カリスマとして語り継がれるアーティストは、映画の題材になりやすい。一般人とは明らかに違う劇的な人生を送っているし、何より、誰もマネできない“表現者”としての側面が、映画で描くにはうってつけだから。その意味で、エルヴィス・プレスリーは最高のアーティストだろう。
ソロミュージシャンとしては今も世界で最高のセールス記録をもつエルヴィス。“キング・オブ・ロックンロール”と呼ばれ、ロックの歴史を変えただけでなく、ヘアスタイルや衣装、そして過激なステージパフォーマンスは、後のあらゆるカルチャーに影響を与えた。音楽にめざめた少年時代から、1977年、42歳の若さで亡くなるまでを、駆け抜けるような勢いで見せるのが、この『エルヴィス』だ。大勢の観客の前で初めて歌うシーンから、映画のエネルギーは全開! 異様なまでの臨場感に、映画を観るわれわれも巻き込まれていく。その才能を見出し、生涯のマネージャーとなるトム・パーカー大佐との絆と確執、批判をものともせず、反骨精神を発揮したスタジアムでのライヴ、完全復活をとげたTV番組、そして晩年の衝撃の姿などが克明に再現される。
誰もが圧倒されるのは、エルヴィス役を演じたオースティン・バトラーのパフォーマンス。エルヴィスのステージ上での動きや、何気ない表情までを完コピ。彼自身の歌声も使われ、エルヴィスを知る人を納得させるだけでなく、詳しく知らない人には一人のアーティストとして強烈にアピールする。監督は『ムーラン・ルージュ』などのバズ・ラーマンなので、全体に映像はポップな作り。テンポのよい編集と音楽の相乗効果で、いつまでも観ていたくなるのも本作の魅力だ。クライマックスでは思わぬ演出で胸を締めつけられ、観終わった後、カリスマの偉大さを改めて実感。エルヴィスが残した音楽をじっくりと味わいたくなるはずだ。
『エルヴィス』7月1日公開
原案・製作・監督・脚本/バズ・ラーマン 出演/オースティン・バトラー、トム・ハンクス、ヘレン・トムソン、リチャード・ロクスバーグ 配給/ワーナー・ブラザース映画
2022年/アメリカ/上映時間159分
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