499ドル
『007/スカイフォール』での敵はサイバーテロリストのラウル・シルヴァ(ハビエル・バルデム)
『007/スペクター』/世界興収:8億8068万1519ドル
『007/スペクター』で登場した敵ブロフェルドを名優クリストフ・ヴァルツが演じ、ボンド・ガールのマドレーヌ・スワン役にはレア・セドゥが扮した
そして24作の『007/スペクター』では、それを受けてボンドの因縁の敵ブロフェルドが出現。またクォンタムを従えていた国際犯罪組織スペクターの全ぼうも明かされる。新作にもブロフェルドが登場することから、一連の流れはさらに続くだろう。
『007/スペクター』
何より、順を追ってクレイグ版ボンドシリーズを観ていくと、ボンドの成長が目に見えてわかる。先に述べたように、最初は新米の青二才だ。しかし悲しい恋を経てスパイの世界が非情さを知り、自身の命さえ見捨てられることもあるという現実を学び、感情を殺したスマートなダブルオーへと変わっていく。
ファンがよく知る、20作め以前のボンド像に少しずつ近づいていっている、とも言えるだろう。このようなボンドのキャリアの上での成長もまた、クレイグ版ボンドのドラマの連続性の表われ。そんな人間ドラマに重きを置いているので、前20作に宿っていたユーモアが控えめとなり、シリアスになるのは仕方がないが、裏を返せば、そこにはハードボイルドな味がある。
クレイグ版ボンドの物語は『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で完結するが、いったいどんな結末が待っているのか? メディアには7代めのボンド俳優が誰になるのか、早くもさまざまな噂が飛び交っているが、まずは人間的なボンド像をコツコツと築き上げてきたクレイグの最後の仕事を、しっかりと目に焼き付けておきたい。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ 』
製作/バーバラ・ブロッコリ、マイケル・G・ウィルソン 監督・脚本/キャリー・ジョージ・フクナガ 出演/ダニエル・クレイグ、ラミ・マレック、レア・セドゥ、ラッシャーナ・リンチ、アナ・デ・アルマス、ベン・ウィショー、ジェフリー・ライト、ナオミ・ハリス、レイフ・ファインズ 配給/東宝東和
10月1日(金)より全国ロードショー
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
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