
『ミッション』
製作年/1986年 監督/ローランド・ジョフィ 出演/ロバート・デ・ニーロ、ジェレミー・アイアンズ、レイ・マカナリー
圧巻の映像と伝道者の生き様に心震える!
西欧による南米侵略の一幕を壮大なスケールで描き、カンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いた傑作。18世紀半ば、布教のために南米へ派遣されたイエズス会の宣教師たちは、苦難の末に原住民グアラニー族との間に友好関係を結び、ある種の理想郷を生み出していた。しかし、スペインとポルトガル領土の境界線画定により原住民や宣教師たちは非情なる立ち退きを命じられ、いつしか植民者への抗議、抵抗へと身を投じていく。
冒頭からもう息を呑むばかり。十字架に縛られた宣教師が滝壺へ突き落とされる殉教シーンに唖然とさせられ、かと思えば、ガブリエル(アイアンズ)がオーボエの音色でグアラニー族の警戒心を解くワンシーンに心掴まれ、そこに連なる作曲家モリコーネの光と祈りに満ちたメインテーマが魂を揺さぶってやまない。同時に、これは伝道者たちの信念を描く映画でもある。ガブリエルはひたすら祈りと非暴力を貫き、元奴隷商人のメンドーサ(デ・ニーロ)は信仰心の目覚めによって全てを原住民のために捧げ、彼らのために戦うことを辞さない。対極的ではあるが、胸の中の想いは同じ。二人の生き様は、強大な国が人々を力で押さえ付けようとする現代に、より多くのものを訴えかけてくる。

『キリング・フィールド』
製作年/1984年 監督/ローランド・ジョフィ 出演/サム・ウォーターストン、ハイン・S・ニョール、ジョン・マルコヴィッチ
壮絶な地獄を生き延びることができるか?
時は1973年、カンボジア内戦の現地取材を行うアメリカ人ジャーナリストのシャンバーグは、クメール・ルージュが勢いを増して命の危険が迫る中で、なんとかフランス大使館に逃げ込んで事なきを得る。しかし共に逃げ込んだ通訳のプランは、自国民であることを理由に拘束され、強制労働へ送られる。そこから始まる地獄の日々。周囲で次々と人が銃殺される中、彼は決死の逃亡を図ろうとするが……。
正直言って、こんな悲痛な思いにさらされる映画体験は人生で数えるほどだ。なぜここまで人は残虐になれるのか。なぜ殺し合いや憎しみ合いは終わらないのか。ピューリッツァー賞を受賞したジャーナリストの体験に基づくだけあり、全編に深く刻まれたリアリティはすさまじく、さらに実際にクメール・ルージュの弾圧を経験したハイン・S・ニョール(本作でアカデミー助演男優賞受賞)の演技が生々しさを添える。俳優経験ゼロの彼が、観る者の目となり、心となって夥しい屍が築き上げられたエリアを彷徨うさまは地獄そのもの。製作当時まだ30代だったジョフィ監督の不退転の覚悟なくして、この妥協なき映画は生まれ得なかったろう。

『ダンス・ウィズ・ウルブズ』
製作年/1990年 監督・出演/ケビン・コスナー 出演/グラハム・グリーン、メアリー・マクドネル
フロンティアで紡がれる敬意と絆の感動巨編
80年代に俳優として破格の勢いを見せたケビン・コスナーが、次なる段階として自ら題材を見つけ、私費を投じて製作、監督、主演に挑み、作品賞や監督賞を含むアカデミー賞7部門受賞に輝いた名作。激化する南北戦争での捨て身の行為によって一気に英雄化した北軍中尉ジョン・ダンバーは、次なる配属先として開拓精神の象徴とも言える『フロンティア』を望む。荒野の砦でたった一人きりの生活を続ける中、ネイティブ・アメリカンのスー族との出会いが彼の運命を大きく変えることに……。
もはや西部劇では観客が呼べなくなっていた時代、しかも白人ではなくネイティブ・アメリカンの側に立つ内容に大手の映画会社が難色を示す中、コスナーの情熱こそが生み出した3時間(さらに長尺のバージョンも)の結晶と言っていい。広大な自然描写に息を呑み、バッファローの大群の圧倒的迫力、そしてスー族との肌の色や言葉を超えた交流がひたすら胸を打つ。ちなみに『蹴る鳥』という名の男を演じ助演男優賞オスカー候補になったグラハム・グリーン(『ダイ・ハード3』『グリーンマイル』)が’25年9月に亡くなった際、コスナーはSNSで彼の人柄や名演に想いを馳せ、心からの追悼の言葉を送った。彼らの敬意と絆の物語は、映画が終わってもなお続いていたのである。

『沈黙 -サイレンス-』
製作年/2016年 監督/マーティン・スコセッシ 出演/アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー
神の沈黙という禁断のテーマに挑んだ衝撃作
遠藤周作の小説『沈黙』を愛する巨匠スコセッシが、25年以上もの歳月をかけて挫折や中断を重ねながら、ようやく結実させた渾身の一作。1600年代、島原の乱が収束して間もない長崎で布教活動を行っていたイエズス会宣教師のフェレイラがキリスト教を棄てた。その報はポルトガルの弟子たちに衝撃をもたらし、真意を確かめるべく若きロドリゴとガルぺは危険を承知で日本へ向かう。しかし現地の宗教弾圧は想像を絶する過酷なものだった……。
信仰とは何か。もし神が存在するならば、これほどの絶望的状況が広がっているのに、なぜ沈黙を続けるのか。原作発表当時に世界中で波紋を呼び、スコセッシ自身も大きな関心を抱いたというこの問いかけが、映像化によってより具体的で切実な”絶え間なる波”となって打ち寄せてくる。所どころで小説とはやや異なるスコセッシならではのビジョンや解釈が窺えるのも興味深いポイント。とりわけ窪塚洋介演じるキチジローを、あれほど影と微かな笑いが同居する奥深い存在に仕立てた手腕には驚嘆せざるを得ない。ちなみに同じ布教の映画『ミッション』はおよそ100年後の世界。両作品ともにリーアム・ニーソンが宣教師役で登場するのが極めて印象的だ。

『アポカリプト』
製作年/2006年 監督/メル・ギブソン 出演/ルディ・ヤングブラッド、ダリア・エルナンデス、ヘラルド・タラセナ
家族への愛を支えに絶望的状況を抜け出す!
イエス・キリストの受難を描いた『パッション』(04)で世界に衝撃を与えたメル・ギブソンが、次なる監督作として選んだのは、ジャングルで狩猟生活を送る部族民の物語。ある日、彼らの暮らす村は他部族の襲撃を受け、多くの者が殺され、生け捕りにされた者はマヤの都市へと連れていかれる。そこで主人公ジャガーパウを待つのは、ピラミッドの頂上で神への捧げ物として身を散らせる運命。果たしてこの絶望的状況から逃げ延びる術はあるのか!?
冒頭からラストまで「妻と子供のもとへ帰りたい!」という一心でジャングルを駆け回り、機転を利かせ、恐怖心を超越して、ただただサバイブ。かくもあらゆるものが削ぎ落とされた環境下で、言葉を超えた超フィジカルなノンストップ・アドベンチャーを発動させるところに鬼才メル・ギブソンの作家性がほとばしる。頭のなかを空っぽにして楽しみつつ、クライマックスでは思い切り意表をつかれ「やられた!」と感じる展開も。あらゆるものに終焉があり、新たな始まりがある。その狭間を乗り越えていこうとする感覚を激烈に体感させてくれる異色の一作だ。
Photo by AFLO































































