『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
基本的に、いい人。ちょっとタレ目な目元のせいか、カイル・チャンドラーには人柄のよさを感じさせる役や真っ当な人生を歩む役が似合う。物語の中で唯一、正しい方向を示していることも。レオナルド・ディカプリオやマシュー・マコノヒーがぶっ飛んでいた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でFBI捜査官を演じ、正義を全うしていたように。
現在57歳になるカイル・チャンドラーのキャリアのはじまりは、大学在学中に芝居の魅力にはまり、一路ハリウッドを目指したところから。ほかの俳優同様、当初はオーディションとアルバイトに明け暮れる日々だったものの、ほどなく映画やドラマへの出演を順調にこなすようになったという。
おそらく彼の代表作を1本挙げるとしたら、田舎町の悩めるアメフト部コーチ役で5シーズンにわたって主演を務め、エミー賞主演男優賞にも輝いた名作ドラマ『フライデー・ナイト・ライツ(原題)』を入れるべきだろう。しかし、これがなんと残念ながら日本未放送。そのため、バイプレイヤーの印象が日本ではより一層強くなっているかもしれない。
『キャロル』
『SUPER8/スーパーエイト』
ほかの印象的な作品に目を向けて見ると、SFファンタジー映画『SUPER8/スーパーエイト』では妻を亡くし、幼い息子との関係に悩むお父さんに。50年代を舞台にした『キャロル』では同性に惹かれる主人公の夫を演じ、“当時の常識”をストレートに体現する役割を担っていた。また、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』では人格者だった故人に扮し、残された者たちにスポットをあてる物語の中で大きな鍵を握る存在に。『ファースト・マン』や『ミッドナイト・スカイ』の宇宙飛行士役など、職業からしてアメリカの希望や良心を背負っているものもある。
『ゴジラvsコング』
そんな中、クレジット上は主演として、“いい人”の道を貫いているのが『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』とその続編にあたる『ゴジラvsコング』。ある出来事をきっかけにゴジラを憎むも、その生態に詳しい理解者でもある生物学者のマーク・ラッセル博士を演じている。実際にも助演に回った続編はもちろん、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』も言ってしまえば主役はゴジラ。
やはりマーク・ラッセル博士の役どころも、物語を引っ張るというよりは支えていた印象が大きい。時に混乱し、翻弄されながらも真っ当な立場で。冒頭こそゴジラを憎むあまり自堕落な姿を見せるが、物語が進むにつれパニック映画のヒーローのような変化も。混沌とした世界の中で、いい人オーラが巧く作用している。
もちろん、長いキャリアの中ではいい人オーラを逆手に取ることも。近年の主演ドラマ『BLOODLINE ブラッドライン』では地元の名士一家の“真っ当な”次男を演じていたが、それゆえ複雑な家族事情の中でこじらせまくる役どころでもあった。要するに、人のよさそうな外見をそのまま使うか、ヒネリ技をきかせるかは本人次第? 今後も作品のいい味になってくれそうだ。
Kyle Chandler[カイル・チャンドラー]
1965年9月17日生まれ。米NY出身。最新作はネットフリックスで11月18日から配信されるジェイソン・モモア主演『スランバーランド』。
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