パット(ブラッドリー・クーパー)
このコラムのコンセプトである”憧れて”というのとは少し違うかもしれないが、『世界にひとつのプレイブック』(‘12年)で主演のブラッドリー・クーパーがダイエットのために羽織る黒いゴミ袋は格安な上に斬新さがあってけっこうオススメだ。
クーパーが演じる主人公のパットは妻の浮気現場を目撃してキレまくり、浮気相手をボコボコにしてしまったことから躁鬱病の診断を受け、8カ月間の療養を終えたばかりだ。事件が原因で離婚した元妻と何とか連絡を取りたいパットは、元妻の友人で同じく心理療法を受けているティファニー(ジェニファー・ローレンス)に連絡係をしてもらう代わりに、彼女が得意な社交ダンスのパートナーを務めることになる。2人はダンスコンテストに出場して悩み多き日々から訣別しようとするが。
問題のゴミ袋はパットが長い療養生活で崩壊した体型を取り戻すためにランニングで汗を流すシーンに登場する。パットは地元のフィラデルフィアに本拠地を置くNFLの人気チーム、イーグルスのファンという設定だから、手にはフットボール、そして、スウェットの上にはゴミ袋を重ね着して、趣味と実益を兼ねた効率のいいダイエットに挑戦している。
実はこのゴミ袋、マシュー・クイックの原作にも描かれているアイテムだ。そしてこのゴミ袋、よく見るとなかなか凝った作りになっさている。何しろ、デザインしたのは『アーティスト』(2011年)と『ファントム・スレッド』(2017年)で2度アカデミー衣装デザイン賞を受賞しているマーク・ブリッグスが、パットのために考案した逸品なのだ。ブリッジスはパットが身を置く労働者階級の世界観と、人生を取り戻すためなら何だってやってやるという献身的な姿を、黒いビニールのゴミ袋に投影させている。しかし、ビニールはどうしたってパリパリと音を立ててしまい、それをマイクが拾うと映画にならない。そこで、ブリッジスは特別な消音装置を袋に付けることで問題をクリア。こうして、音を立てないゴミ袋がリテイク等を見越して5~6着(枚?)作られた。そう思うと、衣装作りのプロのアイデアが詰まったブラッドリー・クーパーのゴミ袋は憧れの対象、と言って差し支えないのではないだろうか。
『世界にひとつのプレイブック』
製作年/2012年 原作/マシュー・クイック 監督・脚本/デヴィッド・O・ラッセル 出演/ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロ、クリス・タッカー
photo by AFLO