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CULTURE カルチャー

2025.05.03


『プリティ・ウーマン』が映画界に残したものとは?【中編】 ツメアト映画〜エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.34

 

 


本作はシンデレラストーリーの下地として、相当ザラザラした現実社会のリアリズムを用意しているところが重要な特徴である。ロサンゼルスの繁華街の路上を仕事の拠点としているヒロインの娼婦ヴィヴィアンのことを、世に出回っている『プリティ・ウーマン』の解説ではコールガールと紹介している文章が多いが、実際に劇中で使われるのは“フッカー”(hooker)という言葉だ。これは街娼を指すスラングであり、生々しく翻訳するなら“立ちんぼ”となる。映画の最初のほうでは、スキニー・マリーという名の薬物中毒の街娼仲間が殺害されたという凄惨なエピソードも伝えられる。

実はJ・F・ロートンによる最初の脚本は、ヴィヴィンが愛人契約金として受け取るドルにちなんで『3000』というめっちゃドライなタイトルが付けられていた。そして物語の結末も、エドワードと喧嘩して泣きながら別れたヴィヴィアンが、路上にばら撒かれた報酬金を拾って、仲間のキット(ローラ・サン・ジャコモ)と共にディズニーランドに向かうバスに乗る……というやたら気の滅入るダウナーな光景が描かれていたという。ちなみに“ヴィヴィアンは身体を壊し、道端で死んでしまう”という悲惨過ぎるラストが用意されていたとの噂も流れたが、これは都市伝説めいたガセネタだったらしい。
 
  

 


ともあれこの夢も希望もない陰気なシナリオが、結果的にはウォルト・ディズニー・スタジオに企画が渡ったことで(製作は子会社のタッチストーン・ピクチャーズ)明るく改稿されたのだが、しかしもともとのオリジナル脚本が暗い現実をハードに活写していたことで、単なる絵空事で終わらない深みが醸成されたのは間違いない。例えばフランスの映画監督、アルノー・デプレシャンは『プリティ・ウーマン』を「大好き」だと公言し、「下層階級の出身で読み書きもろくにできず、親とも仲が悪い人間が、子犬のように人生に向かって噛み付いていく」映画として、自作の『エスター・カーン めざめの時』(2000年)にも強い影響を与えたと語っている(『すべては映画のために! アルノー・デプレシャン発言集』港の人刊より)。

そしてヒロインのヴィヴィンに最高の魅力と生命力を宿らせたのは、当時22歳のジュリア・ロバーツ(1967年生まれ)。1987年にデビューしたばかりの新人ながら、プロデューサーが『ミスティック・ピザ』(1988年、監督/ドナルド・ペトリ)の彼女を気に入って大抜擢。キャスティング選考当時のロバーツはまだ無名に近かったが、『マグノリアの花たち』(1989年、監督/ハーバート・ロス)でゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞したのに続き、『プリティ・ウーマン』では同賞ミュージカル/コメディ部門の主演女優賞を獲得。史上最速レベルのスタートダッシュで快進撃を繰り広げ、あっという間にスターダムにのし上がっていった。
 

  

 


ちなみにヴィヴィアンはジョージア出身という設定なのだが、これは同州出身のジュリアに訛りが残っていたことを受けてゲイリー・マーシャル監督が付与したアイデア。マーシャル監督は実妹のペニー・マーシャル監督が撮った『プリティ・リーグ』(1992年)など、ちょいちょい俳優として顔を出すことでも知られているが、本作の劇中では高級車ロータス・エスプリSEに乗った実業家エドワードに「ビバリーヒルズはどこ?」と話しかけられ、「ここさ。ほら、シルヴェスター・スタローンの屋敷だ」と答えるホームレス役でカメオ出演している。

その大富豪エドワードを演じるもうひとりの主役が、当時40歳のリチャード・ギア(1949年生まれ)。いま観てもイケオジの極みと言うしかない彼がまた本当に素晴らしい。ニューヨークから一週間だけロサンゼルスにやってきたエドワードは、一見したところ物腰の柔らかいロマンスグレーの完璧な紳士。しかし仕事では「ウォール街の狼」との異名を取るほど非情な企業買収を行う男だ。今回のロサンゼルス滞在中も自分の父親のような年齢のモース社長(ラルフ・ベラミー)の造船会社を手に入れようと、相手の望まぬ買収計画を強引に進めている(このへんのビジネス絡みのやり取りにはバブル時代の景気良かった頃の日本のイケイケ感も垣間見える)。当初の脚本だとエドワードは本当に冷酷で嫌なヤツという印象だったらしく、それを嫌ったギアはオファーを一度断っている。結局、ゲイリー・マーシャル監督にギアが直接脚本への不満をぶつけたことから、リライトが行われて出演を許諾する流れに転がっていくのだが、完成した映画に備わったエドワードの人物像の奥行きはギア自身が持ち込んだ要素も大きいのかもしれない。
 

  

 


普段は知的で物静かなエドワードが、なぜ苛烈なビジネスの競争社会で生きる鬼と化したかというと、父親からの抑圧があったと語られる。エドワードはあえて父親と同じ土俵で対決する資本家となり、父親の会社を乗っ取って復讐してやった、と。つまり“父殺し”――エディプス・コンプレックスがサブテーマとして組み込まれているのだ。またエドワードは音楽教師だった母親からの影響も受け継いでおり、ある夜、ホテルでピアノを流麗に弾いてみせる。ギアは実際にピアノが得意で、映画のこのシーン用に自ら作曲までしたというから驚く!

すなわち『プリティ・ウーマン』が“白馬に乗った王子様から救われるプリンセス”というシンデレラストーリーの定型から大きく駒を進め、確かな現代性を得たポイントのひとつは、双方向的なキャラクターの成長と変容が描かれたこと。どんどんエレガントに洗練され、自立した生き方にも目覚めていくヴィヴィアンだけでなく、彼女との出会いによってエドワードの側も影響を受け、彼に本来備わっていた愛と優しさを回復させていくのである。

そしてゲイリー・マーシャル監督が最も丁寧にまなざしを向けたのは、ヴィヴィアンという個人の“尊厳”だ。彼女がビバリーヒルズのラグジュアリーなショッピング街であるロデオドライヴに服を買いに行くシーンの、人を見た目でしか判断しないショップ店員たちの描き方など風刺的だし、ゲス男の弁護士スタッキー(ジェイソン・アレクサンダー)からヴィヴィアンがレイプされそうにあったと、「男ってすぐ女を引っぱたくのね。高校でビンタの特訓でもするの?」と呟くところも非常に印象的だ。こういった根本的な人間信頼の大切さに基づいた映画だからこそ、ショーン・ベイカー監督やアルノー・デプレシャン監督も、偉大なニュークラシックとして本作を参照先に求めたのではないか。
後編に続く
 

  

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
Photo by AFLO
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