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CULTURE カルチャー

2023.09.10

アノ映画のファッションに憧れて。Vol.26
『スカーフェイス』の3Pスーツ。

 

 
スカーフェイス

1980年.反カストロ主義者として祖国キューバを追われ、フロリダ州マイアミに流れ着いた犯罪者、トニー・モンタナ(アル・パチーノ)が、麻薬王として一気に成り上がっていく。画面にあふれ返る血飛沫とコカイン、そして、セリフの中に50秒に1回の頻度で登場する”F××K”が、観客の五感を麻痺させる魅惑のギャングスター映画は、同時に、カリビアンのチンピラから暗黒街のトップへと駆け上がるトニーの豹変ぶりを、彼が着るファッションを通して描いたことで服好きをもビリビリと刺激する。『スカーフェイス』(1983年)ほど悪趣味が魅力的に感じる映画は少ない。たとえばそれはこんな風に。 

 
 

 
スカーフェイス

マイアミ漂着直後、永住権が認められず難民隔離施設に送られたトニーは、マイアミの麻薬王から指示されて元キューバ政府職員を殺害した見返りにグリーンカードを取得する。そんな下積み時代にトニーが好んで着るのは、赤地にタイガーがプリントされたトロピカル・シャツや、白地に赤い羽を広げた鳥がプリントされていたり、白地に黒いペリカンが羽ばたく、カリビアンの伝統に則ったド派手なアロハシャツたちだ。カラフルなシャツが汗と血に塗れていくプロセスは、トニーの成り上がり人生を予感させる。
 

  

 
スカーフェイス

やがて、コロンビア人のコカイン・ディーラーとの殺し合いを通して次第にその存在を認められ、裕福になっていくトニーがチョイスするのは、主に単色のスリーピーススーツだ。白い3Pスーツに黒いシルクのドレスシャツ&黒いポケットチーフ、スカイブルーの3Pスーツ&白ストライプのドレスシャツ、ネイビーブルーのチョークストライプ・スーツ&白いポケットチーフと、段階を踏んでオシャレになっていくトニー。口から飛び出す”F××K”の数は相変わらずだが。極め付けは、トニーが麻薬王フランクの元情婦だったエルヴィラ(ミシェル・ファイファー)を口説き落とし、晴れて結婚式を挙げるシーンで着るアイボリーのウェディングタキシード。ワイポイントとして首に真紅の蝶ネクタイを締めたそのスタイルはけっこうファッション上級者だ。
 

 
スカーフェイス

ところで、エルヴィラは1970年代のディスコシーンで新風を巻き起こしたアメリカン・ファッションの巨匠、ホルストンや、ジョルジョ・アルマーニにインスパイアされたファンシーなドレスでトニーとの違いを服で見せつける。でも、2人がキャデラックに乗っているシーンで、トニーはエルヴィラが目を逸らしている間に彼女の白いつば広帽を被って笑いを取ろうとする。それはエルヴィラの心がトニーに傾く重要なショットなのだが、実はこれ、アル・パチーノのアドリブ。そのせいで、ミシェル・ファイファーが本気で照れ笑いしているのが可愛い。オリバー・ストーンの脚本にはなかったアドリブを監督のブライアン・デ・パルマが活かしたキラーショットである。公開時、デ・パルマがラジー賞の監督賞候補に上がったのにも関わらず、パチーノが演じるトニーにはいくら汚れていても不思議な愛嬌があって、その後、本作は彼が纏うカリビアン・ファッションと共にいつしか伝説の映画になって行った。パチーノ自身もトニー・モンタナ役が生涯で最も好きなキャラクターだと認めている。

『スカーフェイス』
製作年/1983年 監督/ブライアン・デ・パルマ 脚本/オリバーストーン 共演/ミシェル・ファイファー、F・マーレイ・エイブラハム、スティーブン・バウアー 

 
 

 

 
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文=清藤秀人 text:Hideto Kiyoto
photo by AFLO
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