
『危険な情事』
製作年/1987年 監督/エイドリアン・ライン 出演/マイケル・ダグラス、グレン・クローズ、アン・アーチャー
社会現象を巻き起こした衝撃作!
80年代にセンセーションを巻き起こした官能サスペンスの決定版。最愛の妻と幼い娘に囲まれ、満ち足りた生活を送るNYの弁護士ダンは、出版社のパーティで誰もがハッとする編集者アレックスと出会い、強烈な衝動に駆られる。翌日には体を重ねて欲情を爆発させる二人。しかし、これを火遊び程度と軽く考えていたダンに対し、アレックスは危険なまでの執着心で彼を求め続け……。
英国の広告畑出身の気鋭監督(同様の監督にはリドリー・スコットなど)として名を馳せたライン監督らしく、本作は研ぎ澄まされた映像美&時代の先端をゆく挑発的な題材で観る者をとことん刺激する。演じる側の覚悟や度胸も相当なもので、特に舞台出身の正統派として知られていたクローズはこの映画で自らの殻を破り捨て、鬼気迫る演技を披露。シンクの上での濡れながらのセックス、バスタブからあふれる水、流れ出す血液など、何かと湿り気に満ちた映像表現も淫美さを倍増させる。ただし、現代の感覚で見直すと、かなり男性目線に偏っているのが気になる。もし今リメイクされるなら、アレックスの心理にフェアに寄り添ったものになるはず。

『運命の女』
製作年/2002年 監督/エイドリアン・ライン 出演/ダイアン・レイン、リチャード・ギア、オリヴィエ・マルティネス
予測不能! まさかこんな展開になるなんて……!
『危険な情事』のライン監督が00年代に放つ新たな欲情サスペンス。NY郊外に居を構える専業主婦のコニーと夫エドワードは、8歳の息子とともに愛に満ちた家庭生活を送っている。ところが、ある風の強い日、コニーは若い男性と偶然出会い、思いがけない不倫関係へ陥ってゆく。家族への裏切りを後悔しつつ、しかしこの快楽からなかなか抜け出せない彼女。そんな普段と違う妻の様子を敏感に感じ取った夫は、身辺調査によって不倫の事実を知るのだが……。
クロード・シャブロルの名作に着想を得ながら、出来上がった作品はむしろ『危険な情事』の男女を逆転させたかのような人間描写が際立つ。なんといってもダイアン・レインの演技力が素晴らしく、列車内でふと情熱的な不倫時間を思い起こし、恍惚と背徳の入り混じった表情を浮かべる姿には驚かされるばかりだ。一方、穏やかさと苦悩の間で揺れるリチャード・ギアはこれまでになくセリフ少なめで、影多め。夫婦そろって巻き込まれていく運命のうねりも予測不能で、ラストシーンの沈黙があまりに多くのものを訴えかけてくる。

『リトル・チルドレン』
製作年/2006年 監督・トッド・フィールド 出演・ケイト・ウィンスレット、パトリック・ウィルソン、ジェニファー・コネリー
名匠が巧みに紡ぐ現代のおとぎ話
トム・ぺロッタの原作小説を巧みに映画化し、アカデミー賞で3部門にノミネートされるなど激賞されたヒューマン・ドラマ。幼い娘を公園で遊ばせるサラと、子育てしながら司法試験合格を目指すブラッドは、共に既婚者でありながら出会ってすぐに恋に落ちる。やがて二人は、お互いを自分にとってのかけがえのない理解者として感じはじめ……。
ボストン郊外の閑静な住宅街で、多くの人々は内なる感情に蓋をして暮らしている。そんな中、妻や夫さえ知らない秘めたる心を共有するようになるサラ&ブラッドの関係性をしなやかに追いつつ、ここに怪優ジャッキー・アール・ヘイリー(かつて『がんばれ!ベアーズ』で旋風を吹かせた)を台風の目のように投入し、物語に大きな揺さぶりをかけるのがたまらない面白さだ。不倫関係に真実の愛を見出す男女はどこへ向かうのか。フィールド監督といえば、本作後16年ぶりに監督を務め『TAR/ター』でも脚光を浴びた人。両作ともステレオタイプに陥らない豊かで奥深い人物研究として非常に見応えがある。

『白いドレスの女』
製作年/1981年 監督/ローレンス・カスダン 出演/ウィリアム・ハート、キャスリン・ターナー、リチャード・クレンナ
禁断の関係が導く驚きの結末とは……?
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』や『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』の脚本家として名高いカスダンが初監督に挑んだエロティック・サスペンス。それは例年になく、夜になっても汗が全く引かない、うだるように暑い夏だった。弁護士のネッドは野外コンサートで席を立った白ドレス姿の女性マッティに惹かれ、後になって彼女が資産家の夫を持つ人妻だと知る。たまにしか帰らない夫をよそに、豪邸で体を重ね合う二人。ある時、マッティは夫の死を望み、それを受けたネッドは周到な計画を練りはじめるのだが……。
主人公がファムファタール(運命の女性)によって運命を翻弄されるフィルムノワールのスタイルを踏襲しながら、その折々に、カスダンならではの流麗な構成と展開が光る。果たしてネッドは全ての主導権を握っているのか。それとも実は掌の上で踊らされているだけなのか。体の火照りは冷めず、まどろみも醒めない中、真実だと思い込んでいたことが蜃気楼の如く像を歪ませていく様にハッ!とさせられる秀作だ。

『恋と愛の測り方』
製作年/2010年 監督/マッシー・タジェディン 出演/キーラ・ナイトレイ、サム・ワーシントン、エヴァ・メンデス、ギョーム・カネ
これはアウト?それともセーフ?
ニューヨーク、マンハッタン。上質な暮らし、高級なアパートメント、申し分ない仕事、信頼感に満ちた夫婦関係を手にするジョアンナとマイケルだったが、あるパーティで夫と同僚ローラの仲睦まじい姿を目にしたことで、ジョアンナの中で予期せぬ疑心が動き出す。奇しくも翌日、マイケルはローラと共に出張へ旅立ち、ジョアンナはかつての恋人の突然の来訪を受け、それぞれが「パートナーではない誰か」との濃密な時間を過ごすことに……。
イラン系アメリカ人監督のタジェディンが紡ぐのは、人がいわゆる”グレーゾーン”でいかに振る舞い、何を考え、どうありたいと願うのかの選択だ。衝動に駆られてのベッドインはもはや不倫確定だとしても、一晩中、一線を越えないまま抱きしめ合うのは許されるのか。はたまた、相手の言葉や表情に心が揺らいだ時点ですでに不倫ははじまっているのか。グレーな領域だからこそキャラクターの行動や人間性はより際立ち、それに対して作り手が何らかの価値観を押し付けることもない。観る人ごとに余韻が全く異なるリトマス試験紙のような一作。































































