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2025.02.22 NEW


【デイヴィッド・リンチ追悼】『マルホランド・ドライブが映画界に残したものとは?【前編】 ツメアト映画〜エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.32

 

 


“火星から来たジェームズ・ステュアート”(by メル・ブルックス)ことデイヴィッド・リンチが、2025年1月16日(現地時間)に地球を旅立った。享年78歳。1946年1月20日、米北西部のモンタナ州ミズーラの地で生を受けた彼は、言うまでもなく“カルトの帝王”の異名を取るオンリーワンの鬼才/奇才映画監督であり、狂ったダイヤモンドのごとき妖しい輝きを放つ異端のアーティストだが、いま改めて驚かされるのは、一般的な人気も知名度も非常に高いということである。

特に日本でのリンチ人気は相当なものだ。1981年の洋画興収No.1を記録した『エレファント・マン』(1980年)……に関しては泣けるヒューマンドラマ(当時は“文部省推薦の感動作”との触れ込み!)という別文脈でのメガヒットだったとしても、やはり大きかったのはドラマシリーズ『ツイン・ピークス』の社会現象級の大ブームである。1990年にアメリカのABCで放送が始まったこのドラマは、翌1991年にWOWOWの開局記念番組として日本上陸。当時のWOWOWは、日本で初の民間衛星放送局として注目を集めており、様々な雑誌の特集記事を“世界で一番美しい死体”こと登場人物ローラ・パーマーが飾った。それらを読みながら、WOWOW契約のカネなどあるはずもないド貧乏学生だった筆者は痛く唇を噛みしめていたが、やがてレンタルビデオ店で借りられるようになると、もう飢えた猿のように飛びついた。しかしお店に並んでいるビデオパッケージには大抵貸し出し中の札が掛かっており、ムキーッ!と何度も床に崩れ落ちていた懐かしい日々をまるで昨日のことのように覚えている。
 
 


「それにしても一九九一年のあの狂騒はなんだったのか? ニューヨーク・タイムズが小生を取材して、日本でのブームの理由を聞かれたが、よくわからない、と答えるしかなかった」「ともあれ、ジョージア・コーヒーのツイン・ピークスCFとか日本は金をかけた悪ノリでも世界一であった」(滝本誠『コーヒーブレイク、デイヴィッド・リンチをいかが』洋泉社、2007年刊行より)。

バブル末期の日本をにぎやかに彩った『ツイン・ピークス』ブームについて、リンチ論の圧倒的第一人者である評論家の滝本誠は以上のように述懐している。「ジョージア・コーヒーのツイン・ピークスCF」というのは、1992年から93年にかけて放送されていた日本コカ・コーラの缶コーヒー『ジョージア』のCM。クーパー捜査官役のカイル・マクラクランも出演し、リンチ自身が総指揮を執った4部作仕立ての超豪華スピンオフ企画だ。しかし実際なぜ、これほどアート性の高いドラマシリーズが極東のお茶の間レベルにまで浸透したのか? 当時は『羊たちの沈黙』(1991年、監督/ジョナサン・デミ)をはじめ、猟奇的なサイコスリラーやミステリー作品が一種のトレンドになっていたことは間違いない。だがその中で『ツイン・ピークス』の特異点は謎を謎のまま放置しており、考察の余地を残したままドラマが展開していったことだ。要は“ワケがわからないのにやたら面白い”――そして思考やディテールへの興味を刺激されるうち、多くの視聴者=中毒者が底なしの沼にずぶずぶハマっていったわけである。言わば当時の『ツイン・ピークス』現象とは、インターネット普及以前の“考察ブーム”だった気がしてならない、というのが筆者のざっくりした見解である。
 
 


さて、ではリンチの映画作品の中では、歴史にツメアトを残した代表作としてどれを選ぶのが相応しいだろうか? 衝撃の長編デビュー作『イレイザーヘッド』(1977年)も、ミニシアターブームを沸かせた『ブルーベルベット』(1986年)も、第43回カンヌ国際映画祭パルムドールを獲得した『ワイルド・アット・ハート』(1990年)も、すべてぶっちぎりの才気がみなぎる傑作だ。率直に申し上げて、筆者個人はどれも大好きである。だが“考察”の愉楽という点を踏まえても、やはり2001年の『マルホランド・ドライブ』にとどめを刺すのではないか。公式的なオールタイムベスト映画のランキングを参照すると、BFI(英国映画協会)の発行する『サイト&サウンド』誌が10年ごとに発表している「史上最高の映画トップ10」の2022年版では堂々の8位(『ブルーベルベット』が84位)。プロパー陣によるリンチ格付けの最上位が『マルホランド・ドライブ』となる。
 
 
ちなみにAFI(アメリカ映画協会)が選出する「アメリカ映画ベスト100」には1998年版に加えて2007年の改訂版にも、リンチ作品は一本もランクインしていない。リンチはAFIの映画学校出身だというのに! 尤も結構古いデータなので改めてアンケートを取れば上位入賞の可能性はあるが、実のところ彼はアメリカでは微妙に冷遇されている節がある。『マルホランド・ドライブ』はもともとドラマシリーズのパイロット版として企画・製作されたものだが、恐ろしいことにABCからボツを喰らった。結局、『ロスト・ハイウェイ』(1997年)や『ストレイト・ストーリー』(1999年)でもお世話になったフランスのスタジオカナルの出資を受けて、長編映画として構想し直し、第54回カンヌ国際映画祭監督賞というヨーロッパでの受賞を経て、米国でも数多くの栄誉を獲得していく。母国ではリンチが本気でギアを入れるほど難解という理由で敬遠されるようで、ほぼ自主映画の形になった『インランド・エンパイア』(2006年)ではポーランドの出資を受け、これが長編映画としてはリンチ最後の監督作となった。
中編に続く
 
 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
Photo by AFLO
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