ガス・ヴァン・サントがアメリカ、ポートランドで男娼として暮らす青年、マイクとスコットの日常と、マイクを子供の頃に捨てた母親を探して旅に出るロードに寄り添う『マイ・プライベート・アイダホ』は、誰でも即、真似したくなるアメカジの宝庫。本作で最高の演技を見せるリヴァー・フェニックスとキアヌ・リーヴスが着るワーキングウェアは、よく見ると細部にこだわりがある逸品揃い。それを普段着のように羽織っているリヴァーとキアヌの着こなしにも着目してほしい。
マイク・ウォーターズ(リヴァー・フェニックス)
写真右/スコット・フェイヴァー(キアヌ・リーヴス)
まずは、リヴァーから。ハイウェイに佇むマイクはパッチが付いたガソリンスタンドのシャツの上に、裏地がボアのランチコートをルーズに羽織ってみたり(額を全部見せるニットキャップのずらした被り方もおしゃれ)、スコットとバイクに跨るシーンでは黄褐色の裏地が付いた埃っぽいオレンジ色のバーンジャケットに朱色のジーンズを合わせている。また、ダイナーのシーンではホワイトジーンズを裾上げしてボロボロになったブーツをこれ見よがしに見せつけている。それらは勿論、ノーブランド。キャラ設定からしてそうあるべきなのだが、古着を上手く使ったスタイリングとレイアードのセンス、オレンジ on 赤というような危険なカラーリングを自然にクリアしているところが、今見ても凄いと思う。
マイクの衣装はガス・ヴァン・サイトとはほかにも『ドラッグストア・カウボーイ』(1989年)や『誘う女』(1995年)などでもコラボしているベアトリス・アルナ・パシュトールが集めた古着で、リヴァーはそれらをリハーサル段階から着てカラダに馴染ませていたという。なるほど、だからか。
一方、スコット役のキアヌはダブルのライダースジャケットにグレーのパーカーという、若干フェティッシュが入ったセットアップでマイクとロードを共にする。記録によると、それらはバイカーとして知られるキアヌの私物だとか。こっちも、なるほど。
映画史的な考察を加えると、マイクやスコットの衣装はジェームズ・ディーンが作り出した”反逆児のイメージに、失われたアメリカ西部のロマンを上書きしたもの、とも言われる。そんなうんちくは別にしても、彼らがまとう埃っぽいワーキングウェア、またはストリートファッション、もしくはグランジのテイストは、例えば今、ハイブランドの〈グッチ〉がアイデアとして取り入れているし、先日『ブレット・トレイン』で弾丸来日したブラッド・ピットのジャンプスーツとも、無関係ではない気がする。汚れているように見えても着やすいカジュアルは、みんな大好きなのだ。
『マイ・プライベート・アイダホ』
製作年/1991年 監督・脚本/ガス・ヴァン・サント 出演/リヴァー・フェニックス、キアヌ・リーヴス、ジェームズ・ルッソ、ウィリアム・リチャート
photo by AFLO