第一次大戦中にワンダーウーマンが活躍する姿を描いた前作(2017年)から66年後に舞台を移行させた『ワンダーウーマン1984』(2020年)には、ファッションの見地から見逃せないシーンが登場する。ダイアナことワーンダーウマン(ガル・ガドット)の願いで奇跡の復活を遂げたアメリカ陸軍航空部のパイロット、スティーブ(クリス・パイン)が、ダイアナの前で時代に相応しいコーデを次々披露してOKをもらうシーンだ。前作でスティーブと一緒に高級ブティックを訪れたダイアナが、1910年代に多くの女性たちが着ていたタイトなドレスを窮屈そうに試着する場面の裏返しになるシーンでもある。
『僕はそもそもパイロットだからこんな格好は苦手なんだ』とか文句を言いながら、スティーブはいくつかのセットアップにトライする。まずは彼が雑誌で見たという豹柄のシャツにパイピングのジャケット、次はマイケル・ジャクソンがミュージックビデオで着ていたような赤と黒のビニール製パラシュートパンツ、その次はボタンダウンのシャツにカーキ色のスラックス、それにアメリカ国旗が描かれた革製のウエストポーチ、さらに黄色いタンクトップ(まではいいのだがスティーブは1910年代の男だから裾をスラックスに押し込めようとする)、その次は胸に2つのポケットが付いたTシャツの上に淡いチェックのスーツと、どれも却下された後、ルーズフィットのシャツにニットスカーフというコーデに対して、ようやくダイアナはOKを出す。このスカーフはパイロット時代に寒いコックピットで過ごす際、スティーブの首元を温めていた物を思い起こさせ、そこがダイアナのお眼鏡に適ったのかも知れない。
でも、この1980年代メンズファッションショーの最後に登場するスポーツウェアのタウン仕様(残念なからウエストポーチは流用)が、その後のスティーブのシグネチャーラインになる。ダイアナと2人で街を歩くスティーブは、ベーシックな黒のジャンパーに黒のスラックス、グレーのウエストポーチに〈ロレックス〉の時計で決めている。ちなみに、前作に引き続いて衣装デザインを担当したリンジー・ヘミングによると、スティーブがジャンパーの下に着ている白いTシャツは、日本の寝具メーカーがキルトケットに使用している高価なファロン素材で出来ているのだとか。
登場人物が時代を行き来することで起きる笑いを服で表現した『ワンダーウーマン』2作。特に、『〜1984』ではモデル並みのルックと着こなしテクを持つクリス・パインの持ち味が、ともすると体育教師にも見えがちなスタイルをギリギリで回避しているような気がする。
『ワンダーウーマン1984』
製作年/2020年 原案・製作・監督/パティ・ジェンキンス 製作・出演/ガル・ガドット 出演/クリス・パイン、クリステン・ウィグ、ペドロ・パスカル、ロビン・ライト
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photo by AFLO