『イカゲーム』の主人公が演じる壮絶バイオレンス!
タフでなければ生きていけない!『ただ悪より救いたまえ』
『悪魔を見た』『アシュラ』『悪人伝』などなど、韓国ノワールには強烈と表現すべき作品が多い。ファンを熱狂させる、このジャンルに新たに殴り込んできたのが『ただ悪より救いたまえ』。『チェイサー』や『哀しき獣』『殺人の告白』などで脚本家として韓国ノワールの世界を切り拓いてきたホン・ウォンチャンが監督を務め、ドス黒い裏社会を流血で染める鮮烈なドラマを生み出した。
物語のはじまりは日本。東京在住の孤独な韓国人暗殺者インナムは、暴力団の大物コレエダの殺害を最後に、足を洗うことに。難なく仕事をこなした矢先、かつての恋人ヨンジュがタイ、バンコクで殺されたことを知り、現地に飛ぶ。ヨンジュは9歳の娘ユミンを女手ひとつで育てており、誘拐されたユミンの救出に奔走していた矢先に殺害されたという。そしてユミンの父はインナムであるという驚くべき事実。娘を助けようと決意したインナムは、バンコクの裏町を駆け回る。そんな彼を、コレエダの弟で、情け容赦ない殺し屋として悪名を馳せるレイが復讐のために追跡。彼らの行く先々では血が流れ、死体が転がり、やがて舞台は裏社会への中枢部へ……。
韓国ノワールの基本は、言うまでもなく犯罪の世界を描くこと。本作では暗殺稼業に加え、ドラッグ密売や子供の誘拐、そこから派生する臓器密売の現実を生々しく映し出す。ギャングはもちろん、チンピラや娼婦がうごめき、野心や欲望、快楽や暴力が横行する、いかがわしい夜の街。その描写だけで、この世界が危険極まりないものであることが察せられる。
インナム(ファン・ジョンミン)/韓国国家情報院の工作員だったが、政府により組織は解体され口封じのために命を狙われる。韓国から逃れ、暗殺者として生きている
そんな世界でインナムとレイという凄腕の殺し屋ふたりが激突。いずれ劣らぬ凄腕だが、殺し屋稼業に嫌気がさしている沈着冷静な前者と、殺しに無常の喜びを覚える狂犬のような後者ではタイプがまったく異なる。そんなふたりが対峙する度に、スクリーンに異様な緊張感が走る。最初の遭遇では、狭い通路でのナイフ対決から、小部屋での格闘へ。続いて、カーチェイスに銃撃戦が絡んだ市街地バトル。クライマックスでは文字通り、血で血を洗う対決へと発展する。まさに息もつかせぬアクションの連続。ハイレベルの戦闘術を誇る暗殺者同士の対決から目が離せない。
レイ(イ・ジョンジェ)/無慈悲で凶悪な殺し屋。兄をインナムに殺される。演じるイ・ジョンジェは、ネットフリックス『イカゲーム』に主人公ギフン役で出演。これまでのクールな印象とは異なる人間味のある演技で、話題となった
壮絶なバイオレンスはもちろんだが、韓国ノワールで重要なのは、それらを裏打ちする感情のドラマ。インナムは血を分けた娘ユミンを助けたい一心で行動を起こし、レイは兄の復讐にとりつかれて暴走する。彼ら以外にも、インナムに協力することになるトランスジェンダー、ユイの人情味や、誘拐されたショックで口が利けなくなったユミンの幼心など、それぞれのキャラに気持ちを重ねずにいられない。エモーショナルなドラマはアクションを壮絶にする原動力でもあるのだ。
主人公インナムにふんしたファン・ジョンミンと、レイ役のイ・ジョンジェは、これまた韓国ノワールの快作『新しき世界』で、義兄弟の絆で結ばれたヤクザ者役で競演済みだが、7年ぶりの共演となった本作では真っ向勝負のスリル体現しており、各々のタフな存在感に目を奪われる。弱肉強食の世界では、タフでなければ生きていけない。愛する者を守ろうとするならば、なおさらだ。そんなハードボイルドな物語を叩きつける本作。香港ノワール好きならずとも見逃せない!
『ただ悪より救いたまえ』12月24日公開
監督・脚本/ホン・ウォンチャン 出演/ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェ、パク・ジョンミン、白竜、豊原功補 配給/ツイン
2020年/韓国/上映時間108分
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