1920年代のハリウッド・ゴールデンエイジ。映画製作のシステムもまだ過渡期で、富と名声を得るために集まってきた人々は夜な夜な酒と薬とセックスに明け暮れる。カオスな歴史絵巻『バビロン』(2022年)の監督、デイミアン・チャゼルが目指した誰も見たことがないようなハリウッドを再現する上で、衣装の存在は大きい。もはやこのフレーズはこのコラムの常套句になってしまった感がある。それはそうだろう。衣装ほど時代の空気を映し出すのに効果的なアイテムはないのだから。
過去の代表作に1970年代のテニスウェアとタウンウェアをリメイクした『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2018年)があり、チャゼルとは『ファーストマン』(2019年)で組んだことがある衣装デザイナーのメアリー・ゾフレスは、6人のメインキャラと250人のエキストラのために、’20年代に流行ったビーズのフラッパードレスやクローシュハット(ツバがやや下向きで釣鐘型の帽子)など、ウィメンズのために時代に忠実でありながら同時に新しい衣装(ここ大事)を大量にデザイン。
それはそれで見応え充分なのだが、ここで取り上げたいのは勿論、ブラッド・ピットが演じる無声映画の大スター、ジャック・コンラッドのワードローブだ。何しろ本作でのブラッドはカッコよすぎ。すべての出演場面で恍惚としていて、そのスタイルはメンズマガジンのグラビアかと思うくらい光り輝いている。
ゾフレスはコンラッドのモデルと言われている当時のスーパースター、ジョン・ギルバートの宣伝用スチールをひっくり返し、全身クリーム色のスポーツウェアやサイジングが完璧なタキシード等、うっとりするような衣装を、ブラッドのためにカスタムメイド。タキシード、シャツ、セーターはすべて手縫いで仕上げられている。なかでも、コンラッドがジーン・スマート扮するゴシップライター、エリノアのインタビューを受けるシーンで着るブルーのショールカラーのセーターは、思わず服が時を飛び越えてやって来たと錯覚するほど。セーターの首元に覗く同じブルーのシャツとのバランスも完璧だ。
ブラッド=コンラッドは他にも、白いタンクとトランクスのまま、バルコニーの手すりから外に転がり落ちるというキラーショットも披露している。タンクがブラッドの大胸筋にピッタリで、トランクスが太腿をいい塩梅に隠しているのは言うまでもない。下品になってしまったら台無しなのだ。タキシードから下着まで、本作のブラッド・ピットはメンズファッションはこうあるべき!という理想型を楽しみつつ体現しているようだ。
『バビロン』
製作年/2023年 製作総指揮・出演/トビー・マグワイア 監督・脚本/デイミアン・チャゼル 出演/ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、オリビア・ワイルド
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photo by AFLO