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CULTURE カルチャー

2022.05.21

ArtSticker presents ART INTO LIFE
伝統的な絵画に、今を感じさせるアートとは?

世界的にアートへの関心が高まる中、話題のアーティストを紹介する新連載。初心者の方にもわかりやすく“アートの見方”を解説していきます。ナビゲーターを務めるのは、現代美術に造詣の深い“ArtSticker”の塚田 萌菜美さん。これを機にもっと身近にアートを感じてみませんか?

伝統的な絵画に、今を感じさせるアートとは?ウクライナの国旗色を背景に描かれた「Yes No War Please」の文字とゼレンスキー大統領の肖像

4月末日、アーティストの水戸部 七絵さんが、期間限定で公開制作を行っている現場へ。場所は丸の内。ビジネスマンが足早に過ぎていくオフィスビル街の空きテナントに、対照的な色とりどりの絵の具やギター、ドラム、レコード、石膏像が無造作に転がり、積み上がっている。つなぎを纏った水戸部さんは絵の具を手で掬い、握ったボリュームそのままをキャンバスに載せ、転がる石膏像やテニスラケットを貼り付けていく。

塚田(以下T):水戸部さんの作品の特徴といえるのが、まさにこのボリュームと油絵の具の匂いですよね。重量のある絵の具がキャンバスに載っているので、家の壁にはやや飾りにくいですが、ずっと見ていたいような、五感を揺さぶられる、とても魅力的な作品だなあと思いました。

水戸部(以下M):塗りこんだ絵の具は、私が死ぬまで乾かないんですよ(笑)。コレクターさんには厄介なものをお預けしていると思っています。

T:水戸部さんは、いまや展覧会のたびに即完売の大人気作家ですが、なぜ絵画という形式を選ばれたのですか? 絵画はアートの中で最古の表現形式ではありますが、最近では映像やインスタレーションなど多様な表現手法がありますし、選択されるにはなにか理由があるんだろうなと。

M:幼少期に衝撃を受けてから、そもそも絵画しか眼中にないというのもありますが、絵画はフィクションのようなところがあり、夢の世界でも描き上げられますよね。でも一方で、写真的でない、内面性などのリアリティも出せるわけです。今手掛けている作品はそういう意味でルポルタージュ的かと思います。

T:ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をテーマにした作品群ですね。「No War Please」という言葉は、侵攻翌日、ロシア出身のテニス選手が試合での勝利後に、サインをする代わりにカメラレンズに書いた言葉です。

M:追加したYesは、選手に賛同したかたちで、戦争に反対する態度を表明した一言になります。普段キャンバスは好きなサイズが作れるのですが、今回は畳サイズや三六判という規格サイズをあえて使用しています。それぞれ人間のサイズ感に近いと思っていて、特に三六判という縦長のものは棺桶のサイズに近いんですよ。

T:棺桶サイズにテニスプレイヤーの全身が描かれていると、より生死のイメージが付与されますし、本物のテニスラケットが貼ってあると、より現実味が増しますね。その選手がロシア国旗を背負い、ウクライナとロシアの首脳、「Yes No War Please」の文字と向かい合うこの場所を拝見すると、先ほどのルポルタージュ絵画的、ということを如実に感じます。ルポルタージュ絵画とは、1950年代の戦争やデモ、闘争など社会的事実を絵画として描写・記録した動向でしたが、写真撮影しただけでは描写できない内情がデフォルメされていましたね。

M:戦争などのネガティブなことでも前向きに語り合いたいというのがあります。オノ・ヨーコさんは夢のような平和や反戦をレタリングされた文字というシンプルさで伝えているけれど、自分は生々しい絵画として強度がある、自分ができる形式で現実を伝えないといけないのでは、と。アートは思考停止したら終わりです。その点で考える力を持っている人、たとえば事業家の方とはお話ししやすい実感があります。

制作・鑑賞方法を劇的に変化させた現代アートが誕生して今年で105年。現代アートは難しいといわれがちだが、視覚以上に思考されることを前提に作られたものであるため、それを読み解き、周囲の人と内容や解釈を語らうところまでが鑑賞体験である。この過程を共有し、様々な人と繋がれるところが、事業家、あるいはビジネスパーソンを惹きつける理由のひとつといえるのではないだろうか。

伝統的な絵画に、今を感じさせるアートとは?ロシア国旗の上に描かれたテニス選手。三六判のキャンバスに本物のラケットが貼付されている

伝統的な絵画に、今を感じさせるアートとは?「Yes No War」の文字を描いた作品

伝統的な絵画に、今を感じさせるアートとは?Artist
水戸部 七絵
画家。 東京藝大大学院在籍。一斗缶に入った油絵の具を豪快に手で掴み、ダイナミックな重厚感のある厚塗りの絵画を制作する。2014年の米国滞在をきっかけに、現在まで顔をテーマとした絵画シリーズ「DEPTH」に取り組んでいる。2020年に愛知県美術館に「I am a yellow」が収蔵され、'22年に東京オペラシティ project Nにて個展を開催。近年、上野の森美術館VOCA 奨励賞を受賞。菅田将暉『ラストシーン』のCDジャケットのアートカバーを手掛けた。



伝統的な絵画に、今を感じさせるアートとは?ArtSticker
塚田 萌菜美

アートスペシャリスト。成城大学大学院文学研究科美学・美術史専攻博士課程前期修了。SBIアートオークション株式会社でオークショニア・広報・営業を担当した後、現在はArtStickerを運営する株式会社The Chain Museumにて、キュレーションやアドバイザリーを担当している。

 
Information

『Urban Safari』Vol.28 P29掲載

写真=田中駿伍 文=塚田 萌菜美 構成=堀川博之 
photo : Shungo Tanaka(MAETTICO) text : Monami Tsukada composition : Hiroyuki Horikawa
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