不具合が生じれば基本的に“交換”という、可能性に限りのある選択肢しかない電子部品を持たず、自然界の力学的、物理学的法則に依って動き続ける歯車とゼンマイだけで構成される機械式時計の魅力は、定期的なメンテナンスを怠らなければ一生どころか何世代にも渡って使い続けられる恒久性。
だが、これに加えて研ぎ澄まされたメカニズムの審美性というものがある。多くの時計ブランドがムーブメントに手間暇かけて装飾仕上げを施し、パーツのレイアウトをときに見た目も意識しながら勘考し、それを効果的に見せんと裏や表をシースルー化するのはそのためだ。こと、いわゆる高級ブランドの機械式時計は内部の美しさも重要な価値なのだ。
その好例と言うべきモデルが、〈ジラール・ペルゴ〉の新作、フリーブリッジ メテオライト。〈ジラール・ペルゴ〉は1791年にスイス時計産業の要衝、ラ・ショー・ド・フォンで創業。機械式時計のあらゆるパーツを自社で一貫製造するマニュファクチュールとして知られる。このモデルは、同社の輝かしい伝統と最新の“現在地”を端正なフェイスにまるで小宇宙のように集約し、機械式機構の奥深い魅力を表現する。
大胆なスケルトンフェイスの中に鎮座するのは、機械式機構の主要な部位。12時位置には主ゼンマイを収めた香箱、センターの時分針の直下には香箱の動力を指針に伝える輪列が覗き、6時位置にはその輪列に接続して精度を一定に保つ脱進機(テンプ)が据えられている。機械式時計の駆動プロセスが、躍動するアートのようにダイヤル上で展開されるのだ。
香箱、輪列、テンプはフェイスの地板から延びる“ブリッジ”と呼ばれるパーツで固定されており、左右、水平方向のブリッジが12時位置から6時位置へとインラインで並ぶ様子が高度な建築さながらの構造美を醸し出す。この特殊なブリッジ構造は同社が1867年に懐中時計で具現化した意匠。1889年にこの構造を発展させて発表したスリー・ゴールド ブリッジ トゥールビヨン(通称ラ・エスメラルダ)は、パリの万国博覧会で金賞を受賞するなど、〈ジラール・ペルゴ〉の名を世界に知らしめるきっかけとなった。従来は機構を固定するための部品に過ぎなかったブリッジを美観の要素に昇華したこの“スリー・ブリッジ”は以来同社の象徴として受け継がれ、1991年以降は腕時計として復活。さまざまなモデルに採用されている。
フリーブリッジは2020年に発表された比較的新しいコレクション。最新作“メテオライト”は希少な隕石(メテオライト)のプレートを、くだんの“見せるブリッジ”の左右にあしらい持ち前の高級感に華を添えている。
用いられるメテオライトはナミビアで発見されたギベオン隕石と呼ばれるもの。太古の時代に宇宙空間から飛来した、鉄やニッケルなどを含有する合金で、組成物質が長年かけて結晶することで地球上では現れない特別な紋様が生じ、さらにこれらは自然界で生成されたもののため、切り出したプレートの紋様はひとつとして同じものがない。必然的に、時計もすべての個体がこの世で他の誰もが持ち得ない、ワン&オンリーとなる。
このモデルの外観は、伝統的なメカニズムと天文学的な時の流れに根ざした素材からなる、いわばレトロスペクティブな魅力。だが、ムーブメントの核とも言える脱進機は帯磁や腐食、温度変化による影響などの懸念がなく、摩擦係数が少ないため、より高精度で長時間の駆動が可能となるシリコン製。冒頭で述べた機械式時計のメリットを、さらに飛躍させる最新の技術が投入されているのだ。
ケース径44㎜、自動巻き、SSケース、ラバーストラップ、3気圧防水。361万9000円(ジラール・ペルゴ/ソーウインド ジャパン)
そんな事情を踏まえてフェイスに目をやれば、叡智を尽くした機械式時計ならではのコンセプトが華麗な威光となり、老舗の本気に満ちた機構が織りなすデザインは上質で、ファッションとの親和性もすこぶる高い。
マニュファクチュールの技術力を赤裸々に語る唯一無二のダイヤルは、本物を知る大人に、ふさわしい。
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