アクションに興奮し、ドラマにドキドキし、スターの魅力を満喫する……。映画を楽しむポイントはいろいろあるが、たまに気持ちよく涙を流したくなることもあるはず。感動映画が心に刺さるツボも人それぞれだが、この『コーダ あいのうた』の“泣ける度数”は、かなり高いと断言しよう。
主人公は、高校生のルビー。ろうあの両親と兄と生活し、ただひとり耳が聞こえる彼女は家族の“通訳係”だ。一家の仕事は漁業。高校で合唱クラブに入ったルビーは、歌うことの喜びにめざめ、顧問の教師も彼女の才能に気づき……という物語。まわりとのコミュニケーションのために、家族はルビーを頼るしかない。一方でルビーは、高校生活や自分の夢のために時間を使いたい。しかし家族も見捨てられないので、その葛藤に悩まされる。そんなルビーの立場を家族も十分に理解しており、本音と相手への愛で揺れ動くそれぞれのドラマが、暗くならず、基本は軽やかに描かれるので、かえって胸に迫ってくるのだ。
最大の見どころは、家族がルビーの歌をどうやって受け止めるかというエピソード。聞きたいのに聞こえないやるせなさなど、いくつかのステップが用意されるのだが、思わぬ方向から感動を誘う演出があったりする。もちろん音楽もポイントで、ジョニ・ミッチェルやマーヴィン・ゲイの名曲は、その歌詞もルビーの心情にシンクロして、本能的にテンションを上げる。これらの要素は下手したら、あざとくなるリスクも抱えるが、ルビー役、エミリア・ジョーンズの爽やかすぎる名演技に惹きこまれ、素直に作品に入りこんでしまう感覚。家族を演じるのが、実際に耳の聞こえない俳優たち(母親は『愛は静けさの中に』でオスカー受賞のマーリー・マトリン)なので、リアリティも満点だ。今年のアカデミー賞でもいくつかのノミネートを果たしそうな本作。「ふだん映画なんかで泣かない」という人が、もし今回も涙しなかったとしても、観終わった後に「いい映画だった」と素直に幸せな気分になれるのは間違いない。
『コーダ あいのうた』1月21日公開
監督・脚本/シアン・ヘダー 出演/エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、マーリー・マトリン、ダニエル・デュラント 配給/ギャガ
2021年/アメリカ・フランス・カナダ/上映時間112分
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