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CULTURE カルチャー

2024.09.21


【映画】設立30周年のサーチライト・ピクチャーズは何がすごい!?②新人にチャンスを与え、ベテランには独自世界を追及させる


『(500)日のサマー』(2009年)

映画スタジオの目的は、観客を楽しませる映画を届けること。その結果として、大きな収益を上げること。しかし、もうひとつ重要な役割がある。それは新たな才能を発掘することだ。大作を重視するメジャースタジオの場合、新人監督の起用はリスクも伴う“賭け”になる。そこで期待されるのは、インディペンデント系の会社。サーチライト・ピクチャーズは、新たな才能にチャンスを与えることに積極的で、しかもその作品を成功させる確率が高い。そんなスタジオとしても人気をキープしている。
 

  

 

『マクマレン兄弟』(1995年)

サーチライトが設立されたのは1994年。記念すべき第1作となる『マクマレン兄弟』を監督したのは、その後、俳優としても活躍するエドワード・バーンズだった。それまで短編映画を何本か製作していたバーンズが、自ら監督・脚本・主演を担い、キャストには友人や親戚を起用。撮影を自宅で行うなど、手作り感満点の『マクマレン兄弟』は、サンダンス映画祭で審査員大賞を受賞。サーチライトが自社の第1作として配給したこの作品は、まさに新たな才能を世に知らしめるという、インディペンデント系スタジオの象徴となった。

ちなみにサーチライトには製作から関わる作品と、配給のみを手がける作品があるが、そのすべてが“サーチライト作品”として扱われている。

『マクマレン兄弟』のエドワード・バーンズは、コンスタントに監督作を発表し続けたが、彼のようにサーチライトが初長編監督作をバックアップし、才能を開花させた例は数多い。たとえば、マーク・ウェブ。それまでミュージックビデオに関わってきたウェブは、初長編映画としてサーチライトの下で『(500)日のサマー』(2009年)に着手。時間が行き来する斬新なスタイルによって、男子目線で共感度たっぷりのラヴストーリーを完成させた。15年前の作品ながら、今も世界中で愛され続けている。この成功によって、ウェブは次に『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)という超大作の監督に抜擢される。サーチライトの新人監督発掘の最高のサンプルとなった。同シリーズ2作を手がけた後、ウェブは再びサーチライトに戻って『Gifted/ギフテッド』(2017年)を撮った。サーチライトへの恩を感じたのはもちろんだが、メジャースタジオでは作れない自分の原点に戻りたかったのだと推察できる。
 

  

 

JUNO/ジュノ』(2007年)

その他に、『ゴーストバスターズ』(1984年)などのアイヴァン・ライトマン監督の息子、ジェイソン・ライトマンも、長編監督デビュー作の『サンキュー・スモーキング』(2005年)がサーチライト作品。タバコ業界を巡る社会派の風刺コメディで、監督の才能が高く評価された。ライトマンは2作目の『JUNO/ジュノ』(2007年)もサーチライトで撮り、アカデミー賞監督賞にノミネートされる。サーチライトが名監督への道を切り拓いたわけだ。ライトマンの最新作『Saturday Night(原題)」は、超人気番組『サタデー・ナイト・ライヴ』の初回放送時の舞台裏を描き、次のアカデミー賞に向けた賞レースでも最有力の一本になっている(これはサーチライト作品ではない)。

サーチライトは、俳優から監督への転身も精力的にバックアップしている。『E.T.』(1982年)などの名子役だったドリュー・バルモア。その初監督作『ローラーガールズ・ダイアリー』(2009年)はサーチライトの製作。人気ドラマ『デスパレートな妻たち』で知られる俳優のエヴァ・ロンゴリアも、2023年に『フレーミング・ホット! チートス物語』で監督デビューしたが、これもサーチライトが製作から関わっている。タイトルにある人気スナックの会社でのサクセスストーリーで、アカデミー賞では主題歌賞にノミネートされた。また監督への転身ということでは、今後、“超大型”新人監督が誕生しそう。あのテイラー・スウィフトだ。14分の短編で監督・脚本を務めたことがあるスウィフトが、満を持してサーチライトの下で長編監督作を撮る予定。詳細は明らかになっていないが、世界的な話題になるのは必至だ。
 

  

 

『ダージリン急行』(2007年)

また新人発掘とは違うが、一度サーチライトと仕事をした監督が、再び新作で手を組むパターンもかなり目につく。『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)でアカデミー賞作品賞・監督賞に輝いたギレルモ・デル・トロは、次の『ナイトメア・アリー』(2021年)もサーチライトが製作。2作続けてアカデミー賞作品賞ノミネートを果たした。映画ファンに人気の高いウェス・アンダーソン監督も、サーチライトとの関係は深い。『ダージリン急行』(2007年)、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)と2本がサーチライト製作。後者は、その独自の映像センスでアンダーソンの代表作となり、アカデミー賞作品賞など9部門ノミネートで4部門受賞。その次の監督作で、日本を舞台にしたストップモーションアニメ『犬ヶ島』(2018年)は、製作は別のスタジオながら、世界配給をサーチライトに任せた。アンダーソンの信頼の証である。

新人監督を発掘し、才能を引き出しつつ、ベテラン監督には心ゆくまで独自の世界を追求させる。そんなサーチライトの精神が、映画ファンが愛してやまない傑作を次々と誕生させている。
※続きは、③自由な作風と先見性
 

  

 

 
文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito
Photo by AFLO
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