第94回アカデミー賞で起こった前代未聞の平手打ち事件
2022年のハリウッドを改めて振り返ると、さまざまな出来事とともにスターの顔が思い出される。最も強烈なインパクトを残したのは“あの人”だろう。
新型コロナウィルスの影響で約2年間、映画の撮影や興行のスタイルがガラリと変貌しつつ、ようやくパンデミック前の日常も戻ってきた。ハリウッド最大のイベント、アカデミー賞も従来のドルビー・シアターでの授賞式が復活したが、そこで2022年、映画界最大の“事件”は起きた。ウィル・スミスの平手打ちだ。
長編ドミュメンタリー賞のプレゼンター、クリス・ロックがスピーチでジェイダ・ピンケット・スミスの脱毛症をネタにジョークをとばしたところ、夫のウィルがステージに駆け上がり、クリスをビンタした。会場のゲストはもちろん、世界中の視聴者が何が起こったのかわからず呆気に取られている間、席に戻ったウィルは放送禁止用語を連発。さらにその後、ウィルは主演男優賞を受賞し、釈明とともに感激のスピーチをするという、混乱の一夜となった。
映画芸術科学アカデミーは、ウィルに対し、今後10年間、アカデミー賞授賞式などの行事への参加を禁止。ウィルも自らアカデミーを脱会した。このように暴力行為に厳しいアメリカ社会でウィルを非難する声が多い一方、日本では”妻を守った夫”としてウィルを擁護し、外見を揶揄したクリスへの怒りが目立ったことも話題に。
ウィルは事件後、インドへ瞑想の旅に出て心の平静を取り戻し、謝罪のメッセージを動画にアップ。しかし2年続けて主演男優賞候補になるかと思われた新作『自由への道』は、残念ながら高い評価は得られなかった。ウィルの今後のキャリアに注目が集まるが、今回の事件が長いアカデミー賞の歴史でも一大トピックとなったのは事実だ。
ハワイ州ヒロの法廷に遠隔ビデオで出廷したエズラ。判事はマルガリータ・ビレッジ・バーに近づかないようエズラに命じた
トラブルといえば、『ファンタスティック・ビースト』シリーズなどのエズラ・ミラーも2022年のお騒がせスター。3月にハワイのカラオケバーで歌っていた女性やダーツをしている男性に突進するなど大暴れ。治安びん乱とハラスメントで逮捕・起訴され、直後の4月にもやはりハワイで女性に暴行を加えて逮捕された。
さらに6月は暴行や脅迫で少女を支配していたとして、その両親から告発を受け、8月にはバーモント州の一般住居に侵入し、酒瓶を盗んだ罪で起訴されている。ほかにも12歳の少女への不適切な行為、子供たちの前で大麻を吸うなど、もともと危うい行動が多かったエズラが一気に暴走してしまった。DC映画のヒーローとして主演を務める『ザ・フラッシュ』は2023年に公開されるが、現在、メンタルヘルスの治療を受けているエズラの今後は不安定だ。
コンサートのために訪れたグラスゴーでファンの声援に応えるジョニー・デップ
数年前から波紋を呼び、2022年、決着がついたのが、ジョニー・デップと元妻アンバー・ハードの訴訟問題。家庭内暴力(DV)を巡ってアンバーを名誉毀損で訴えていたジョニー。その裁判がアメリカではテレビ中継され、社会的ニュースになった。アンバーの過去が赤裸々に暴露されたり、彼女の涙が“演技”だと批判されたり、連日、大きく報道。裁判についてのドキュメンタリーも速攻で制作、配信された。
米バージニア州のフェアファックス郡裁判所を弁護士と立ち去るアンバー・ハード
結果的にアンバーの証言にボロが出るようになってしまい、DVを否定していたジョニーの主張が認められて彼の勝訴となる。アンバーには1000万ドル(約13億円)の損害賠償支払いが命じられた。ジョニーはジャック・スパロウ役への復帰の可能性もささやかれるなか、アンバーの俳優人生はかなり危機的になったと言えそう。
裁判のニュースでは、1986年、当時14歳だった俳優への性的暴行で訴えられていたケヴィン・スペイシーが、無罪判決を言い渡された。ただこれはアメリカでのケースで、英国でも彼は性的暴行の容疑がかけられており、そちらは2023年に裁判が行われる。
12月1日、マリブの街角を歩くブルース・ウィリスを発見。鋭い眼光は『ダイ・ハード』のジョン・マクレーン役を思い出させる
ビッグスターの話題では、ブルース・ウィリスの引退も映画ファンを驚かせた。出演作が途切れなかったブルースだが、3月に家族が失読症であることを発表。書かれた文字を正しく読むことができない症状が進み、俳優業に支障をきたすことで無念の決断となった。本人は元気な様子がSNSにアップされている。同じくアクションスターでは、8月にシルヴェスター・スタローンが25年間連れ添った妻から離婚を申請されたが、なんとか話し合いで修復に向かった。また、ショーン・ペンがドキュメンタリー撮影のために戦時下のウクライナを訪れたことも社会的ニュースに。
ベン・アフレックとジェニファー・ロペスは、ジョージア州にあるベンの邸宅に家族や友人を招待して結婚を報告
そしておめでたい話題では、ベン・アフレックとジェニファー・ロペスの復活愛。かつて“ベニファー”とも呼ばれ、2002年に婚約破棄して別れた彼らは、2021年に恋人関係に戻り、2022年7月にラスベガスでめでたく結婚。久々の大物カップル誕生となった。
このようにスキャンダルが目立った2022年のハリウッド。【後編】では大ヒット作や、注目の新進スターなどを紹介していこう。
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