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2025.12.27 NEW

映画ライター森直人がオススメ!
年末年始に絶対観てほしい! 2025年公開の傑作洋画3本!

皆様、今年も一年本当におつかれさまでした!

世知辛い世の中で頑張り抜いたあなたに贈るべく、2025年の新作映画をざっくり振り返るガイドを作成しました。年末年始に配信で楽しめる作品、そして劇場でまだ観られる作品の中から、洋画3本・邦画3本の計6本を厳選セレクト。メガヒット作品より、マニアにも評価される“いい味の名作”を優先してピックアップ。あなたの映画ライフが少しでも豊かになりますように! まずは洋画編からおとどけします!

【洋画編】


『ワン・バトル・アフター・アナザー』(監督:ポール・トーマス・アンダーソン) 
一部で劇場公開中&Amazonプライムなどで先行配信中(2026年1月7日よりAmazonプライム、U-NEXTなどで配信予定)

賞レースや年間ベストテンでは現在無双状態。その種のリストが発表されるたび、『受賞』『1位』の結果が踊りまくり、プロ筋の評価としては2025年度の絶対王者に君臨する一本。当然にも2026年3月開催予定の第98回アカデミー賞ではガチガチの大本命。それが『ブギーナイツ』(1997年)『マグノリア』(1999年)『リコリス・ピザ』(2021年)などで知られる“PTA”ことポール・トーマス・アンダーソン監督(1970年生まれ)が、あのレオナルド・ディカプリオと初タッグを組んだ『ワン・バトル・アフター・アナザー』だ。

そもそも一般公開前、PTAにとっては父親世代の巨匠、スティーヴン・スピルバーグ監督が「なんてクレイジーな映画だ。すべてが最高!」と本作を激賞し、PTAを「往年の名監督のようだ」と讃えたところから本作の無双伝説がはじまったと言っていい。最近、ネットフリックスによるワーナー・ブラザース買収が発表されたりなど、とにかく大荒れのハリウッド業界なのだが、PTAは個人力を発揮して信頼できる仲間たちと連帯し、21世紀をとんでもない馬力で駆け抜けている。この映画も昔ながらのアメ車に馬鹿げた排気量のモンスター級エンジンを搭載し、最新EV車を次々ぶっちぎっていくような桁外れのパワーとエネルギーに満ちているのだ。

原作は難解な作風で知られる現代アメリカのカルト帝王作家、トマス・ピンチョンが1990年に発表した小説『ヴァインランド』。PTAがピンチョンの小説を映画化するのは『インヒアレント・ヴァイス』(2014年)に続き二度目だが、かなり原作に忠実なアプローチを見せた前作に対し、今回は“ザッツ・エンタテインメント!”な作風に大幅脚色。内容を超簡単にまとめるなら、「高校生の娘をさらわれた元革命家のヨレヨレ親父が、娘を捜しながら変態軍人とその一味に追われる物語」だ。娘を捜す父親というモチーフは、ジョン・フォード監督の西部劇『捜索者』(1956年)を連想させるもの(『捜索者』の場合は姪っ子だが)。だが『ワン・バトル・アフター・アナザー』でディカプリオが扮するボブは役立たずのスラッカーで《『ビッグ・リボウスキ』(1998年/監督:ジョエル・コーエン)のジェフ・ブリッジスと同じようにずっとバスローブを着用している》、マリファナのやりすぎが原因か、革命家時代に覚えた暗号がまったく思い出せず、「今何時?」(What time is it?)――覚えてねえって!との掛け合いがサザンオールスターズの『勝手にシンドバッド』ばりにリフレインする。そんなドタバタ喜劇に笑い転げているうち、気がつけば大波のような荒野の坂道での豪快なロードアクションがはじまっているという、まさに怒涛かつ至福の展開だ。

役者陣もめっちゃ特濃。白人至上主義者なのに黒人女性への欲望に負ける変態軍人ロックジョー役は、ヤバすぎる髪型で危険度MAXに仕上げたショーン・ペン。伝説的な革命家ペルフィディアを鮮烈に演じるテヤナ・テイラーと、聡明なZ世代の娘ウィラに扮する新星チェイス・インフィニティは共にかっこよすぎ。そしていかにも名脇役らしい滋味深さを添える空手の『センセイ』役のベニチオ・デル・トロなど、全員スタンディングオベーション級だ。さらにスティーリー・ダンの初期の名曲『ダーティ・ワーク』なんかをサラッと挟み込む選曲センスを含め、確かにすべてが最高!

『ワン・バトル・アフター・アナザー』
製作・監督・脚本・撮影/ポール・トーマス・アンダーソン 出演/レオナルド・ディカプリオ、ショーン・ペン、レジーナ・ホール、ベニチオ・デル・トロ、テヤナ・テイラー 配給/ワーナー・ブラザース映画
2025年/アメリカ/上映時間162分
 

  

 


『ANORA アノーラ』(監督:ショーン・ベイカー) 
Amazonプライム、U-NEXTなどで配信中

一年間を通じて日本公開された映画を振り返っていると、遠近法が多少バグってくるもので、最初のほうの公開作は「あれっ、それも今年だったっけ?」と存在感が不当に薄くなりがちである。そこでいま忘れてはいけないのが、2025年3月、第97回アカデミー賞で作品賞を含む最多5冠に輝いた『ANORA アノーラ』だ。その前は2024年5月、第77回カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を獲得している。“カンヌ⇒アカデミー両方制覇”の流れは、『パラサイト 半地下の家族』(2019年/監督:ポン・ジュノ)と同様の快挙だった。2025年下半期の絶対王者が『ワン・バトル・アフター・アナザー』だとするなら、上半期に華麗な話題を振りまいた『ANORA アノーラ』の素晴らしさを改めてここで讃えたい。

監督はショーン・ベイカー(1971年生まれ)。ニューヨークを拠点とする筋金入りのインディペンデント監督だ。だが映画の撮影自体は『タンジェリン』(2015年)のLA、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017年)のフロリダ、『レッド・ロケット』(2021年)のテキサスといった具合に一作ごとに場所を移してきた。久々にNYに戻ってきた『ANORA アノーラ』は、長編第8作目にしてベイカー監督の最初の集大成と言っていい一本だろう。

お話は“アンチ・シンデレラストーリー”。つまりバーナード・ショウの戯曲『ピグマリオン』を原作とした『マイ・フェア・レディ』(1964年/監督:ジョージ・キューカー)型のシンデレラストーリーという定型的な枠組みが下敷きになっている。裕福な上流階級の男性がアンダークラスの女性を見初めるというもの。そのテンプレートをパロディックに引っ繰り返すのが、『ANORA アノーラ』という作品組成の大枠。特にジュリア・ロバーツがセックスワーカーを演じた人気作『プリティ・ウーマン』(1990年/監督:ゲイリー・マーシャル)が“引っ繰り返す前の原型”に近い。

主人公のアノーラ(マイキー・マディソン)は23歳のストリップダンサーだ。NYブルックリンのロシア系移民の多い地区――“リトル・オデッサ”ことブライトン・ビーチで暮らしている。そんな彼女は職場のクラブで、21歳のロシア人の新興財閥のバカ息子イヴァン(マーク・エイデルシュテイン)と出会う。そして彼がロシアに帰るまでの7日間、1万5000ドルの報酬で“契約彼女”の仕事を引き受けるのだ。

最初はハリウッド定番のロマンティックコメディっぽく快調&ご陽気に進むのだが、途中からNYの移民社会を舞台に、しっちゃかめっちゃかな騒動へと急旋回する。ベイカー監督の卓越は、いわゆるポリコレ的風潮からも見捨てられがちな者たち――“いま本当に疎外されている人々とは誰か”を考え、その在り様を絶妙な距離感で見つめるところ。『ANORA アノーラ』では1%の経済覇者がどのようにセレブの甘い夢を見せて、社会的弱者を搾取するのかという“ドナルド・トランプの時代”そのもの寓意をアノーラが体現した。彼女の物語は、我々庶民=99%側の哀歌ではないかとも思えてくる、堂々の社会派映画でもあった。

マイキー・マディソン(1999年生まれ)というニュースターを生んだのも凄い。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年/監督:クエンティン・タランティーノ)の端役――マンソン・ファミリーの一員を演じていた彼女にベイカー監督が注目して大抜擢。そしてアノーラ役でアカデミー賞主演女優賞を獲得。オスカー受賞後にはティファニーのグローバルアンバサダーなども務め、彼女自身は王道のシンデレラストーリーを歩むことになった。

『ANORA アノーラ』
製作総指揮・監督・脚本/ショーン・ベイカー 出演/マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーリー・ボリソフ 配給/ビターズ・エンド 
2024年/アメリカ/上映時間139分
 

  

 


『サブスタンス』(監督:コラリー・ファルジャ) 
Amazonプライム、U-NEXTなどで配信中

さて、その第97回アカデミー賞でマイキー・マディソンが主演女優賞を獲ったおかげで、まさかのオスカーを逃したのがデミ・ムーア大先生である。『サブスタンス』は作品賞のほか計5部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞のみ受賞。その前にデミ・ムーアはキャリア初となるゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル/コメディ部門)にノミネート&受賞を果たしていた。アカデミー賞授賞式ではオープニングからネタに使われていたため(司会のコナン・オブライエンがデミ・ムーアの身体の背中から這い出てくるという『サブスタンス』のパロディ映像が流された)、デミ・ムーアのオスカー獲得は堅いと予想されていたが……残念無念。しかしもちろん『サブスタンス』の衝撃的な面白さに変わりはない。今年のパワータイプ代表と言えば、『ワン・バトル・アフター・アナザー』よりこちらを挙げる人も多いかもしれない。改めてデミ・ムーアに大きな拍手を!

お話はハリウッドで長年活動する落ち目の女優エリザベス(デミ・ムーア)が、50歳の誕生日に唯一のレギュラー仕事であるフィットネス番組をクビになる悲惨な件からはじまる。キャリアの危機に立たされたエリザベスは禁断の再生医療に手を出し、やがて彼女の背の皮膚が破けて、“若返った肉体の自分”が現れる。スーと名乗り始めた分身(マーガレット・クアリー)はたちまちスターダムにのし上がるが、一線を踏み越えたエリザベスは後戻りできない狂気へと暴走していく。

ハリウッド業界を舞台に、美貌や若さへの執着――ルッキズムやアンチエイジングを主題とし、差別や抑圧を強いる男性優位の業界/社会システムへの風刺が苛烈に展開するが、ユニークなのはそれをクローネンバーグや塚本晋也ばりのボディホラーとしてやってしまったこと。「これ、どこまでいくんだ!?」と気が遠くなるほど、特殊メイクを駆使したデミ・ムーアの果てしなき爆演が、我々を未体験ゾーンの彼方へと連れていくのである。また業界/社会がありがたがる『定型的な美』といえば、いまハリウッドで俳優たちを脅かしている生成AIの得意分野だ。『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(2025年)でトム・クルーズはAIと戦ったが、彼と同じ1962年生まれのデミ・ムーアもまた、『サブスタンス』では象徴的にAIの脅威と捨て身で戦ったと言えるのではないか。

さらに面白いのは、一見ハリウッド映画としか思えない本作が、実はイギリス・フランス合作であること。監督はフランス人女性のコラリー・ファルジャ(1976年生まれ)。脚本も彼女のオリジナルで、第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で脚本賞を受賞している。パンデミック以降のハリウッドの機能不全を補完するように、実質“ヨーロッパで作られたアメリカ映画”が『サブスタンス』だという言い方もできるかもしれない。その意味では、文化としてのアメリカ映画のしぶとい底力を感じさせてくれる一本でもある。

ちなみに分身のスー役を好演したのは、1994年生まれのマーガレット・クアリー。若き日のデミ・ムーア大先生が『セント・エルモス・ファイアー』(1985年/監督:ジョエル・シュマッカー)で共演したアンディ・マクダウェルの実娘であり、『ANORA アノーラ』のマイキー・マディソンと同じく、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の出演者である。彼女の今後の活躍も要注目だ。

『サブスタンス』
製作・監督・脚本/コラリー・ファルジャ 出演/デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド
2024年/イギリス・フランス/上映時間142分

 

   

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
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