『グランツーリスモ』
製作年/2023年 製作総指揮・脚本/ジェイソン・ホール 製作・監督/ニール・ブロムカンプ 出演/デヴィッド・ハーバー、オーランド・ブルーム、アーチー・マデクウィ、ジャイモン・フンスー
ゲーマーがリアルなレーサーに挑戦!
“この作品は実話を基にしています”というフレーズは、映画を選ぶうえでのひとつのポイント。その実話自体の意外性が大きければ大きいほど映画も楽しみになる。『グランツーリスモ』は、まさにそんな一本。自宅でゲームに夢中になっていただけの主人公が、なんとル・マンにも出場するプロのレーサーになってしまうのだから! イギリスに住むヤンが、プレステのレーシングゲーム『グランツーリスモ』の才能を認められ、本物のプロレーサーを育成するプログラムに誘われる物語。クルマの運転経験はゼロだった彼が、コントローラーを本物のハンドルに持ち替えて、サーキットでのレース出場を目指す。
ゲーマーから世界トップレーサーへの転身という点で、実話の中でも“まさか”の度合いがハイレベル。プレステや日産自動車が深く絡んでくるので、日本人にとってもリアルなサクセスストーリーと感じられるはず。もちろん各地のサーキットでのレースシーンは臨場感たっぷりだし、主人公のモデルになったヤン・マーデンボロー本人が、スタントドライバーとして撮影に協力するなど、実話ならではのネタもたっぷり。さらに青春映画としての瑞々しさも兼ね備え、誰もが共感してしまう仕上がりなのもポイント!
Ⓒ2022 UNIVERSAL STUDIOS
『コカイン・ベア』 9月29日より公開
製作年/2023年 製作・監督/エリザベス・バンクス 脚本/ジミー・ウォーデン 出演/ケリー・ラッセル、マーゴ・マーティンデイル、レイ・リオッタ、オールデン・エアエンライク 配給/パルコ ユニバーサル映画
バチバチにキマってるクマが大暴走!
ただでさえ凶暴な本能をもったクマが、コカインを吸ってハイになったら……? 映画としてはあまりに突飛。ありえないネタなのだが、これが“事実”と聞けば驚くしかない! 1980年代、アメリカの森の中で発見されたクマの死体を解剖したところ、胃が15kgのコカインで膨れ上がっていたという。その数カ月前、コロンビアから大量のコカインを積んだ密輸業者の飛行機が森の上空を通過し、コカインを詰めたバッグを地上に投下。仲間に回収させようとしたが、どうやらクマに食べられてしまったらしい。嘘のような本当の話。コカインを摂取したクマが“こうなっていたかも”という仮定で作られたのが本作だ。
静かな森を歩くハイカーが襲われる冒頭から、クマの暴走はノンストップで加速。スケッチのために森の奥へ向かった少女や、森林公園のレンジャー、地元のチンピラ、そしてコカインを回収する麻薬王の一味とそれを追う警察ら、登場する人間たちが次々とクマのターゲットとなり、容赦ない描写もたっぷり。この手のモンスターパニック映画らしく、恐怖を通り越して笑いを誘うブラックな味わいも満点。基本的に“ありえない”展開のようで、日本でも家畜にまで被害をおよぼすクマがニュースになったりしており、身近な事件としてドキドキしながら観てしまう人も多いのでは!?
『運び屋』
製作年/2018年 原案/サム・ドルニック 製作・監督・出演/クリント・イーストウッド 脚本/ニック・シェンク 出演/ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ、アンディ・ガルシア
クライム作品なのにホッコリする!
意外な人物が、意外なことをやってのけていた。これも実話を基にした映画の、ひとつの特徴。本作の主人公は、元軍人の園芸家。ユリの栽培を得意としていたが、販売の主流がネットになると対応できず、時代から取り残されてしまう。80歳を過ぎた彼が請け負ったのが、国境の向こうのメキシコへ行き、麻薬の運んでくる仕事。もちろん違法だが、まさか老人がそんなことに手を染めていると思われず、どんどん成功を重ねていく。そんな男の人生がニューヨーク・タイムズに掲載され、その記事を映画にしたのが『運び屋』だ。
監督、および主演を務めたのがクリント・イーストウッド。日本兵を描いた『硫黄島からの手紙』の時代から、『インビクタス/負けざる者たち』『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』など、イーストウッドの監督作は実話やノンフィクションの映画化がやたらと多い。まさに実話映画の大巨匠と言っていい存在。そんなイーストウッドの実話映画の中でも、本作は最も優しく、軽やかなイメージ。老人の運び屋をイーストウッド自身が飄々としたムードで演じており、特殊なシチュエーションの犯罪ムービーなのにホッコリしてしまうから不思議!
『幸せへのキセキ』
製作年/2011年 原作/ベンジャミン・ミー 製作・監督・脚本/キャメロン・クロウ 出演/マット・デイモン、スカーレット・ヨハンソン、トーマス・ヘイデン・チャーチ、エル・ファニング
素人が動物園を立て直す!
実話を基にした映画と聞くと、知られざる事実に衝撃やサプライズを受けるパターンを想像しがちだが、希望や感動が前面に打ち出される作品も多い。本作はタイトルからわかるように、“幸せ”への予感が漂うドラマだ。妻を亡くして悲嘆にくれるベンジャミンは、新たな人生をスタートさせようと、14歳の息子、7歳の娘とともに郊外への引っ越しを決意。新居の隣は資金難のために閉鎖された動物園で、ベンジャミンは飼育員らとの交流から動物園の再オープンを人生の目標にする。新たなチャレンジ精神が奇跡を生み出すこの物語は、モデルとなったベンジャミンの回顧録が原作。
原題は『We Bought a Zoo(僕らは動物園を購入した)』というストレートなもの。経営はシロウトの主人公が動物園を立て直すなんて、ある意味、無茶。もちろん山あり谷ありの連続なのだが、その苦闘を通してベンジャミンと子供たちの絆がゆっくり回復していく流れが観ていて心地よい。ベンジャミンを演じるマット・デイモンは、やや不器用だが誠実なこの手の役がぴったりだし、飼育員のリーダー、ケリー役がスカーレット・ヨハンソンなので、ベンジャミンとの揺れ動く関係に観ているこちらの心をときめかせる。実話であることも忘れさせる、ハートウォーミングなムードに満ちた良心作だ。
『ミッドナイト・エクスプレス』
製作年/1978年 原作・ウィリアム・ホッファー、ビリー・ヘイズ 監督/アラン・パーカー 脚本/オリバー・ストーン 出演/ブラッド・デイビス、アイリーン・ミラクル、マイク・ケリン、ジョン・ハート
海外で収監されるとどうなる!?
実話を基にした映画は、大きな波紋を起こすこともある。映画を面白くするために、事実に反するエピソードをどこまで入れていいのか? つまり“脚色”が許されるかが問題になるが、本作はそんな一本。アメリカ人旅行者のビリー・ヘイズが、麻薬不法所持のためにイスタンブール空港で拘束される。トルコの刑務所に入れられた彼は、所内で過酷な試練を強いられたうえに、刑期が30年に決定。脱獄を試みることに……。原作となったのは、事件の当事者となったビリーの手記。1970年に逮捕され、1975年に脱獄を決意。そして映画が1978年に完成と、時代をリアルに再現した作りは、いま観ても色褪せない。
ビリーが看守に性的暴行を受けるなどショッキングな描写も多いが、このあたりはビリーの手記の真偽が論争になった。ただ、麻薬に厳しい国での過ちは人生を台無しにするという教訓を、この映画が日本をはじめ世界に知らしめたのは事実。その意味で公開当時は大きな話題になった。ビリーが恋人と面会するシーンは、今も語り草。異様なレベルで心をざわめかせるので、ぜひその目で確認してほしい。本作がきっかけではないが、完成直後に、アメリカとトルコの犯罪人引き渡し条約が締結され、その意味でも重要な“実話映画”である。
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photo by AFLO