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2021年の映画賞を賑わすコノ感動作!
コロナ禍の影響は映画界、そして毎年恒例の映画賞にも影響を及ぼしているが、時期を後ろ倒しにしながらも徐々に授賞式を開催。そんな中、注目したい1本が、各主演男優賞の有力候補に挙げられているリズ・アーメッドの主演作『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』だ。
本作の主人公は、恋人とロックバンドを組み、トレーラーハウスを走らせながらアメリカ各地でライブ活動を行っているルーベン(アーメッド)。ドラム担当の彼はある日のライブ中、聴覚の異常に気づく。医師の診断を受けた彼は、回復の見込みがないと知って自暴自棄に。心配する恋人の勧めを受け、ろう者のためのコミュニティで暮らすことになるが……。
主人公ルーベンを演じるリズ・アーメッドは、イギリス出身の39歳。2014年『ナイトクローラー』でジェイク・ギレンホールの相棒役で注目を浴びた
音楽と共に生きるミュージシャンが、音の世界から突如切り離されたら……。このドラマティックな悲劇性にゾッとさせられるのは確かだが、実のところ物語はもっとシンプルに、淡々と、人が何かを失う過程を見つめていく。
音を失ったルーベンが、今までのままでいるのは不可能。彼にできるのは、新しい現実を受け入れることだけ。そんなルーベンの戸惑い、恐怖、嘆き、もがき、そして気づきを、リズ・アーメッドが誠実に切々と演じている。
『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などで知られるアーメッドだが、殺人事件の容疑者にされた青年を演じる連続ドラマ『ザ・ナイト・オブ』ではエミー賞主演男優賞を受賞。突然の事態にさらされ、否応なく変化していく役どころが巧い。
ヒロインを演じるオリヴィア・クックは28歳のイギリス人俳優。2018年の『レディ・プレイヤー1』では、謎の美女アルテミスを演じて話題に
また、物語はルーベンだけでなく、恋人のルー(オリヴィア・クック)にも目を向けている。ルーベンが“今まで”と切り離されたように、ルーにも新しい日々が。変わりゆくものが押し寄せる中で自分自身と向き合ったとき、果たして愛だけは今までのまま存在し続けるのか? リアルなラブストーリーとしても、考えさせられるものがある。
ちなみに、ルーの父親役でフランスの名優マチュー・アマルリックが登場するのだが、彼の代表作の1つは、片目のまばたきによってしか意思の疎通が取れなくなった主人公の苦闘を描く『潜水服は蝶の夢を見る』。感覚を制限された主人公の目線に立って物語を展開させていたあの映画のように、『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』では主人公の聴覚がシビアに、丁寧にフィーチャーされる。
聞こえていた音が突然遠のいたり、かと思えば聞こえるようになったり、耳鳴りがしたり、完全な無音になったり……。ルーベンの耳になった錯覚を観る者に抱かせ、彼の世界に寄り添わせる音の演出も見事だ。
『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』
製作総指揮・出演/リズ・アーメッド 原案・監督・脚本/ダリウス・マーダー 出演/オリビア・クック、ポール・レイシー、ローレン・リドロフ、マチュー・アルマリック 配信/アマゾンプライムビデオ
2019年/アメリカ/視聴時間120分
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photo by AFLO