『マネーボール』
製作年/2011年 監督/ベネット・ミラー 脚本/スティーヴン・ザイリアン、アーロン・ソーキン 出演/ブラッド・ピット、ジョナ・ヒル、ロビン・ライト、フィリップ・シーモア・ホフマン、クリス・プラット
野球界に風穴を空けた常識破りの一手とは!?
2000年代のメジャーリーグで、資金不足にあえぐアスレチックスのGM、ビリー・ビーンがデータ分析に基づく新理論を使って資金潤沢な球団に立ち向かう物語。かねてより野球界の古い伝統や固定観念に疑問を抱いていたビリーは、イェール大学卒のピーターとの出会いを通じてデータ分析の有効性に気づき、出塁率をはじめとする様々な数値的根拠に基づいて年棒額にとらわれない各選手の真の価値を算出。少ない資金ながらこれまで過小評価されてきた選手を効率よく獲得し、トップレベルの勝利数を誇る強豪チームへと育て上げていった。
もちろん、改革者には逆風がつきものだ。「数字で野球を語るな!」という厳しい批判の声もあった。それでも一歩も引かず、貧乏球団が生き残るにはこの道しかない!と挑み続けたビリーを、ブラッド・ピットが決して力まない自然体の魅力で好演。努力や根性を語らない新たなスポーツドラマとして評価され、アカデミー賞では作品賞をはじめ全6部門にノミネートされた。
『チェ 28歳の革命/39歳 別れの手紙』
製作年/2008年 監督/スティーヴン・ソダーバーグ 脚本/ピーター・バックマン 出演/ベニチオ・デル・トロ、デミアン・ビチル、カタリーノ・サンディノ・モレノ、エドガー・ラミレス、オスカー・アイザック、マット・デイモン
革命のため、民衆のために命がけで戦い続けたカリスマ!
ゲバラといえば革命を象徴するアイコンとしていまだ鮮烈な印象と影響力を放ち続ける存在だ。アルゼンチン生まれながら、その目は初めから中南米全体へと広く向けられていた。これらの国々で無数の独裁政権が人々の暮らしを抑圧するのを看過できず、ゲリラ戦によって各地に革命をもたらそうと生涯かけて魂を燃やし続けた彼---。
全長4時間20分を超えるこの2部作は、ゲバラの半生を時系列的に追うような真似はしない。前編では28歳の彼が約2年の歳月をかけてキューバ革命を成功へと導いていく過程と、64年に彼が国連総会で歴史的演説に臨んだ姿を交互に描写。後編ではキューバでの約束された地位や暮らしを潔く捨て、ボリビアに乗り込んで革命闘争を続けた最期の日々を焦げ付くような焦燥感と共に刻む。何よりも主演デルトロの演技は圧巻で、虚飾を脱ぎ捨て、あくまで一人の人間としての慈愛、親しみやすさ、理想の高さを浮き彫りにするリアルさが、観る者を引き込んでやまない。もしあなたがゲバラに興味を持ったなら、若き日の旅路を描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004年)もオススメしたい。
『アメリア 永遠の翼』
製作年/2009年 監督/ミーラ・ナイール 脚本/アンナ・ハミルトン=フェラン 出演/ヒラリー・スワンク、リチャード・ギア、ユアン・マクレガー、ミア・ワシコウスカ
あらゆる常識を超えて空高く飛べ!
リンドバーグの大西洋単独飛行から5年、史上二人目となる同ルート単独横断を成し遂げた女性飛行士アメリア・イアハート。本作は、アメリカの魂ともいうべき冒険心を象徴する存在となったこの偉人を、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)で主演女優賞に輝いたヒラリー・スワンクが演じるだけでなく、自らエグゼクティブ・プロデューサーとなって結実させた一作。ショートカットと颯爽としたパンツルックで人々に「周囲から不可能と言われても決して諦めないで!」と語りかけ、大恐慌時代の1930代を生きる女性たちの社会進出を全力で後押した彼女の影響力は計り知れない。
内面から役になりきったスワンクは、アメリアが遺した名言を力強く口にする。いわく、たとえ自分の心が恐怖で覆われても、そこから逃げ出さず、しっかりと向き合い克服することこそ重要なのだ、と。そうした日々の努力によって常識は打ち破られ、不可能は可能となり、数々の偉業が打ち立てられていったのだ。彼女にとって飛ぶことが、何事にも束縛されず、世の中の取るに足らない固定観念を軽やかに超えていく行為であったことが深く伝わる力作である。
『エド・ウッド』
製作年/1994年 製作・監督/ティム・バートン 脚本/スコット・アレクサンダー、ラリー・カラゼウスキー 出演/ジョニー・デップ、マーティン・ランドー、サラ・ジェシカ・パーカー、パトリシア・アークエット、ビル・マーレイ
史上最低監督の情熱あふれる生き様を見よ!
主人公は映画好きの人なら誰もが一度や二度聞き覚えのある、実在した映画監督。エドはいつもとびきりの映画愛に包まれていた。新作の企画を熱っぽく語っては周囲を魅了し、いざ撮影がはじまると良いテイクも悪いテイクもお構いなしで、全てを猛スピードで撮り上げる。そうやって完成した映画は誰もが「こりゃ一体なんだ!?」と首を傾げてしまうほどひどいシロモノばかり。いつしか彼は「史上最低の映画監督」と呼ばれるようになっていく。
はたして彼はハリウッドに散った人生の敗者だったのか? いや、ティム・バートンとジョニー・デップが本作に込めた敬意と愛情を見ても分かるとおり、このエド・ウッドという奇才は、誰とも比べようのない唯一無二の境地を極めた奇跡的な人間だ。決してあきらめない。妥協しない。新作プレミアで罵声を浴びたり物を投げつけられても、彼は変わらぬ情熱と笑顔で映画を作り続けた。それはもはや一つの輝かしい才能だ。本作は史上最低どころか、見方次第では史上最高とも言いうる、愛すべき男の物語である。
『マイケル・コリンズ』
製作年/1996年 監督・脚本/ニール・ジョーダン 出演/リーアム・ニーソン、エイダン・クイン、ジュリア・ロバーツ、アラン・リックマン、イアン・ハート
リーアム・ニーソンの渾身の演技に胸が震える!
長きにわたってイギリスの統治下に置かれ、真の自由を束縛され続けてきたアイルランド。そこからの独立を目指して民衆を力強く導いた立役者の一人がマイケル・コリンズだ。主演リーアム・ニーソンといえば『頼れるリーダー』『尊敬すべき師匠』という役柄を幾つも演じ続けてきたことでお馴染みだが、長身で屈強なカラダつき、迫真の演技力で繰り出されるカリスマ性は本作でも計り知れず、一つ一つの言動にも仲間や祖国への並々ならぬ愛情が溢れる。
激しい独立戦争の果て、コリンズは代表団の一人として参加したイギリスとの条約交渉で、たとえ目的達成には程遠くてもまずは戦争を終わらせ、成果と呼べる”確実な一歩”を手にすることを選択。しかしその結果、アイルランドが条約賛成派と反対派に引き裂かれて内戦状態へ突入してしまう様があまりに哀しい(この顛末はケン・ローチの傑作『麦の穂を揺らす風』にも詳しい)。アイルランドを代表する名匠ニール・ジョーダンの手堅い演出により、祖国の英雄の姿が力強く刻印された本作。ヴェネツィア国際映画祭では金獅子賞を受賞している。
Photo by AFLO