ぺ・ドゥナ/1979年10月11日生まれ、韓国出身。モデル、テレビドラマ出演を経て、『リング・ウィルス』(1999年)でスクリーンデビュー。
強大な敵を誇る帝国を相手に、使命をもった者たちが団結して戦いに挑む……。宇宙空間や、いくつもの惑星を舞台に展開する特大スケールのSFアクション大作『REBEL MOON ー パート1:炎の子』。監督は『300〈スリー・ハンドレッド〉』や『ジャスティス・リーグ』のザック・スナイダー。2部作で完成された壮大な世界観に酔いしれるが、最大の魅力は、さまざまな個性を持つ“ワケあり”の戦士たちの活躍だ。
なかでもひときわ異彩を放っているキャラクターがネメシス。ツバの広い帽子を深くかぶったミステリアスな女性で、『スター・ウォーズ』のライトセーバーを思わせる剣を両手に持って戦う。演じたのは、ぺ・ドゥナ。ソン・ガンホ監督の『グエムル –漢江の怪物-』(2006年)などで韓国を代表する俳優となり、『リンダ リンダ リンダ』(2005年)や『空気人形』(2009年)など日本映画にも出演。ハリウッドでも活躍する彼女にとっても『REBEL MOON』は大きなチャレンジとなったようだ。日本でも大人気のペ・ドゥナが、ネメシス役への思いや俳優業について語った。
ーーこのパート1を観る限り、ネメシスはかなり謎めいたキャラクターです。どのようにアプローチしたのか聞かせてください。
作品自体はパート1とパート2に分けられていますが、脚本は1冊にまとまっていました。撮影もすべて一緒に行われています。ネメシスの素性や背景はパート1であまり描かれていないものの、パート2で明かされるので、私はそこを理解したうえで演じているのです。あまりネタバレはできませんが、家族の問題で心に傷を抱えたキャラクターなので、その気持ちに入り込みました。
ーー今回のオファーを受ける際に、ネメシスとあなた自身の共通点を感じたりしましたか?
私は冒険心があってプロ意識が強く、チャレンジングな俳優という印象を持たれているかもしれませんが、ネメシスのように繊細で弱い部分もあります。同時に、ネメシスは弱者を守る役割で、その部分には共感して演じる自信がありました。ですから「私にもできそう」と今回のオファーを受けたのです。
ーーネメシスは光を放つ剣を両手に持つ“二刀流”で戦います。撮影ではどんな物を手にして演じたのでしょう。
あの剣は、撮影用に3種類が用意されていました。実際にライトが点く剣、ライトが点かない剣、そして振り回せるような軽い剣という3つのタイプを、シーンに応じて「今はこっちで」という感じで小道具のスタッフが差し出してくれるのです。瞬間的に別の剣に持ち替えることもありました。剣のライトを点灯させるために、衣装の背中部分にワイヤレス装置を着けていたので、転がるアクションはちょっと苦労しましたね。
ーーあの剣に何か大きな意味はあるのですか?
ネメシスの復讐心を象徴しています。彼女の両手は義手。しかも復讐のために自ら腕を斬り落としたという設定です。つまり、あの剣は普通の手で動かすことはできません。そのあたりでネメシスの過去に何があったのか想像してほしいと思います。
ーー剣術のトレーニングも行ったのでしょうか?
これまでもアーチェリーやテニス、サウスポーでの卓球、そしてもちろんマーシャル・アーツなど、演じる役のためにたくさん訓練した経験があります。その延長で今回は剣術を学んだわけで、最初はいつも通りだと思っていました。ところが剣は“所作”を習得する必要があり、さらに剣を持った状態で匍匐(ほふく)前進するシーンがあったりして、とにかく足が辛かったですね(笑)。
ーーネメシスを演じるうえで、ザック・スナイダー監督から何か参考に見ておくように言われたりは?
ザック・スナイダー監督ともあろう人が、他の人の作品を例に出すわけありません! それは冗談として(笑)、ザックとは役作りについてZoomミーティングで話し合いました。ネメシスの過去、つまり“こういう人物”だとざっくりと伝えてくれただけで、撮影中はほぼ私に演技を任せてくれたのです。ザックは、私から瞬間的に、直感的に発せられる表現を望んでいました。その結果、私も素晴らしい演技ができたと思っています。
ーーたしかに素晴らしい演技でした。
スバラシイ(日本語で)……なんて言うと自画自賛みたいで恥ずかしいですが、自分が評価したわけではなく、ザックの想像を超えた演技にチャレンジできたことが素晴らしい、ということです(笑)。
ーーネメシスのたたずまいで、あなたが韓国にルーツがあることを意識したりは?
ほとんどありませんでした。ただ衣装から“韓国っぽさ”が伝わるとも思います。伝統的な韓国文化が色濃く反映されていますから。ネメシスはドラマ『キングダム』で使われたような帽子をかぶっていますが、あのタイプの帽子は本来、男性用のもの。普段かぶれないので、うれしかったのは確かです。いずれにしても私の魂を通して表現された役なので、韓国らしさは自然と出ているでしょう。
ーーこれまでハリウッド映画にも参加したことのあるあなたにとって、今回の撮影のスケール感はいかがでしたか?
ロサンゼルスのセットが壮大で、初めてその場に足を踏み入れた時は感動しました。また、オープンセットも規格外のスケールで、砂漠のど真ん中にひとつの村が作られたのです。CGIなのか実写なのか、その区別はつかないでしょうが、あの麦畑は種から植えて育て、実際に収穫もしています。砂漠でそんなことまでやるなんて信じられないですよね……。でも演じる立場としては、そうしたセットは最高の環境です。コラ(本作の主人公の戦士)とノーブル(宿敵)が戦うパート1のクライマックスも、セットのおかげで素晴らしい演技につながったと実感します。
ーーあなたにとって、この『RABEL MOON』の最大の見どころは何でしょう。
ストーリー以上のものが具現化された作品だと感じます。とにかくCGIが見事。脚本を読んだ時に、ある生命体がどのような映像になるか想像できなかったのですが、それが思いもよらぬほど可愛くて驚きました。そしてザック・スナイダー監督作品なので、もちろんキレキレのアクションも最大の見どころになっています。
ーー今回のようなハリウッド作品や、日本の是枝裕和監督作品など、あなたは野心的にグローバルな活躍をしています。それは意図どおりなのですか?
いえいえ、野心なんてありません(笑)。私は是枝監督だけでなく、いろいろな監督と親しくしています。ですから野心とか関係なく、俳優としてラッキーな人生を歩んでいるだけです。是枝監督から『ベイビー・ブローカー』(2022年)の話があった時は、「じゃあやりますか、はい」みたいな自然な流れで受けている感じ。どちらかといえば、フィギュア集めには強い野心があります。“『鬼滅の刃』、どうしても欲しい”とか(笑)。そもそも俳優の野心って何でしょう。演技で賞をもらうこと? 演技にランクをつけることなんてできません。ひとつだけ言えるのは、自分が演じる役を現実に存在させるため、そこに最善を尽くし、集中すること。そこには私も野心を持っていると思います。
『REBEL MOON パート1 炎の子』12月22日配信
製作・監督・脚本/ザック・スナイダー 出演/ソフィア・ブテラ、チャーリー・ハナム、ペ・ドゥナ、ジャイモン・フンスー、ミヒウ・ハウスマン、スタズ・ネア、レイ・フィッシャー、エド・スクライン、アンソニー・ホプキンス 配信/ネットフリックス
撮影=三橋優美子 photo:Yumiko Mitsuhashi
Netflix映画『REBEL MOON - パート1:炎の子』12月22日(金)世界独占配信
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