「なんとか助かってほしい」と、世界が固唾を飲んで見守る……。何年かに一度、そんなニュースがあるが、記憶に新しいのは、2018年、タイの洞窟の遭難事故だろう。世界の注目を集めただけあって、すでにいくつかの映像化作品も存在するが、“決定版”ともいえる一本が誕生した。
2018年6月、タイ北部、ミャンマーの国境に近いタムルアン洞窟に、地元のサッカーチームの少年12人とコーチ1人が遊びに出かけた。しかし急な大雨によって大量の水が侵入。13人は洞窟の奥に取り残されてしまう。そのニュースを聞いて世界中から救援チームが駆けつけ、決死の救出劇が開始された。
発生から17日間を克明に描く本作は、最終的な少年たちの運命を知っている人にとっても、改めて手に汗握る緊迫感と、事件の衝撃度を伝えてくれる。少年たちが身動きできなくなったのは、洞窟の入り口から2500mの地点。そこに到達するまで、プロのダイバーでも6時間以上はかかる。まず少年たちの発見、さらに彼らをどうやって洞窟の外に出すかというミッションは、前人未到の過酷な“賭け”でもあった……。
洞窟の奥は酸素濃度がどんどん低下し、食料のなかった少年たちが衰えていく様子などもリアルに再現。洞窟内には、一人がかろうじて通過できるかどうかという狭い場所もあり、岩も突き出ている。わずかな油断で命が危うくなるスリルと、ダイバーたちの必死の動きで、観ているこちらも息苦しくなる瞬間が何度も!
ダイバー役の俳優も訓練を積んで水中撮影に臨んだ。救出で重要な役割を果たしたのが、洞窟探索専門のイギリス人ダイバーたちで、彼らをヴィゴ・モーテンセン、コリン・ファレルら有名スターが名演。ちなみにファレルは、別の新作(『イニシェリン島の精霊』)で次回のアカデミー賞にも絡みそうで、俳優として久々のブレイクの時期を迎えた印象だ。そして知られざる事実として心に響くのは、洞窟の外で何とか水の侵入を抑えようとする地元の住民たちの姿。彼らの無償の努力も、クライマックスの怒涛の感動を後押しする。
『13人の命』配信中
製作・監督/ロン・ハワード 脚本/ウィリアム・ニコルソン 出演/ヴィゴ・モーテンセン、コリン・ファレル、ジョエル・エドガートン、トム・ベイトマン 配信/アマゾン プライム・ビデオ
2022年/アメリカ/視聴時間149分
photo by AFLO