【アカデミー賞2021候補】タコとの恋愛ドキュメ!?
ネットフリックス映画『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』に唸る!
アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門と聞くと、社会派テーマが込められた作品が多そうなイメージがある。しかし、未体験の領域を紹介する、ドキュメンタリー本来の目的を純粋に極めた作品も、けっこう受賞しているのだ。その意味で、今年ノミネートされた本作は“人間とタコの愛”という、かなり奇抜なテーマ! 賞レースの最初の段階では、謎の作品として扱われていたのだが、重要な前哨戦であるPGA(全米映画製作者連盟賞)のドキュメンタリー部門を制し、がぜんアカデミー賞受賞への期待も高まっている。
映像作家のクレイグ・フォスターが、仕事の目的などに迷い、海に潜る日常を送っていたところ、1匹のタコを発見。その生態に魅せられた彼は、毎日、そのタコの元へ通い詰める。これだけなら普通のドキュメンタリーだが、本作が特殊なのは、フォスターが、種族を超えた“恋愛感情”をタコに抱いていく過程がつづられるから。
タコを“彼女”(たしかにメスだけど)と呼んで、愛おしむ気持ちが映像とともに語られていく。献身的な思いが通じたのか、やがてタコの側もフォスターを認識し、触れ合いにまで発展。まるでラブシーンのようなロマンチックなシーンも収められる。何日か“彼女”を見失うと、フォスターの心はかきむしられるのだった……。
しかしタコの寿命は約1年。別れが近いことも予感させ、『ロミオとジュリエット』的な味わいが漂ってくるあたりも、かなり独創的!
似たようなタコを何匹か撮影して、うまくつないでいるのかと思いきや、明らかに1匹を追っているところも、観ているうちにわかってくる。タコの1年間がしっかり記録されることで、知られざる生態があちこちに登場するし、犬や猫と同じレベルの頭脳をもっている驚きの事実が明らかにされたりも……。
南アフリカの美しい海が舞台なので、ネイチャー・ドキュメンタリーとして素直に楽しみ、癒されることも可能だ。フォスター自身、映像作家ではあるが、本作の監督は別の人が務めたことで、客観的にタコと人間の1年間の物語として引き込まれるのかも。
原題は『オクトパス・ティーチャー』。タコが先生として、人間に何かを教えてくれるわけで、地球の自然と人類の関係も見えてくるのだが、観た後の印象はやっぱり“不思議な作品”という味わい。その後味こそ、未体験の世界へ案内する、ドキュメンタリーの本質だと納得!
『オクトパスの神秘 海の賢者は語る』
製作/グレイグ・フォスター 監督/ピッパ・エアリック、ジェームズ・リード 配信/ネットフリックス
2020年/南アフリカ/視聴時間85分