アノ映画のファッションに憧れて。Vol.7
『ドゥ・ザ・ライト・シング』の〈ナイキ〉エア ジョーダン4
ムーキー(スパイク・リー)
1989年に公開された『ドゥ・ザ・ライト・シング』は、監督のスパイク・リーをインディーズ映画界からアメリカ映画のメインストリームに押し上げた記念碑的作品。同時に、黒人社会が抱え込む諸問題を当時のニューヨーク、ブルックリンで生まれつつあったファッション・カルチャーと共に描いていた点が、ある意味センセーショナルだった。リーが提案したトレンドの中にはすぐに廃れた物もあれば、今日まで続いている物もある。
黄色いTシャツを着ているのがバギン・アウト(ジャンカルロ・エスポジート)
映画の影響でプレミアムが付くほど高騰したのが、劇中で主人公、ムーキー(スパイク・リー)の友達、バギン・アウト(『ブレイキング・バッド』や『マンダロリアン』のジャンカルロ・エスポジート)が履いている〈ナイキ〉エア ジョーダン4。買ったばかりのスニーカーを通りがかりの白人に踏まれたバギン・アウトが、『なんで白人がここに住んでやがんだ!? 縄張りを荒らしやがって!!』と地団駄踏んで悔しがるシーンでは、1足のスニーカーに映画のテーマが見事に凝縮されていた。”エア ジョーダン4” はその後も復刻版が次々と製造され、今に至っている。
ムーキーがトレードマークにしているアスレチックウェアの中でも、大リーグ史上初の黒人メジャーリーガーとなった”ジャッキー・ロビンソン・ジャージ”を着て街を歩くシーンの眩いことと言ったら! ムーキーが愛用しているのは”スローバックジャージ”(バスケ、アメフト、メジャーリーグのヴィンテージジャージのこと)と呼ばれ、スポーツのタウンウェア仕様という今では当たり前の着こなしに影響を与えているし、スパイク・リーはブームの最先端を走ってきたし、今も走っている。
ラジオ・ラヒーム(ビル・ナン)
バギン・アウトがかけている丸いフレームのメガネは、今も流行に敏感なアーティストたちの間で愛され続けている。また、ラジオ・ラヒーム(『スパイダーマン』シリーズほかのビル・ナン)が着ているTシャツには、当時のブルックリンの現状を物語る”BED-STUY(ブルックリンの別名) DO-OR-DIE”の文字がプリントされている。ラヒームのシグナチャーTシャツはその後ハイブランドからローブランドまで幅広くコピーされ、『DTRT』から生まれた最強のトレンドの1つになった。
そう言えば、ラヒームが指にはめている”LOVE/HATE”のブラスナックルを、第91回のアカデミー賞授賞式に出席した際、スパイク・リーが両手にはめてしきりにアピールしていたのを思い出す。それを見て、ああまだ『DTRT』は続いている。トレンドは不滅だと感じた映画ファンは多いと思う。
photo by AFLO