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CULTURE カルチャー

2023.09.09

ファッションの源流を紐解く、あのカルチャーの発火点。
#2 サーフトランクスを巡る、2人の日本人の物語(後編)

毎回ひとつの服を取り上げて、古今東西の社会やカルチャーとどんな風に関わってきたのか、詳しく紐解いていくのが当コラム。今回は、サーフィンに欠かせない“サーフトランクス”について!

 

 

1960年代のカリフォルニアのサーフシーン

“どちらが先か”を巡る勝手な考察
複雑なのはここからである。サーフトランクスは”テイラー・ニイ”がはじめて作ったと書いたものの、その事実を裏付けるには、もうひとつ検証すべきことがある。カリフォルニアの老舗ブランド〈ケイティン〉の存在だ。おそらく多くのサーファーたちは、このブランドこそがサーフィンの歴史そのものと考えているはず。もちろん、その点にケチをつける要素はひとつもない。アメリカにおけるサーフ産業の先駆けであり、現在に至るまでストイックかつ良心的なモノ作りを実践しているブランドである。

〈ケイティン〉のトランクスが世界中のサーファーに愛され、’60年代のサーフィン人気を支えたのは紛れもない事実。そのトランクスの誕生ストーリーはこうだ。’50年代後半(一説には’57年)、キャンバス地のボート用カバーを作っていた〈ケイティン〉に、近隣に住む青年サーファーが訪ねてくる。彼は「ハードな波乗りをしても、すぐに破けないパンツが欲しい」という。そこでボートカバー用のキャンバス生地で縫い上げたのが、〈ケイティン〉のサーフトランクスだったーー。

ここでまず気になるのが、’50年代後半という時代感だ。カリフォルニアのハンティントン・ビーチでジョージ・フリースが“水の上を歩く男”のパフォーマンスをしたのは1914年のこと。彼はアメリカ本土で初のサーファーとされた。また、カハナモクのようなレジェンドも’20年代には西海岸でサーフィンを披露している。カリフォルニアのサーフシーンは早くから花開き、’40年代から’50年代にかけて、それなりの盛り上がりを見せつつあった。 

 
 

 

1960年代のカリフォルニアのサーフシーン

ただ、そうしたカリフォルニアのサーファーたちのうちの誰かは、きっとハワイへのサーフトリップを敢行したはずだと思うのだ。そこで“テイラー・ニイ”のマカハ・ショーツを目にした、あるいは購入した人物がいてもおかしくはない。むしろ当時のサーフィン事情を考えれば、その方が理にかなっているのではないだろうか。マカハ・ショーツの話を聞いたか、実物を目にした“青年”が、同様のトランクスを求めて〈ケイティン〉に相談したーーそんな推測が成り立つのである。

そしてもうひとつ気になるのは、〈ケイティン〉を訪れた“青年”とは一体誰のことなのかということ。それは現在も『コーキー・トランクス』として商品名になっている、コーキー・キャロルその人だ。’60〜’70年代に活躍した最も有名なサーフ・レジェンドのひとりであり、世界で初めてプロサーファーになった人物でもある。

ところが、キャロルが生まれたのは1947年なので、’50年代を過ごしたのは3歳〜13歳。記録に残るキャリアは’59年にはじまっているから、ローティーンにして優れたサーファーだったことは間違いない。でも小学生か、せいぜい中学1年生くらいの子が、いくら近所に住んでいたとはいえ、ボートカバーを作っていた〈ケイティン〉にオリジナルのトランクスを依頼するものだろうか。さらにいえば、それが歴史に名を残すような完成度の製品になっただろうか。

実際のところは、ご本人に聞いてみないとわからない。けれども、やはり個人的には“テーラー ・ニイ”のトランクスを見た(または話を聞いた)キャロル少年が、似たようなものを作れないかと相談したのが実情ではないかと思うのだ。もちろん、これは筆者の勝手な考察だし、何が良い悪いという話じゃないことは断っておく。

伝説的ブランドを支えた日本人女性
“どっちが先か”を巡る勝手な考察はさておき、この〈ケイティン〉がある日本人女性に支えられてきたことをご存知だろうか。〈ケイティン〉の創業は1954年だが、先ほども触れたように、もともとはキャンバス地のボートカバーを作る会社だった。それが’50年代後半以降、サーフトランクスの大ヒットで一気に転換。当然ながら手が足りなくなり、近くの工場で働いていたサト・ヒューズという日本人女性にサポートを依頼した。これが’61年のことである。

それから少なくとも2018年の御年90歳まで、サトさんは〈ケイティン〉のトランクスをハンドメイドで作り続けてきたのである。生地をハサミでカットし、ミシンで縫い合わせる。その地道な作業の繰り返しが、世界中のサーファーを支え続けてきたのだ。サトさんは後に創業者夫妻から会社を託され、ブランドのオーナーにもなっている(現在は別の方がオーナー)。ご本人は「十分な英語が話せないから」と断り続けたそうだが、オーナー夫妻の死去にともない、なかば仕方なく引き継いだそうだ。
 

 
おそらく日系2世と思われるニイ・ミノルさんもそうだが、このサト・ヒューズさんにしても、自らの技術だけを頼りに、異国の地でひたむきに生き抜いた方々がいたことは、是非とも記憶にとどめておきたい。そしてそんな日々の積み重ねが、サーフカルチャーの根幹を作ってきたということも。あなたがサーファーだろうと、そうじゃなかろうと、こうした歴史に少しでも興味をもっていただけたら嬉しい。

最後に、おすすめのサーフィン映画を挙げておきたい。『ライフ・オン・ザ・ロングボード』(2005年)という日本映画である(※9月5日現在、アマゾン・プライムビデオで配信中)。2018年に続編(世界観を共有した作品)が作られており、そちらはどちらかというとストーリー性重視。サーフィンの楽しさがストレートに伝わるという意味では、第1作の方を推したいところだ。当時かなりのヒットとなり、日本各地で中年サーファーが一気に増えたとか。

生真面目な55歳の男が早期退職し、種子島でサーフィンを習うお話……といったら身も蓋もないけども、主演の故・大杉 漣さんが味わい深い。島のレジェンド・サーファーである勝野 洋さんにサーフィンを教えてもらうのだが、大杉さんと一緒に習っているようで、妙な臨場感がある。だいぶ前の作品なので古臭さは否めない。それでもなかなかの良作で、とりあえず筋トレくらいははじめる気になるはずだ。 
 

参照
https://orangecoast.com/2018/sato-hughes-kanvas-katin
 

 

 
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文=野中邦彦  text : Kunihiko Nonaka
photo by AFLO
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