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2026.07.17 NEW

映画『デッドマンズ・ワイヤー』短期間で挑んだ撮影の舞台裏とは?
【インタビュー】ビル・スカルスガルド「怒りを10段階で演じ分けた」

日本でもヒットした『IT イット/“それ”が見えたら終わり。』では、白塗りメイクで不気味な笑みを浮かべるキャラ、ペニーワイズに背筋が凍った人は多いはず。それ以外の作品でも、つねに強烈な存在感を示し、それが持ち味になっている俳優が、ビル・スカルスガルドだ。新作『デッドマンズ・ワイヤー』では、人質をとって立てこもる男という、またしても危険極まりない役どころ。しかも人質の首とショットガンをワイヤーで繋ぎ、動けば発砲される器具(これがタイトルの意味)を使っており、警察も手出しできない。この衝撃作について、ビルに話を聞いた。スウェーデン出身で、父親は今年のアカデミー賞にノミネートされた名優のステラン・スカルスガルド。兄のアレクサンダーら兄弟も俳優という一家で育った彼とのオンラインインタビューは、意外な場所から行われた。

──今どちらにいるのですか?

「じつはスウェーデン南部にある家族の別荘に来てるんだ。ちょうどスウェーデンの休日である夏至祭で、親戚や友達もたくさん集まっている。森の中を散歩しながら、このインタビューを受けているよ(笑)」

──この『デッドマンズ・ワイヤー』は実話の映画化ですが、演じたトニーという男は、あなたとまったく違う外見です。

「その点は僕も気にかかっていた。でも監督のガス(・ヴァン・サント)は似てるかどうか、まったくこだわっていなかったので、僕はトニーの心情やエネルギーを表現することに集中したんだ。トニーは追い詰められた動物のようで、精神的に傷ついていながら、危険な状態にある。例えて言うなら、圧力鍋が爆発しそうな感じ。でも同時に被害者の側面もある、複雑なキャラクターなんだよ」

──トニーは自分の財産を騙し取った会社を相手にするわけですからね。どのように彼の心情にアプローチしたのですか?

「信じ難いほど不公平な扱いを受けた彼の怒りの心情は、人質になったディック・ホール(財産を奪ったとされる不動産ローン会社の社長の息子)が、80代になって初めて当時のことを書いた手記が参考になった。そこで彼は、トニーがどれだけ怒りに支配されていたかを説明しており、僕は怒りをさまざまなレベル、たとえば4段階、10段階と設定して表現することにした」

──トニーの怒りを段階的に表現するうえで、本作はストーリー順の撮影で、しかも19日という短期間だったことも役立ったのでは?

「こんなにいっぱい喋る役は初めてと思うくらいセリフが多く、19日の短期間ということで、すべてセリフを暗記して臨む必要があった。1日の撮影で台本の16〜17ページ分くらい進んでしまうからね。撮影前は不安も大きかったけど、カメラが回り始め、次から次へとシーンが続くと、その勢いに乗って全力でエネルギーを出し切れた。短期間の撮影が演技にプラスになったことに驚いたな。うまくいったと思う」

──実生活でトニーほどの怒りを感じたことはありますか?

「さすがにトニーに匹敵するほどの怒りは経験してないかな。でも大切なことなのに軽んじられたり、不当な扱いを受ける気持ちは共感できる。特に子供時代は誰でもそういう経験があるよね? 今は僕自身の子供が、欲しいものが手に入らず、よく怒ってるし(笑)」

──人質をとって立てこもる設定の映画には、1975年の『狼たちの午後』という傑作があります。その主演のアル・パチーノが本作ではローン会社の社長役で出演しています。

「『狼たちの午後』との類似点は僕も感じてて、アルが本作に関わると知っただけでテンションが上がった。アルとは直接の共演シーンがないけど、電話では会話するので、そこを監督も交えてリハーサルして、ちょっとセリフを変えたりもした。それだけでも一緒に仕事をした満足感で、クールな気分になったね」

──3日間の事件を描くので、トニー役の衣装も1着のみですね。

「撮影初日までに、衣装の選択肢は2つあった。ひとつは実際にトニーが着ていた、70年代っぽいライトグリーンのシャツと茶色のパンツ。もうひとつは白と緑の花柄のアロハシャツ。シャツの色や特徴が映画全体のムードも作るわけで、アロハを選ばないで正解だったな」

──あなた自身のファッションへのこだわりは?

「僕は仕事で映画のプレミアなんかで、あえて派手な色づかいでドレスアップしたりもするけど、日常生活で求めるのは、あくまでも着心地の良さ。脱いだり着たりも簡単な方がいい。年齢を重ねながら見た目をおしゃれにしたい気持ちはありつつ、まず“このパンツは快適かな?”と考える。それが洋服選びで最も重要なポイントかな」

──本作では短期間の撮影で集中力が途切れなかったようですが、ふだんの現場で集中したり、あるいはオフの時間に気持ちを切り替えたりするうえで、何か意識してやっていることはありますか?

「必要に応じて音楽を聴いたりする。演じる感情を呼び起こし、ゾーンに入るうえで、特定のプレイリストを作って現場に持って行くことはあるね。あと『ノスフェラトゥ』では、呼吸法を活用した。キャラクターの声のリズムや音域に入る込むための儀式のようなもの。肺が開くことで、低い声も自在に操れたりする。まず40回呼吸をして、その後、息を止め、酸素をゆっくり吐き出す。さらに数分間、息を止める。それをもう一度、繰り返す。この呼吸法は、身体がリセットされた感覚になるので、どんな時にも有効だよ。体調が悪い日や、精神的に不安で行き詰まりを感じた日は、これを15分やってる。俳優のキャリアを積むと、こうしたテクニックを発見するわけで、これからも使い続けるよ」

──いま『ノスフェラトゥ』の話が出ましたが、同作での吸血鬼や、『IT/イット〜』のペニーワイズのように、“人間”の枠を超えたキャラクターを意識的に選んでいるのですか?

「僕のキャリアを振り返ってもらえれば、明らかに“人間”の役が多いんだけどね(笑)。でもたしかに、ノスフェラトゥやペニーワイズは最大の成功を収めたし、演じるのも楽しんだかな。ペニーワイズ役の場合、それ以前の僕は実績が少なく、長いオーディションのプロセスで、変幻自在に演技ができることを証明しなければならなかった。高倍率を勝ち抜いて役をつかんだんだ。ノスフェラトゥも同じようなプロセス。ただノスフェラトゥは特殊メイクに何時間もかかるので、撮影の最後の日は“二度とこんな役はやらない”と自分に言い聞かせたよ。なのにその1年後、TVシリーズでペニーワイズの衣装を着て、“あぁ、またやっちゃった。人生は思ったとおりにいかない”と痛感した(笑)。ホラー映画の悪役は、変身する喜びを味わえる。でも、もう十分やったという満足感もあるね」

撮影中の様子。左からビル・スカルスガルド、監督のガス・ヴァン・サント

──今後の公開作ということで、ニコラス・ケイジと共演した『ローズ・オブ・ウォー(原題)』(『ロード・オブ・ウォー』の続編)があります。ニコラスは当初、『デッドマンズ・ワイヤー』でトニー役を演じる予定だったんですよね?

「そう。撮影現場でニコラスにその話をしたよ。ただ、その時点で彼は僕の『デッドマンズ・ワイヤー』を観ていなかった。その後、観てくれたか気になるな」

──では最後に、夏至祭で家族と過ごしているということで、お父さんや兄弟が、あなたの出演作について何か感想を言っているか教えてください。

「『デッドマンズ・ワイヤー』は、ストックホルムで上映会があり、みんなで観てくれた。特に父が気に入ってくれたよ。このように自分でも誇りを感じる作品を家族や友人に観てもらうのは、すばらしい経験だ。僕の素顔を知る彼らは、他の人が気づかないような部分で、あれこれ感想を言ってくれるからさ」

『デッドマンズ・ワイヤー』
7月17日(金)より全国公開
配給:KADOKAWA
© 2025 Starlight Digital Ventures, LLC. All Rights Reserved.

 
文=斉藤博昭 text : Hiroaki Saito
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