先が読めないドキドキ感と、スリルある展開が盛りこまれたサスペンススリラー。その中から女性が主人公の作品をセレクト。女性だからこその設定や演出が実に面白い!
『ブラック・スワン』
製作年/2010年 原案・脚本/アンドレス・ハインツ 監督/ダーレン・アロノフスキー 出演/ナタリー・ポートマン、ヴァンサン・カッセル、ミラ・クニス、ウィノナ・ライダー
ヒロインが闇に落ちる姿に衝撃を受ける!
真相がわからずハラハラさせるサスペンス。そして、背筋も凍るようなシーンが登場するスリラー。両方の要素をハイレベルで合体した作品は少ないが、『ブラック・スワン』はそんな貴重な一本だ。NYの一流バレエ団に所属するニナは、次回公演『白鳥の湖』の主役候補に上がっていた。美しく純粋な白鳥と、官能的に相手を誘惑する黒鳥を一人で演じ分けるという難役だが、演出家はニナの隠れた才能に気づいて抜擢。しかしリハーサルがはじまり、役に没頭しようとするニナは不可解な現象に見舞われるように……。
主役を踊るプレッシャー、代役に選ばれたライバルのダンサーや演出家との悩ましい関係などから、ニナは幻覚や妄想に襲われる。それが一瞬の映像で表現されたり、かなりダークな描写だったりと、さまざまに駆使されるので、多様な恐怖を味わう感覚。なかでもニナの肉体が白鳥と一体化するビジュアルは生々しくて衝撃的! 現実と非現実がひとつになるクライマックスは、本作でアカデミー賞主演女優賞に輝いたナタリー・ポートマンの狂気ともいえる熱演に圧倒されるはず。いま何かと話題のセクハラ、パワハラ問題も取り入れており、その部分もスリリング。
『ガール・オン・ザ・トレイン』
製作年/2016年 原作/ポーラ・ホーキンズ 監督/テイト・テイラー 脚本/エリン・クレシダ・ウィルソン 出演/エミリー・ブラント、レベッカ・ファーガソン、ヘイリー・ベネット
記憶を無くしたヒロインが知る真相とは?
主人公が男性か女性かで、サスペンスは大きく印象が変わる。そんな事実を改めて教えてくれるのが本作。愛する夫と離婚し、その悲しみから立ち直れないレイチェルは、アルコールを断ち切れない日常を送っていた。そんな彼女の日課は、通勤電車から理想の夫婦が暮らす一軒家を眺めること。その近くには、レイチェルがかつて夫と生活していた家もあり、元夫は新たな妻を迎えていた。ある日、彼女は理想の夫婦の妻が不倫しているのを目撃してしまう。思わずその家へ向かうレイチェルだが、途中で記憶をなくし、気づくと自室で血まみれになっていた。
不倫していたと思われる妻の失踪事件に、レイチェルがどんな関係があるのか? 時系列がシャッフルされ、アルコールによる記憶の不確かさもカギとなって、ストーリーは二転三転。しかしラストはすべてが回収されて、驚きの事実が明らかになる。『プラダを着た悪魔』や『クワイエット・プレイス』などのエミリー・ブラントが、あえて血色の悪いメイクで挑み、アルコール依存症のレイチェルをリアルに表現。他人の家を覗きたいという人間の本能を刺激しつつ、「思わぬ瞬間を目撃して大変なことになる」というサスペンスやミステリーの醍醐味を満喫させる一作。
『パニック・ルーム』
製作年/2002年 製作・脚本/デヴィッド・コープ 監督/デヴィッド・フィンチャー 出演/ジョディ・フォスター、フォレスト・ウィテカー、ジャレッド・レト、クリステン・スチュワート
娘を守るため母親が繰り広げる密室の攻防戦!
恐るべきレクター博士と対峙した傑作『羊たちの沈黙』をはじめ、飛行機内で娘が消えてしまう『フライトプラン』など、スリラーやサスペンスの似合う超実力派スターといえば、ジョディ・フォスター。そんな彼女が、やはり同ジャンルの巨匠である『セブン』『ファイト・クラブ』のデヴィッド・フィンチャーと組んだのが、この作品。11歳の娘サラとともに元夫が購入した豪邸に引っ越したメグ。しかし強盗たちが侵入し、メグと娘は家に備えられた緊急避難用の『パニック・ルーム』へ逃げこむ。
メグは閉所恐怖症で、サラは糖尿病でインスリンの注射が必要。その2人がパニック・ルームに立てこもることで、多くのトラブルも発生。パニック・ルームの機能や秘密も、犯人グループとの攻防をサスペンスフルに盛り上げる。さらにメグの娘への愛情がドラマチックな要素を加速させ、このあたりに女性を主人公にした効果が絶大だ。事件が起こるまでのスピード感や、その後の緊迫の瞬間の数々、密室の閉塞感など、フィンチャーの演出が冴えわたり、一瞬も息がつけない。サラ役は現在、トップスターとなったクリステン・スチュワートで、子役としての才能にも驚くはず。
『セルラー』
製作年/2004年 原案/ラリー・コーエン 監督/デビッド・R・エリス 脚本/クリス・モーガン 出演/キム・ベイシンガー、クリス・エヴァンス、ジェイソン・ステイサム、ジェシカ・ビール
誘拐された女教師の頼みの綱は1台のケータイ!
自宅に侵入した男たちによって、高校教師のジェシカが誘拐される。屋根裏部屋に監禁された彼女は、犯人たちが破壊した電話器のコードを接触させて修復。その電話からたまたま発信できたのが、見ず知らずの青年、ライアンの携帯電話だった。最初は状況がわからず、変な電話だと無視する彼だが、ジェシカの置かれた状況が事実だとわかり、電話のやりとりで救出を試みる。2004年の作品で、タイトルの『セルラー』は、セルラーフォン(携帯電話)のこと。スマートフォンが主流となった現在はあまり使われなくなった言葉。
ジェシカが唯一、連絡がとれるのがライアンということで、2人の会話が命綱になって緊迫感がぐんぐん上昇。ジェシカが理系の教師という設定も、絶妙に使われる。生死ギリギリのジェシカのサバイバルをキム・ベイシンガーが熱演するが、最初は軽いノリのライアン役、クリス・エヴァンスが、正義のヒーローとしての使命感をもつ変貌を鮮やかに体現。この作品の7年後、彼はキャプテン・アメリカを演じると考えると感慨深い。犯人の素性や犯行の動機もショッキングだし、ラストまで一気の勢いのノンストップ感も魅力だ。
『ゆりかごを揺らす手』
製作年/1992年 監督/カーティス・ハンソン 出演/アナベラ・シオラ、レベッカ・デモーネイ、アーニー・ハドソン
夫を亡くした妻の復讐劇にゾッとする!
『ミザリー』(90)、『氷の微笑』(92)など、過去に類をみないヒロインが登場するサスペンスやスリラーがブームとなっていた1990年代の初め。この1992年の映画も、主人公の恐ろしさが全世界を震え上がらせた。発端は、ある産婦人科医の患者に対するセクハラ騒動。その患者、クレアの訴えで窮地に立たされた医師は自殺。ショックで医師の妻ペイトンも流産してしまう。やがてクレアの家にベビーシッターが雇われる。そのベビーシッターこそ、ペイトンだった。クレアに対する信じがたい復讐劇がはじまる。
無垢な赤ちゃんが眠るゆりかご。それを揺らす手の正体は……という物語。喘息の持病があるクレアに発作を起こさせるなど、ペイトンの行動は強烈にエグいのだが、クレア側も長女エマの機転などで対抗。壮絶なバトルの要素も呈していき、終盤は肉弾戦にまで発展し、呆然とさせられる。完璧に“悪女”のペイトンなのだが、赤ん坊であるクレアの息子に自分の母乳を与えるなど、母性を失った悲しみも抱えているところがポイント。基本は戦慄のスリラーながら、切ない後味に引きずられる人も多いことだろう。
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