Safari Online

SEARCH

CULTURE カルチャー

2023.08.19


映画『バービー』が世界中で社会現象を巻き起こした理由とは?【後編】



映画『バービー』がここまで話題になっているのは、2023年の今こそ語り合いたいドラマだからだろう。

毎日“楽しいだけ”のバービーランドで、主人公のバービーが肉体&精神の異変に気づき、原因を探るため人間の世界へ向かう。その方法も、論理的というより映画的。ちょっと海外旅行にでも出かける感覚で行き来でき、背景が絵本っぽく描かれたりするので、この流れを軽やかに楽しめる。

バービーが初体験する人間の世界=リアルワールドは、バービーランドと価値観が真逆で、基本は“男性社会”。バービーを販売するマテル社の幹部もオール男性で、大統領などメインの役割がすべて女性のバービーランドからすれば、まさに異世界。この対比も映画的でわかりやすい。マテル社の受付で働き、母親としても悩みの多いグロリアによって、映画『バービー』が男性社会を批判する、いわゆるフェミニズ的テーマがせり出してくるわけだが、ここで最も注目なのは、ケンの立ち位置である。バービーのリアルワールド行きに同行するケンは、人間の世界で、自分と同じ男性たちが大活躍している事実に衝撃を受ける。“オトコもこんな風に生きていいんだ”と……。 

 
 

 


このケンのエピソードは、明らかに現実でのジェンダーの立場の逆転。ここに『バービー』の巧妙さが見てとれる。バービーたちの日常や運命を通し、現在進行形の映画らしいフェミニズムを盛り込むだけでなく、男性側にその感覚をスムーズに体験させる。さらに上手いのは、男性目線で観たら自虐的になりそうな展開を、決してそうさせないところ。バービーランドに戻ったケンは、仲間のケンたちにも説明し、男性中心に日常を送ろうとする。映画のうんちくを語ったり、ズレたオシャレを楽しんだり、男性“あるある”な描写は自虐スレスレなのだが、ライアン・ゴズリングらケン役のキャストたちの演技で微笑ましく見せている。だから男性目線で観ても、イヤな気分にならない。ミュージカル的な演出もあったりして、シビアなテーマを爽快に押し切ったところが『バービー』の成功の理由だろう。

グレタ・ガーウィグ監督は、私生活のパートナー、ノア・バームバック(『マリッジ・ストーリー』などの監督)とともに『バービー』の脚本を執筆した。女性目線、男性目線の両面からテーマを伝えるバランス感覚は、そんな共同作業だからこそ生まれたのかもしれない。
 

 


さらにもうひとつ、この『バービー』を観終わった後、ハッピーな気持ちにさせるポイントがある。それは作品全体で最も重要なメッセージと絡んでくる。バービーたちも、ケンたちも、価値観の変化を受け入れながら、これからの毎日を清々しく生きようとする。それは人間の世界のグロリアも同じ。こうした後味をもたらすきっかけは劇中に散りばめられており、なかでもバービーがリアルワールドで老女と出会うエピソードが心に残る。

人形なので基本的に歳をとることもなく、外見もキープされるバービーは、年齢を重ね、容姿も変わっていく人間に心から「美しい」と感動する。この老女を演じたのは、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996年)、『マ・レイニーのブラックボトム』(2020年)で2度のアカデミー賞を受賞した、ハリウッドを代表する衣装デザイナーのアン・ロス。現在91歳のレジェンドの人生が込められた佇まい。そこにバービーが心を動かされるわけだが、このような名シーンがさりげなく挿入され、「いい映画を観た」という後味につながる。しかもそこにはハリウッド映画の歴史へのリスペクトも加わっているのだ。
 

 


こんな風に書いていくと、テーマ性やメッセージが前面の作品と思われそうだが、全体の作りはポップでノリノリ。サウンドトラックにデュア・リパ、ビリー・アイリッシュなど豪華なアーティストが参加し、しかもそれぞれの曲がしっかりドラマに合わせて使われていたりして、エンタテインメントとして最高のスタイルを構築している。無意識にメッセージが届くところが『バービー』のスゴさなのだ。

『バービー』の大ヒットに気を良くしたマテル社は、マーベル映画のような“ユニバース”を視野に、すでに14ものプロジェクトを始動させたという。その動向はともかく、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や『バービー』のように2023年のメガヒット作は、シリーズものではなく、新たな世界が観客に支持されたこと証明した。現在の映画業界のトレンドを示しているようでもあり、“新しい発見”という意味でも『バービー』は今年必見の一本なのである。(前編に戻る)

『バービー』
製作・出演/マーゴット・ロビー 監督・脚本/グレタ・ガーウィグ 脚本/ノア・バームバック 出演/ライアン・ゴズリング、アメリカ・フェレーラ、ケイト・マッキノン、マイケル・セラ 配給/ワーナー・ブラザース映画
2023年/アメリカ/上映時間114分
 

 

 
Information

●noteでも映画情報を配信しています!フォローをよろしくお願いいたします。
https://note.com/safarionline

文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito
photo by AFLO
(c)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
〈アメックス〉のスモール・スポンサーシップ・パートナーズも参加!『サファリ・オープン』で特別な1日を体験!
SPONSORED
2025.12.24

〈アメックス〉のスモール・スポンサーシップ・パートナーズも参加!
『サファリ・オープン』で特別な1日を体験!

今年で3回めの開催となった、本誌『サファリ』主催のゴルフイベント『サファリ・オープン 2025』。毎年、様々なコンテンツやアクティビティでも話題となるこのコンペ。今回はさらに斬新なサービスも加わり、熱い盛り上がりを見せていた。そんな大盛況…

TAGS:   Lifestyle
知的なムードが漂う〈トム フォード アイウエア〉の新作!大人の品格を宿すクラシックな1本!
SPONSORED
2025.12.24

知的なムードが漂う〈トム フォード アイウエア〉の新作!
大人の品格を宿すクラシックな1本!

大人のコーディネートは、小物選びで“品格”が決まる。特に顔まわりの印象を左右するアイウエアは、手を抜けない重要パートだ。そこで注目したいのが〈トム フォード アイウエア〉の新作。繊細でクラシカルなフォルムが目元に知性を添え、冬スタイルを格…

TAGS:   Fashion
今、〈エドウイン〉の名作“505”が見逃せない!デニムにこだわるならメイド・イン・ジャパン!
SPONSORED
2025.12.24

今、〈エドウイン〉の名作“505”が見逃せない!
デニムにこだわるならメイド・イン・ジャパン!

タフで男らしい大人のカジュアルに欠かせないデニムは、今、王道の骨太な1本が人気。なかでも2023年に復活し、昨今のトレンドも相まって注目されている〈エドウイン〉の名作“505”が見逃せない。デニム本来の武骨な魅力やヴィンテージ感を気軽に楽…

TAGS:   Fashion Denim
クオリティにこだわった〈センテナ〉の新作アウター!今、着たいのは大人仕様のミリジャケ!
SPONSORED
2025.12.24

クオリティにこだわった〈センテナ〉の新作アウター!
今、着たいのは大人仕様のミリジャケ!

カジュアル好きの男にとって、ミリタリー系のアウターは昔から定番。とはいえ、いい年の大人になるとガチの軍モノは、マニアックすぎて少々着こなしにくいのも事実。ならば、洗練された大人仕様の1着を。〈センテナ〉のミリジャケなら武骨なデザインはその…

TAGS:   Fashion
創業地“小矢部”の名を冠した〈ゴールドウイン〉のプレミアムな1着!大人のスキーウエアは上質感と快適さで選ぶ!
SPONSORED
2025.12.01

創業地“小矢部”の名を冠した〈ゴールドウイン〉のプレミアムな1着!
大人のスキーウエアは上質感と快適さで選ぶ!

1950年にはじまった〈ゴールドウイン〉のヒストリー。その新作スキーウエアコレクションの名前は、創業地にちなんだ“オヤベ”だ。歴史の深みを感じさせ、エイジレスなスタンダードデザインでありながら、機能は最新鋭。素材はもちろん、ひとつひとつの…

TAGS:   Fashion

loading

ページトップへ