『コーダ あいのうた』
製作年/2021年 監督・脚本/シアン・ヘダー 出演/エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、マーリー・マトリン、ダニエル・デュラント
耳の聞こえない家族たちの絆に泣ける!
主人公は、高校生のルビー。ろうあの両親と兄と生活し、ただひとり耳が聞こえる彼女は家族の“通訳係”だ。一家の仕事は漁業。高校で合唱クラブに入ったルビーは、歌うことの喜びにめざめ、顧問の教師も彼女の才能に気づき……という物語。まわりとのコミュニケーションのために、家族はルビーを頼るしかない。一方でルビーは、高校生活や自分の夢のために時間を使いたい。しかし家族も見捨てられないので、その葛藤に悩まされる。そんなルビーの立場を家族も十分に理解しており、本音と相手への愛で揺れ動くそれぞれのドラマが、暗くならず、基本は軽やかに描かれるので、かえって胸に迫ってくるのだ。
最大の見どころは、家族がルビーの歌をどうやって受け止めるかというエピソード。聞きたいのに聞こえないやるせなさなど、いくつかのステップが用意されるのだが、思わぬ方向から感動を誘う演出があったりする。これらの要素は下手したら、あざとくなるリスクも抱えるが、ルビー役、エミリア・ジョーンズの爽やかすぎる名演技に惹きこまれ、素直に作品に入りこんでしまう感覚。家族を演じるのが、実際に耳の聞こえない俳優たち(母親は『愛は静けさの中に』でオスカー受賞のマーリー・マトリン)なので、リアリティも満点だ。
『ワンダー 君は太陽』
製作年/2017年 原作/R・J・パラシオ 監督・脚本/スティーヴン・チョボスキー 出演/ジュリア・ロバーツ、オーウェン・ウィルソン、ジェイコブ・トレンブレイ
ベタな感動が苦手な人も涙に誘われる!
映画で感動するポイントは人それぞれ。物語や登場人物にいかに共感するかが重要だが、ストレートでわかりやすく涙腺を刺激するパターンが好きな人もいれば、ベタな表現には引いてしまうけど、静かに胸にしみわたる繊細さは好きという人もいる。しかしごく稀に、あらゆる人を納得させる感動映画が誕生する。この『ワンダー 君は太陽』は、そんな1作だ。
主人公は、トリーチャー・コリンズ症候群という遺伝子疾患によって、人とは違う顔で生まれてきたオギー。10歳にしてすでに27回もの手術を経験した彼が、一般の小学校にはじめて登校するところから、この物語ははじまる。外見のせいで奇異な視線を浴び、いじめを受けながらも、友人を作り、学校生活に必死に慣れようとするオギー。この設定だけで、ストレートな感動は保証される。
しかしこの作品は、さらに一段上の予期せぬ感動を用意している。最初はオギーと仲良くするが、その裏にさまざまな葛藤を抱えたクラスメイト。オギーを育てるために自分の夢を犠牲にした母。両親がオギーのことばかり考えるので、つねに放っておかれる姉。そしてその姉の親友も複雑な状況に悩み……と、周囲の人物に視点を切り替えることで、彼らの心情が切なく胸に迫る作りが素晴らしい。しかも各人物のドラマが、パッチワークのように見事に絡んで行くものだから、難病モノというジャンルを軽々と超え、ベタな感動が苦手な人も、あちこちで不覚な涙に誘われるのだ。
『私の中のあなた』
製作年/2009年 原作/ジョディ・ピコー 監督・脚本/ニック・カサベテス 出演/キャメロン・ディアス、アビゲイル・ブレスリン、アレック・ボールドウィン
ドナーとして生まれてきたアナの決断に心震える!
“泣ける映画”というのは、設定を聞いた段階である程度、予想がつくもの。逆に、泣かそうという“あざとさ”を感じ、引いてしまう人がいるのも事実だ。しかし時として、予想した感動の、さらに一歩先へ突き進んで心を揺さぶってくる映画もある。『私の中のあなた』はそんな一本だ。
主人公は、11歳の少女アナ。彼女には白血病を患う姉のケイトがいるのだが、アナはその姉のドナーになるべく遺伝子操作で生まれてきた。幼い頃から白血球やリンパ球を提供するなど、過酷な治療に耐えてきたアナだったが、腎臓移植手術の際、ついに「自分のために生きたい」と両親を相手に訴訟を起こす。
親の都合によって“デザイナーベイビー”として誕生したアナ。それだけでセンセーショナルで、アナの立場になって胸が締めつけられるのは確実。ただ本作は、ケイトの病気、家族がバラバラになりかけるアナの訴訟の先に、さらにエモーショナルな展開も用意している。そこで不覚にも泣かされる人が多いのだ。
アナ役のアビゲイル・ブレスリンは天才子役ならではの複雑な心情を見事に体現。そしてアナに無理を強いてきた母親役、キャメロン・ディアスのクライマックスでの演技が心にしみて、(キャメロンには失礼だが)そこも意外な感動のツボになっている。
『しあわせの隠れ場所』
製作年/2009年 原作/マイケル・ルイス 監督・脚本/ジョン・リー・ハンコック 出演/サンドラ・ブロック、クィントン・アーロン
幸運な出会いと絆にほっこり
唯一の家族である母が薬物依存更生施設に入れられ、途方に暮れる黒人の高校生マイケル。寒さに震えているところを、裕福な白人の人妻に助けられた彼は、その一家の好意により、家に置いてもらうことに。実の家族のように接してくれる彼らに支えられ、マイケルは学業に励み、一方でアメフト選手としての才能を開花させる。それは後に、彼と一家に、さらに大きな喜びをもたらした……。
スーパーボウルでの優勝歴もある元NFLの人気アメフト選手マイケル・オアーの実体験を元にしたヒューマンドラマ。貧困にあえいでいたところを、慈悲深い一家に助けられた彼の、幸運な出会いを温かみとともに活写。物語の視点は、一家の勝ち気な妻の視点で語られ、彼女とマイケルの疑似親子というべき関係の構築が感動の肝となる。ヒロインを務めたアカデミー賞女優サンドラ・ブロックは、本作でも同主演女優賞候補に。
『リトル・ミス・サンシャイン』
製作年/2006年 監督/ジョナサン・デイトン、バレリー・ファリス 脚本/マイケル・アーント 出演/トニ・コレット、スティーブ・カレル、アラン・アーキン
長旅で家族の絆を取り戻す!
美少女コンテストでの優勝を夢見るオリーヴ(アビゲイル・ブレスリン)は、家族とともに決勝大会の地カリフォルニアへ出発。だが、人生の勝ち組を自負したがる父、無言を貫く兄、自殺未遂を起こしたゲイの伯父、ドラッグを愛好するファンキーな祖父らとの道中はトラブルの連続で……。
アカデミー賞脚本賞にも輝いた、笑って泣けるヒューマンコメディ。それぞれ問題を抱えた家族が、長い旅の時間を通じて再生し、家族の絆を取り戻していく。いわゆる“はみ出し者”として描かれる主人公一家が愛おしく、問題を乗り越えようとする姿も健気。家族が1つになることの意味が、クライマックスで爽快なまでに弾ける。
『I am Sam アイ・アム・サム』
製作年/2001年 監督・脚本/ジェシー・ネルソン 脚本/クリスティン・ジョンソン 出演/ショーン・ペン、ミシェル・ファイファー、ダコタ・ファニング、ローラ・ダーン
父娘の姿に心を揺さぶられる!
難病モノというジャンルは、基本的に涙を誘うのが目的で作られるが、過剰になったり、あざとくなったりする可能性も高い。そのハードルを軽々と超え、さわやかな感動を届けてくれるのが、この作品。知的障がいのために知能は7歳のままのサムは、スターバックスで仕事をしながら、一人娘のルーシーと生活している。ルーシーの母親は出産後にすぐに失踪しており、サムはシングルファーザー。前半は、周囲の人々の温かいサポートで毎日を乗り越える父娘の姿が誠実に描かれ、観ているこちらは、早い段階から目頭が熱くなってしまう。
やがてルーシーが7歳になり、父よりも“大人”になったことで、サムの養育能力が問われることに。ルーシーがサムの元から引き離されたことで、サムは裁判で訴えるという無謀なチャレンジに出る。サムとルーシーの親子愛、それを取り戻そうとするサムの実直な奮闘と、いくつもの感動のポイントが、登場人物に寄り添うように演出され、名作となった。人気アーティストがカバーした、数々のビートルズの曲もドラマとぴったりで効果的。サムという難しい役をリアルにこなしたショーン・ペンもさすがだが、ルーシー役、ダコタ・ファニングの天才子役ぶりに、心を揺さぶられるのは確実だ。
『レインマン』
製作年/1988年 原作/バリー・モロー 監督/バリー・レビンソン 出演/トム・クルーズ、ダスティン・ホフマン、ジェラルド・R・モーレン
会ったことのない兄弟が心を通わせていく!
血のつながった兄弟となれば、どこかしら似ている部分がある。しかし映画で、兄弟を主人公にした場合、性格も含めて何から何まで“真逆”ということが多いかも。その典型的な例を挙げるなら『レインマン』ではないか。高級外車のディーラーで、見るからにモテ男のチャーリーに、父の訃報が届く。故郷に戻ったチャーリーは、300万ドルという多額の遺産が、会ったこともない兄のレイモンドに渡ると知って愕然。自閉症で施設に入っているレイモンドを連れ出したチャーリーは、LAに戻り、父の遺産を手にしようと画策する。
一度も会ったことのない兄弟ということで、血は繋がっていても育った環境が別だと、こんなに何もかも違うのか……と、本作は実感させる。最初はコミュニケーションも不可能だった2人が、旅を通して心を通わせる展開は、予想どおりとはいえ、絶妙なエピソードの積み重ねでシンプルに感動。トム・クルーズは当時、『トップガン』などでハリウッドのトップスターに立ったばかり。その勢いと、がむしゃらなムードがチャーリー役にぴたりとハマったうえ、本作は彼の新たな才能を開花させた。一方のダスティン・ホフマンは、自閉症のレイモンド役で、過剰さに陥らないギリギリラインで演技巧者ぶりを披露。ホフマンの主演男優賞のほか、アカデミー賞では作品賞など4冠に輝いた。
『ファミリー・ツリー』
製作年/2011年 原作/カウイ・ハート・ヘミングス 製作・監督・脚本/アレクサンダー・ペイン 出演/ジョージ・クルーニー、シャイリーン・ウッドリー
日頃の行いを改めたくなる!?
妻と2人の娘とともに、ハワイで何不自由なく暮らしてきた弁護士のマット(ジョージ・クルーニー)。ところが、ある日のボート事故で妻が昏睡状態に。さらには、妻には不倫相手がいて、離婚を考えていたことが発覚する。娘や友人はその事実を以前から知っていて、現実を知らぬは自分ばかり……の状態に陥っていた主人公が、目を見開き、人生を見つめ直すために奮闘。
『サイドウェイ』などのアレクサンダー・ペイン監督が、人生最大の危機を自覚した中年男に寄り添う。当たり前にあるもののようでいて、当たり前に感じてはならないものを、等身大のジョージ・クルーニーが反面教師になって教えてくれる1作。
『イカとクジラ』
製作年/2005年 製作/ウェス・アンダーソン 監督・脚本/ノア・バームバック 出演/ジェフ・ダニエルズ、ローラ・リニー、ジェシー・アイゼンバーグ
不器用一家に訪れる結末とは?
元人気作家の父と現人気作家の母が離婚を決意し、16歳の長男ウォルト(ジェシー・アイゼンバーグ)と12歳の次男フランク(オーウェン・クライン)は父と母の家を行き来する生活を送ることに。やがてフランクはストレスで奇行に走り、冷静に受け止めていたかに見えたウォルトも問題行動に出はじめるが……。
『マリッジ・ストーリー』のノア・バームバック監督が、自身の少年時代を赤裸々に投影させた自伝的家族ドラマ。80年代のニューヨークを舞台に、両親の離婚に振り回される兄弟の姿をユーモラスに、シビアに綴る。不器用な一家の物語は最後まで不器用だが、切なさとおかしみの先にある光にじんわりさせられる。
『ミナリ』
製作年/2020年 製作総指揮/ブラッド・ピット 監督・脚本/リー・アイザック・チョン 出演/スティーブン・ユアン、ハン・イェリ、アラン・キム、ユン・ヨジョン
新天地で支え合う家族の姿に感動!
農業での成功を目指す韓国系移民のジェイコブ(スティーヴン・ユァン)は、家族を連れてアーカンソー州に移住。広さはあるものの荒れた土地とボロボロの住居を前に妻は不安を隠せないが、しっかり者の長女と好奇心旺盛な長男は新天地での日々に期待を膨らませる。まもなく毒舌で破天荒な祖母も加わり、一家の暮らしはゆっくりと前に進みはじめるが……。
80年代のアメリカ南部で、理不尽な運命に翻弄されながらも逞しく生きる家族の物語。祖母役のユン・ヨジョンが、アカデミー賞助演女優賞を受賞。どんな困難が襲い掛かっても家族と一緒なら乗り越えられるという、ストレートなメッセージに背中を押される。