『ユージュアル・サスペクツ』が映画界に残したものとは?【後編】 ツメアト映画〜エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.33【ネタバレあり】

※筆者註:そろそろ映画の内容に踏み込みたくて仕方がないので、後編からはネタバレありの全開モードで進めさせてください。映画を未見の方は、とにかくまず本編をご覧いただければ! きっと至福の楽しい時間が過ごせると思うので、そのあとまた本稿に戻ってきていただければ幸いでございます。
さて、『ユージュアル・サスペクツ』では、ある事件の容疑者が語り部として配置される。それは米カリフォルニアの港で起こった貨物船爆破事件に関わったとされる詐欺師のロジャー・ヴァーバル・キントだ。“口先のおしゃべり”(=Verbal)という怪しいミドルネームを持つ彼は、捜査官のデヴィッド・クイヤン(チャズ・パルミンテリ)の尋問を受け、6週間前に遡り事件の全貌を詳しく語っていく。
そこから映画はこのロジャー・ヴァーバル・キントの語った内容が、そのまま回想シーンとして提示され展開していくのである。だが、もうお判りのように、まさしくキントこそが“信頼できない語り手”なのだ。それを演じるのが、ケヴィン・スペイシーである。いかにも信頼できなさそうな胡散臭さで満々の彼なのだが、しかし我々観客もクイヤン捜査官と同様に、その巧妙なミスリードにまんまと導かれてしまうのであった。
やがてキントは“カイザー・ソゼ”という謎の大物犯罪者こそが事件の黒幕だと語り出す。実行犯のチームに直接仕事を持ってきたのは、カイザー・ソゼの右腕と名乗る小林弁護士(ピート・ポスルスウェイト)とのこと。“コバヤシ”という日本名なのに、思いっきり白人のオッサンなのが気になるが……。さらにキントの証言は続き、結局クイヤン捜査官は自分なりの結論を出して納得。キントを無罪放免で釈放してしまう。
ところが“信頼できない語り手”である詐欺師キントが話していたことは、全部即興のでっち上げだった。そしてカイザー・ソゼの正体は彼自身であったことが示唆されて、映画は終わる。

ただし! ここで単に「黒幕のカイザー・ソゼは、このキントだったんだね!」だけでスッキリ終わる甘いものでもない。つまり“映像=真実、ではない”という定理が提示された以上、我々はキントが身振り手振りも含めて差し出す“情報”を鵜吞みにすることはできないのだ。こうして本作にまつわる考察は表面的な謎解きを超え、“どんでん返しの向こう側”にまで突入していく。それはもはや哲学の領域かもしれない。あるいはブライアン・シンガー監督&クリストファー・マッカリー脚本のデビュー作『パブリック・アクセス』が、ケーブルテレビを使った“メディアの悪用”を描いた風刺劇であったことを考え併せれば、確かに観たものが実はフェイクかもしれない――というメディアリテラシーについての議論にまで広げることも可能だろう。

こういった一発ネタに終わらぬ、後を引く余韻力こそがリピート鑑賞に耐え得る名作たる所以だ。これは当のシンガー監督やマッカリーでもなかなか二度は届かぬ神の領域と言いたくなる達成だが、しかし後続の映画人たちは『ユージュアル・サスペクツ』のようなミステリーを作りたくてたまらないのだろう。例えばインド映画『女神は二度微笑む』(2012年/監督:スジョイ・ゴーシュ)やドイツ映画『ピエロがお前を嘲笑う』(2014年/監督:バラン・ボー・オダー)など、露骨に影響を受けた作品の登場が世界的に多数見られる。ざっくり定義するなら、全編に様々な伏線を効かせて、“ラストでこれまで観客が受け取ってきた意味や風景がすべて変わる”構造を目指したミステリー映画なら、一様に『ユージュアル・サスペクツ』のツメアトを宿したフォロワーだと考えてよしと断言したい。
あともうひとつ。『ユージュアル・サスペクツ』の別格的な凄さを決定づけたのは、やはりケヴィン・スペイシーの得体の知れぬ不気味な存在感だったのは間違いないだろう。周知の通り、現在はハリウッドの表舞台から遠ざかっている彼だが、『セブン』の殺人鬼ジョン・ドゥといい、1995年のケヴィン・スペイシーは、映画のスクリーンに突如出現したブラックホールのような漆黒のアイコンであった。
『ユージュアル・サスペクツ』
製作年/1995年 製作・監督/ブライアン・シンガー 脚本/クリストファー・マッカリー 出演/スティーヴン・ボールドウィン、ガブリエル・バーン、チャズ・パルミンテリ、ケヴィン・スペイシー
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