Safari Online

SEARCH

CULTURE カルチャー

2025.02.22


【デイヴィッド・リンチ追悼】『マルホランド・ドライブ』が映画界に残したものとは?【中編】 ツメアト映画〜エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.32

 

 


しかし『マルホランド・ドライブ』ではどう考えても難解さこそが蜜の味だ。昨年(2024年)の秋に日本でもお目見えし、今年1月24日から全国順次公開の形で追悼上映が始まっている4Kレストア版を堪能された御同輩も多いだろう。紫のバックスクリーンでジルバを踊る若者たちを映し出した冒頭一発から“天才”以外に呼びようのないオーラが強烈に放たれる(曲はアンジェロ・バダラメンティによる『ジッターバグ』)。本編は映画の都ハリウッドの内幕を舞台にした迷宮的ミステリーであり、残酷で甘美な幻想譚である。

真夜中のハリウッド・ヒルズの稜線に沿って走る黒いリムジン。ハリウッド・バビロンの光と影を象徴する道路、マルホランド・ドライブでの自動車事故から生き延びた記憶喪失の女性リタ(ローラ・エレナ・ハリング)と、彼女が助けを求めて潜り込んだハリウッドの大邸宅に滞在する新人女優ベティ(ナオミ・ワッツ)というふたりの主人公をめぐって物語は展開する。この“リタ”という名前は、シャワールームから出たところに貼ってあったフィルム・ノワールの古典映画『ギルダ』(1946年/監督:チャールズ・ヴィダー)のポスターを目にして、主演女優のリタ・ヘイワースから咄嗟に借りたもの。彼女の本名はカミーラ・ローズ。また実はベティの本名はダイアンであり、ベティという名前はダイナー“ウィンキーズ”で働くウェイトレスの名札から取ったものだった……という具合に、全編に張り巡らされた複雑な多層構造を読み解いていく作業が本作の肝となる。
 
 


ハイコンテクストな作品設計だけに、『マルホランド・ドライブ』を存分に楽しむためには、ぜひ押さえておきたい幾つかの基礎教養がある。まずいちばんのベースになっているのは、ハリウッド内幕物の原型的な名作映画『サンセット大通り』(1950年、監督/ビリー・ワイルダー)。ロサンゼルスの中心街から遠く郊外にまで伸びるサンセット・ブールヴァードにある大邸宅で暮らす、過去の栄光に取り憑かれた往年のスター女優の妄執が描かれる。この主人公ノーマ役は、当時51歳で実際キャリアの長期低迷に喘いでいたサイレント映画時代の大女優グロリア・スワンソン。彼女自身の境遇と心境を重ねるように壮絶な名演を繰り広げ、これで第一線へのカムバックを果たし、第23回アカデミー主演女優賞にノミネートされた。『マルホランド・ドライブ』ではある種それと対になるキャラクターとして、売れない下積みの時期が長かったナオミ・ワッツ(当時32歳だが、まだマイナーな存在だった頃の大抜擢だった)が扮した新人女優ベティ(&彼女の正体)が配置されていることに注意しておきたい。
 
 


もうひとつ、サブテーマ的に絡んでくるのが『めまい』(1958年、監督/アルフレッド・ヒッチコック)だ。この眩惑的ミステリーは『氷の微笑』(1992年、監督/ポール・ヴァーホーヴェン)や『別れる決心』(2022年、監督/パク・チャヌク)など膨大な後続群に影響を与えまくっている神映画であり、ジェームズ・ステュアート扮する刑事が謎めいた女性に激しく翻弄されていく展開。その運命の女性を、キム・ノヴァクがマデリン/ジュディというふたつの名前で演じている。『マルホランド・ドライブ』では、ブルネット(黒髪)のリタ/カミーラと、ブロンド(金髪)のベティ/ダイアンの愛憎関係が物語の軸になっており、リタが金髪のウィッグを被ってベティの分身のように変装したりと、幾層にも“Wヒロイン”のイメージをシャッフルしている点で『めまい』の大胆な応用・培養形と言える。またローラ・エレナ・ハリング&ナオミ・ワッツの女性同士のラヴシーンは公開当時も話題を呼び、LGBTQ+の見地から『マルホランド・ドライブ』を高く評価する声も多い。

あとはリンチの大好きな『オズの魔法使い』。ジュディ・ガーランド主演の『オズの魔法使』(1939年、監督/ヴィクター・フレミング)から、日本では2025年3月7日より劇場公開となるシンシア・エリヴォ&アリアナ・グランデ主演の『ウィキッド ふたりの魔女』(2024年、監督/ジョン・M・チュウ)まで関連映画も多く、もはやアメリカン・カルチャー全体の基礎教養と言える児童文学だ(1900年刊行)。『マルホランド・ドライブ』にもそのエレメントは当然組み込まれており、例えば先述したダイナーの“ウィンキーズ”はオズ王国のひとつ、ウィンキーが由来だったりする。
後編に続く

 
文=森直人 text:Naoto Mori
Photo by AFLO
Urban Safari CLOSE-UP BRAND フレデリック・コンスタントエレガントな時間を、手元に宿す。
SPONSORED
2025.11.28

Urban Safari CLOSE-UP BRAND フレデリック・コンスタント
エレガントな時間を、手元に宿す。

創業地“小矢部”の名を冠した〈ゴールドウイン〉のプレミアムな1着!大人のスキーウエアは上質感と快適さで選ぶ!
SPONSORED
2025.12.01

創業地“小矢部”の名を冠した〈ゴールドウイン〉のプレミアムな1着!
大人のスキーウエアは上質感と快適さで選ぶ!

1950年にはじまった〈ゴールドウイン〉のヒストリー。その新作スキーウエアコレクションの名前は、創業地にちなんだ“オヤベ”だ。歴史の深みを感じさせ、エイジレスなスタンダードデザインでありながら、機能は最新鋭。素材はもちろん、ひとつひとつの…

TAGS:   Fashion
初登場HYDEが〈ハリー・ウィンストン〉をまとう!カリスマに似合うのはいつも最高峰の輝き!
SPONSORED
2025.11.25

初登場HYDEが〈ハリー・ウィンストン〉をまとう!
カリスマに似合うのはいつも最高峰の輝き!

一流は一流を引き寄せるとは、よくいわれること。ロックアーティストHYDEがまとったのは“キング・オブ・ダイヤモンド”として名高い、世界最高峰のジュエリー&ウォッチブランド〈ハリー・ウィンストン〉。常に最高を求め続ける両者が出会うと、どんな…

TAGS:   Fashion Watches
〈タトラス〉で見つけたここぞの1着!さりげに違い出しできる大人の冬アウター
SPONSORED
2025.11.25

〈タトラス〉で見つけたここぞの1着!
さりげに違い出しできる大人の冬アウター

冬カジュアルの主役であるアウターは、さりげなく違いが出せる1着を選びたい。そこで注目すべきなのが、大人のための上質な冬アウターに定評のある〈タトラス〉。定番ベースのシンプルなデザインを基本としつつ、街ゆく人をハッとさせるさりげない“違い”…

TAGS:   Fashion
〈サンローラン〉なら小さくても格上感あり!大人の革小物はさりげなロゴ使いで!
SPONSORED
2025.11.25

〈サンローラン〉なら小さくても格上感あり!
大人の革小物はさりげなロゴ使いで!

普段、バッグや靴ほど目立たないが、意外とセンスを問われるのが財布などの革小物。大人ならシンプルながらも品があって、さりげない上質感のあるものが狙いめだ。となれば〈サンローラン〉の革小物を。小ぶりなアイコンロゴがピリッと効いた財布やカードケ…

TAGS:   Fashion
俳優・桜田 通が〈ベル&ロス〉の希少な限定モデルをつけこなす!“赤き情熱”と“煌めく緑”の衝撃!
SPONSORED
2025.11.25

俳優・桜田 通が〈ベル&ロス〉の希少な限定モデルをつけこなす!
“赤き情熱”と“煌めく緑”の衝撃!

航空計器から着想を得た革新的なデザインが人気の〈ベル&ロス〉から、2本の限定モデルが登場した。情熱的な輝きを放つダイヤルの赤と闇夜にクールに浮かび上がる蓄光の緑。異なる魅力を宿す2本のパワーウォッチがファッションシーンでも注目を集める俳優…

TAGS:   Fashion Watches
大人にこそ持ってほしい〈フルラ〉の新作!冬カジュアルに効く品格バッグ!
SPONSORED
2025.11.25

大人にこそ持ってほしい〈フルラ〉の新作!
冬カジュアルに効く品格バッグ!

大人の冬カジュアルに欠かせない名脇役がバッグ。どんな着こなしにも似合う上質なバッグがあれば、気分よく外出できるというもの。そこでおすすめしたいのが、〈フルラ〉の新作として登場した“アーバン バックパック”。コートなら背負って、短丈ブルゾン…

TAGS:   Fashion
機能美が所有欲をくすぐる〈アシックス〉のワーキングシューズ!こだわる男のための次世代ワークブーツとは!?
SPONSORED
2025.11.25

機能美が所有欲をくすぐる〈アシックス〉のワーキングシューズ!
こだわる男のための次世代ワークブーツとは!?

男のカジュアルウエアは、ワークやミリタリーをモチーフにしたタフで骨太なアイテムが定番。それは服だけでなく、足元も同じだ。とはいえ往年のワークブーツなどでは、履き心地やスペック的に現代の暮らしにフィットしない!? ならば、〈アシックス〉のワ…

TAGS:   Fashion
“とっておき”を、自分にも、大切な人にも!“上質”を贈りたい 大人のギフト!
SPONSORED
2025.11.25

“とっておき”を、自分にも、大切な人にも!
“上質”を贈りたい 大人のギフト!

クリスマスに忘年会、そしてニューイヤー……年末年始は、特別なギフトシーズン。頑張った自分へのご褒美に、大切な人に感謝を込めて、“とっておきの上質”を贈りたい。自分の身と心を一新させるようなワザありの逸品から、相手の顔が思わずほころぶ名品ま…

建築家・クマタイチが〈バルミューダ〉で発見。豊かな暮らしをデザインする、加湿器の新しい選択。
SPONSORED
2025.11.14

建築家・クマタイチが〈バルミューダ〉で発見。
豊かな暮らしをデザインする、加湿器の新しい選択。

〈バルミューダ ザ・ストア 青山〉を訪れた建築家・クマタイチさん。暮らしに寄り添う建築を数多く手掛けてきたからこそ、関心を寄せたのは新しい加湿器“レイン”だ。ただ湿度を調整するだけでなく、暮らしを豊かに導くための機能や造形美を兼ね備えた“…

素材感と職人技が光る〈アニアリ〉。ミニマルに洗練されたジャパンメイドのトートバッグ。
SPONSORED
2025.11.18

素材感と職人技が光る〈アニアリ〉。
ミニマルに洗練されたジャパンメイドのトートバッグ。

上質なレザーのしなやかな感触と使い勝手の良さで支持を集めている〈アニアリ〉のバッグ。ミニマルで洗練されたデザインは、装いを自然に洗練されたものへと導いてくれる。また、確かな日本の職人技に裏打ちされた使いやすさと安心感が、使うほどに深まる風…

TAGS:   Urban Safari Fashion

loading

ページトップへ