【アカデミー賞】すべてが斬新!
今年のオスカーで変わったコトとは!?
4月25日(日本時間は26日)、映画界最大のイベント、第93回アカデミー賞の授賞式が開催された。新型コロナウイルスの影響もあって、今年は例年より約2カ月遅れての授賞式。昨年までの伝統的なセレモニーは、そのスタイルを大きく変えて、すべてが斬新な印象を与えてくれた。
まず新鮮だったのは、会場が変更されたこと。2002年から授賞式の会場になっていたドルビー・シアター(旧名コダック・シアター)と、LAダウンタウンのユニオン・ステーション(鉄道駅)の2元中継で行われるとされたが、はじまってみれば、ほとんどすべてがユニオン・ステーションでの進行。
煌びやかなドレスに身を包んだキャリー・マリガン
このユニオン・ステーションは、『ブレードランナー』で未来の警察署のロケ地になるなど、映画ファンにとっては“聖地”であり、コロニアル&アール・デコの建築で雰囲気もばっちり。授賞式直前のレッドカーペットも、ユニオン・ステーションの屋外で進行し、パテオのような中庭で軽食を楽しむ出席者をバックに、スターたちがインタビューを受ける風景は、開放的で観ているこちらも心地よかった。
『Mank/マンク』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたアマンダ・サイフリッド。オスカーの候補になるのはこれが初
プレゼンターや、ノミネートされたスターたちのファッションも、ここ数年に比べて華やかな印象。コロナ禍での鬱々した日常の反動が表れたのかもしれない。真っ赤なドレスのアマンダ・サイフリッドなど、胸元のV字を大きく開けたスタイルが多く見受けられたのも、今年の流行かも。一方で『ノマドランド』のクロエ・ジャオ監督のように、スニーカーで出席する“自分らしさ”の強調も目立ち、例年以上にファッションで楽しませてくれた。
いつもの授賞式では、賞の発表の間に主題歌賞ノミネートの曲のパフォーマンスで盛り上げたりするのだが、今年は主題歌賞の5曲は事前の番組で放映。授賞式とは切り離され、ショーアップの点では物足りさを感じたが、スティーヴン・ソダーバーグ監督ら演出チームが意図したのは、授賞式全体を一本の映画のように仕立てること。
カメラのアングルや、テーブルを囲んで発表を待つノミニーたちの映し方など、視聴者に臨場感を与える工夫がなされていた。徹底した安全対策の下、カメラに映されている部分では、出席者はマスクを外すというルール。DJブースからの音楽で、大女優のグレン・クローズが踊り出すなど、リラックスした雰囲気も伝わってきた。
バックヤードで、自撮りを楽しむリース・ウィザースプーン
そして注目の賞の行方は、予想されていたとはいえ、各作品にバラける結果となった。圧倒的な一本が不在だったのが、今年の印象。もちろん作品賞・監督賞・主演女優賞を獲得した『ノマドランド』の勝利といえるが、それでも最多の3部門。続く2部門受賞は『ファーザー』『マ・レイニーのブラックボトム』『ソウルフル・ワールド』『Mank/マンク』『サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜』『ジューダス・アンド・ザ・ブラック・メサイア(原題)』の6作という横一線である。
ブラッド・ピットと撮影に応じるユン・ヨジョン。『ミナリ』での演技は圧巻だった
今年は受賞のスピーチでも時間制限を設けなかったことで、熱い思いを語る人、スッパリと短く言い切る人などさまざまだったが、韓国人初の演技部門受賞となった『ミナリ』のユン・ヨジョンが最高だった。プレゼンターはブラッド・ピット。『ミナリ』を製作したのはブラピの会社だが、ヨジョンは彼に対し「ブラッド・ピットさん、なぜもっと早くお会いできなかったのかしら?」と初対面であることを告白。初々しくも、ユーモアを交えた彼女のスピーチは、会場や視聴者をホッコリさせた。
『マ・レイニーのブラックボトム』で主演男優賞にノミネートされたチャドウィック・ボーズマン
最大のサプライズは授賞式のラストに待っており、例年と違って最後の発表は主演男優賞。それだけでも驚かせたが、最有力だった故チャドウィック・ボーズマンの受賞を見越した変更なのは明らかだった。彼の家族が登壇し、感動的なスピーチで、しかもアフリカ系のチャドウィックの栄誉で人種の“多様性”で締めくくる……。
しかし意図に反し、結果は、『ファーザー』のアンソニー・ホプキンス! ロンドンの別会場にも来ていなかったホプキンスがオスカー像をもらう瞬間もなく、歴史に残る“尻切れトンボ”で授賞式はあっさり終わってしまった。だが、これこそがアカデミー賞の醍醐味。予定調和ではないからこそ、毎年、楽しみなのである。
『ノマドランド』は作品賞、監督賞、主演女優賞を獲得。後列で、スニーカーを履いているのがクロエ・ジャオ監督
クロエ・ジャオの、アジア系女性で監督賞受賞など史上初も多かったが、俳優賞の4人が全員“非白人”となる可能性も予想されつつ、終わってきれば、白人2人、アフリカ系1人、アジア系1人という、ある意味、バランスのとれた結果。ハリウッドが求める多様性を、今年のアカデミー賞はきっちり表現できたのかもしれない。
photo by AFLO