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CULTURE カルチャー

2025.03.20

『劇団四季創立70周年を超えて 浅利慶太が目指した日本のブロードウェイ』著者特別寄稿!
オリジナル作品『ミュージカル李香蘭』創作秘話【後編】

本書でも「歴史の真実の一コマとして」という副題をつけて記されている『ミュージカル李香蘭』は、著者の梅津 齊さんにとって強く記憶に残る作品とのこと。演出家の意図への賛同もちろんだが、観客が歴史に興味を持つきっかけにもなり得るのではないかというミュージカルの可能性を感じたからだ。そんな作品の創作の秘話を2回に分けて著者が振り返る。その後編。

オリジナル作品『ミュージカル李香蘭』創作秘話【後編】


【前編】はこちら
白土(吾夫)氏の帰国報告は驚くことばかりだった。中国側ははじめ佐藤政権に期待をしていたが途中で諦めたというのである。以前佐藤(栄作)さんが使っていた同派の者は、中国は文化大革命の混乱で、日本は小笠原諸島、沖縄の返還交渉に手間取っている間にいつしか問題を放り出してしまっていた。そのうえ周恩来首相の右腕で最も信頼している窓口の南漢宸さんが紅衛兵に捕まり三角帽子を被せられ、大衆の前でリンチを加えられ罪を認めさせられる。南さんはその後、屈辱に耐えかねて自殺してしまう。紅衛兵のあげつらった罪状は祖国を売った“売国奴”ということだった。周首相には南さんを裏切った形の日本への怒りと佐藤さんへの不信感が宿ったというのである。

佐藤さんは深い悲しみに沈みながら「南漢宸さんには誠に申し訳ないことをした。当時のことを率直にお話ししたい。南さんと接触していた者からの情報は途絶えてしまい、私も気になりながら、内閣成立とともに怒涛のような内外の問題に身動きならず、心ならずもそのままに過ごしてしまった。やがて中国の佐藤内閣批判が始まり、残念ながら諦めざるを得なかった。しかしその結果、南さんを悲運に落としてしまったことはまったく知らなかった。南漢宸さんに対し心からお悼み申し上げ、またお詫びもしたい」。この佐藤総理の率直な言葉が北京に伝えられた時、周首相は「そうか、佐藤はそう言って詫びたのか」と目を潤ませたという。

このことがあって以後、日中間の対話は正常化に向かいだした。

1971年10月29日に始まった白土氏を介しての接触は半年後の1972年5月5日に終わる。これらは公式的には知られていないエピソードである。外務省も官邸もこの件にノータッチだった。「とはいえ、番記者たちの目をくぐって何回も中国側の人々を公邸に案内するのは気骨の折れる仕事だった」と浅利(慶太)さんは述べている。この頃、各野党も日中国交に乗り出していた。その内容は①中国を代表するのは中華人民共和国政府②台湾は中華人民共和国の不可分の一部③日華平和条約は無効。佐藤さんはこれらの承認を次の政権にゆだねた。そこには佐藤栄作という政治家の信念があった。

1972年5月5日夜、浅利さんは静養中の佐藤さんを鎌倉のお宅に訪ねた。佐藤さんはしみじみとした口調で語られた。昭和20年我が国は敗れた。荒廃した国土。日本人はこれからどうするのかどうなるのか。終戦直前、蒋介石は重慶から対日戦争処理は「以徳報怨」の思想をもって臨むと放送した。米軍の占領6年の後、サンフランシスコ条約によって日本は独立を回復した。蔣介石の政府はすでに台北にあったが、米英とともにこれを受け入れた。重要なのは翌年の日華平和条約で日本に対する賠償権を放棄してくれたことだ。あの戦争で最も大きな災いをこうむったのは中国だ。もし台北の政府から賠償を求められたら日本国民の負担は莫大なものになり、復興は相当遅れたはずだ。大陸の中国政府が要求する台北政府の否定は、国際的潮流となるだろう。蔣介石も覚悟はしているはずだ。しかし佐藤はそれをしてはならない。もしやれば蔣介石は私に代表される日本人を忘恩の徒と思うだろう。中国はいずれ1つになる。その時蔣介石の怒りは大陸の人々に引き継がれていくだろうと。

6月17日、佐藤さんは正式に退陣を表明。9月29日北京の人民大会堂で田中首相、大平外相、中国側から周恩来首相と姫外相が出席し中国側の希望に添い日中共同声明が調印された。これに先立つ9月17日自民党副総裁だった椎名悦三郎さんは特使として台湾を訪れていた。「蔣介石総統と佐藤さんの間には通い合うものがあったと思う」。浅利さんはそう述べている。

公邸居間の扁額『以徳報怨』は蔣介石の揮毫(きごう)であった。これは老子の思想である。そして終戦後この思想をもって日本に対したのは蔣さんだけではない。周首相は旧満州の日本軍将兵他、大部分の収容者を撫順戦犯収容所で一定期間収容し解放した。

『ミュージカル李香蘭』は、時代に翻弄された“李香蘭”が、日本人と証明されても死刑と叫ぶ民衆に「以徳報怨」によって無罪とした裁判長は、周恩来の意向を踏まえたものであった。この作品は冒頭に示した中国に対する謝罪と感謝とともにそれを形にしようと努めた佐藤栄作元総理に対する慰霊と信念を以って自らの政治姿勢を貫いたことへの敬意の表明でもあった。

●参考文献
『李香蘭 私の半生』山口淑子・藤原作弥共著(新潮社)
『時の光の中で―劇団四季主宰者の戦後史』浅利慶太著(文藝春秋)
『歴史資料館 日本史のライブラリー』東京法令出版 教育出版部編集(東京法令出版)

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浅利慶太と劇団四季の道のりをたどる一冊!


約27年にわたり劇団四季に在籍し、退団後も浅利慶太氏と劇団四季を見つめ続けてきた著者。『浅利慶太―叛逆と正統―劇団四季をつくった男』上梓から4年経ち、若い四季ファンにも読んでほしいという思いから本書を執筆。長野県大町市にあるかつての山荘兼稽古場、また劇団創立70周年を迎えリニューアルオープンした「劇団四季 浅利慶太記念館」を訪ねるところから始まります。思い出は時を超え、劇団創立から日生劇場との関わり、転機となる数々の作品、本格的な全国公演が始まるまでの決して平坦ではなかった道のりを、生前の浅利慶太氏の、あまり知られていないエピソードを交えながら綴られています。巻頭カラー口絵では、本書に登場するいくつかの作品の舞台写真も紹介しています。

【目次】
一 半世紀を経て、信濃大町へ
1 思い出の「四季山荘」
2 記憶は“あずさ25号”に乗って
3 懐かしき山荘にて
4 長野・信濃大町で新たに知ったこと
二 新たな演劇への決意――劇団四季いよいよ始動
1 恩師の衣鉢(いはつ)を継いで
2 創作劇連続公演と新劇場の誕生
3 石原慎太郎さんのこと
三 浅利慶太の大計画
1 三島由紀夫氏のつまずき
2 思わぬ誤算
3 誹謗中傷と闘いながら
4 狙われた才能
四 全国公演を目指して
1 反省からの出発
2 本格的全国公演始まる
3 『ミュージカル李香蘭』―歴史の真実の一コマとして
4 幸運の『キャッツ』がやってきた
あとがき

【著者略歴】梅津 齊(うめつ ひとし)
1936年北海道稚内市生まれ。樺太泊居町にて終戦。北海道学芸大学卒。熊本大学大学院日本文学研究科修士課程修了。1962年、劇団四季入団、演出部。浅利慶太氏に師事。1970~1989年北海道四季責任者として劇団四季公演及び『越路吹雪リサイタル』北海道公演を担当。1985年、札幌市教委、札幌市教育文化財団の共同事業として、演劇研究所「教文演劇セミナー」(夜間二年制)を設立、指導。2005~2010年、熊本学園大学非常勤講師。1994〜2022年、熊本壺溪塾学園非常勤講師。著書は評論『断章 三島由紀夫』(碧天舎)、『ミュージカルキャッツは革命だった』(亜璃西社)、『浅利慶太―叛逆と正統―劇団四季をつくった男』(日之出出版)

 
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