写真左/マーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)
アメカジ好きの人たちは今から13年前にデヴィッド・フィンチャーが監督した『ソーシャル・ネットワーク』のファッションを見て、何を感じるだろうか?
2003年当時、ハーバード大学の2年生だったマーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)が、振られた腹いせに学内のPCをハッキングし、女子学生の顔の格付けサイトを立ち上げ、やがてそれがフェイスブック(現・Meta)の創業に繋がるというお話。
『アンタがモテないのはオタクだからじゃなくて、性格が最低だからよ』と言われ、怒りに任せて立ち上げたサイトが大学の査問委員会で問題になり、保護観察処分を喰らうザッカーバーグだが、彼はやがてSNS時代の先駆者になっても尚、ダボダボのシャツとサイズが合ってないジーンズを手放さない。仕立ての良いスーツになど目もくれず、フード付きのスウェットシャツ、〈アディダス〉のスライドや〈ザ・ノース・フェイス〉のフリース、そして、足元にはクタクタの白いチューブソックスを覗かせていたりする。
パジャマ姿でベンチャーキャピタルとのミーティングに参加する企業家なんて、今ならあり得ないが、ザッカーバーグはそんなダボダボ楽ちんファッションをトレードマークにして、既存の企業家イメージを大胆に一新したというのが、フィンチャーの、そして彼の指示に従って衣装製作に奔走した衣装デザイナー、ジャクリーン・ウエスト(『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』『DUNE/デューン 砂の惑星』 ほか)の見解だ。そして、それは事実でもある。
フィンチャーがアイゼンバーグと同じ時期にハーバードに通ったことがある人物との縁を辿って、演出する上でその人となりを参考にする一方で、ウエストは大学時代のザッカーバーグが〈ギャップ〉のスウェットを着ている写真を発見して、それをまんま映画で再現。また、ザッカーバーグが長く履き続けた〈アディダス〉のスニーカーやビーチサンダルを用意することも忘れなかった。結果的に、『ソーシャル・ネットワーク』は実在の人物のワードローブをヒントにオフィスのカジュアル化を提案した、隠れた”ファッション・ムービー”と捉えることもできるのではないだろうか。
キャメロン&タイラー・ウィンクルヴォス(アーミー・ハマー)
写真左/ショーン・パーカー(ジャスティン・ディンバーレイク)
ちなみに、ザッカーバーグとは対極にあるキャラクターで、ハーバードのボード部に属する双子のエリート学生、キャメロン&タイラー・ウィンクルヴォス(アーミー・ハマー)はご愛用の〈ブルックス ブラザーズ〉で、フェイスブックを共に立ち上げたザッカーバーグと親友のエドゥアルド・サベリンの関係性に深に影を落とすことになるSNSの創始者、ショーン・パーカー(ジャスティン・ディンバーレイク)は、〈ジョルジョ・アルマーニ〉のカスタムメイドで登場する。そこの対比にも、”オフィスでアメカジ上等”という作り手の意図が感じられる。
『ソーシャル・ネットワーク』
製作年/2010年 製作総指揮/ケヴィン・スペイシー 原作/ベン・メズリック 監督/デヴィッド・フィンチャー 脚本/アーロン・ソーキン 出演/ジェシー・アイゼンバーグ、アンドリュー・ガーフィールド、ジャスティン・ティンバーレイク、アーミー・ハマー
photo by AFLO