〈コルム〉アドミラル “CORUM ADMIRAL”
伝説のヨットレースから生まれた アドミラルは〈コルム〉の中でも最も潮っぽいコレクションだ。 国際信号旗を模したインデックスや12角形ベゼルなど外観もアイコニック。 適度なエレガントさも併せ持ち、 ラグジュアリーなセーリングによく似合う。
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ケース径42mm、自動巻き、SSケース&ブレス。64万円(コルム/ GMインターナショナル)
ケースもブレスのブルー PVDで染め上げ、同色のダイヤルにカラフルなフラッグモチーフが映える。そのインデックスは立体的に造作され、ダイヤルの表情はいっそう豊かに。
アドミラルってこんな時計!
➊12角形ベゼル
セーリングボートのナットをモチーフに1983年に考案された、コレクションを特徴づけるデザインコードのひとつ。当初はベゼル外周だけが12角形だったが、後にダイヤルまで12角形となり、よりアイコニックな装いとなった。
➋国際信号旗インデックス
カラフルなアワーインデックスは船舶間の通信で使われる国際海洋信号旗をそのまま使用。ヨットレースに由来する、出自を表す。12角形ベゼルと並ぶアイコニックなデザインコードであり、ひと目でアドミラルだとわかる。
➌リュウズガード
2002年以降のモデルで採用され、よりスポーティで屈強な印象とともに、耐衝撃性をより高めた。ベゼルを象る12角形のうちの2辺の延長線上にリュウズガードを形成することで、 全体的なまとまりが巧みに図られている。
伝説のヨットレースから生まれた独創的なデザインの1本
コレクション名は、イギリスで開催されていたヨットレースに由来する。1957〜2003年の間、1年おきに行われた“アドミラルズカップ”である。1981年に〈コルム〉は同レースに参戦し、またメインスポンサーも務めていた。そんな関係性から、同レースの名を冠したモデルが誕生することとなる 。そうアドミラルは、かつてアドミラルズカップというコレクション名だったのだ。
12角形ベゼルも国際海洋信号旗インデックスも、ヨットレースにちなみ生まれた。レース自体は休止となり、コレクション名もアドミラルと短縮されても、アイコニックな外観は受け継ぎ、伝説のヨットレースにオマージュを捧げ続ける。
国際海洋信号旗をインデックスとするというアイデアは、1983年に生まれた。1〜9は 単体で、10〜12は2つの旗を組み合わせて表記。各旗は数字とアルファベットに対 応するのに加え、それぞれ進路変更中などの意味も持つ
創業は1955年。ブランドのエンブレムを天空を指す鍵としたのは、新たな扉を開く革新への決意の表れだという。事実〈コルム〉は設立以来、斬新 な時計製作にチャレンジし続けている。そしてすべてのコレクションそれぞれに、 ひと目でそれとわかるアイコニックな外観を与えてきた。アドミラルにも、そうした〈コルム〉の信念がこめられている。
上で述べたように、イギリスで行われていた外洋ヨットレース“アドミラルズカップ”との提携で生まれた、マリンウォッチ・コレクション。レースへの参戦やスポンサード、そして時計の開発を推進したのは、後に2代目CEOとなる創業者の息子ジャン=ルネ・バンヴァルトだった。ヨットセーリングを趣味とし、 レースにも参加していた彼は、〈コルム〉の新たなコレクションのモチーフとして、 ヨットレースに着目。
1991年のアドミラルズカップで、見事に優勝を果たしたコルム・セーリングチーム。喜びを表し振る大旗には、 アドミラル(当時はアドミラルズカップ)のダイヤルのモチーフで彩られている。優勝国は、フランスだった
数あるレースの中からアドミラルズカップを選んだのは、 1960年に最初の提携モデルが〈コルム〉にあったからだ。後述するそのモデルは、クラシカルな角形時計。それを大胆に一新し、ヨットレースの世界観を存分に詰めこみ1983年に生まれたアドミラルズカップこそが、今あるアドミラルの直接のルーツだ。ヨットのナットを模した角形ベゼル、国際海洋信号旗のアワーインデックスも、このとき生まれた。
ダイバーズウォッチとは一味違った エレガントさを併せ持つマリンウォッチは、海を愛するリッチ層の間で大ヒット。 さらに1981年から参戦を続けてきたコルム・セーリングチームは、1991年に完全優勝を飾ったことで、時計自体もヨットマンの憧れの存在になった。ヨットを愛したジャン=ルネ・バンヴァルト氏のもくろみは、見事に成功。2003年を最後にレースは休戦したままだが、〈コルム〉はアドミラルの新作を発表し続け、その世界観を今に伝える。
Jean-Rene Bannwart
創業者ルネ・バンヴァルト氏の息子であり、1966年にコルムに入社。自身もヨットマンであり、アドミラルズカップ・プロジェクトの陣頭指揮を執 る。1987年にCEOに就任。2000年に退陣するまで、ブランドの根幹を築きあげた中興の祖でもある。
初代モデルは角形!?
最初のアドミラルズカップ・モデルは、クラシカルな角形として登場。18金とSSとが用意された。いずれも裏蓋にはアドミラルズカップの文字とヨットの姿がエングレービングされている。角形でも防水性が備わり、自動巻きムーブメントを搭載
前のページで触れたように、〈コルム〉 による最初の“アドミラルズカップ”モデルは、1960年に生まれた。 上の写真がそれ。ご覧のようにスクエア型ケースの2針という、シンプルなドレスウォッチだった。今ある12角形ベゼルと国際海洋信号旗モチーフとの組み合わせが誕生したのは、1983年。そのモデルは、デザインでヨットの世界観を取りこむだけに留まらず、色でも海が表現された。
当時最先端技術だったPVDをいち早く採用し、ケースとブレスレットとをブルーに染めたのだ。青いアドミラルズカップに、時計ファンがつけた愛称は“ガンブルー”。それまでダイバーズしかなかった海時計にエレガントなマリンウォッチというカテゴリーを開き、メゾンの新たなアイコンとなった。
以降アドミラルズカップは、メカニズムと外装素材の両面で、バリエーションを増やしてゆく。1993年には、月齢 や潮位計といったヨットレースに必要な 機構が備わるキャリバーCO277を搭載する特別なモデルが誕生。そのモジュールは、自社製であった。
2000年に生みの親であるジャン= ルネ・バンヴァルトCEOの退任に伴い、 アドミラルズカップも一度姿を消すも、 2002年に復活。このときリュウズ ガードが装備された。2006年にはクロノグラフに44mm の大型ケースがバリエーションに加わり、2010年にそのチタンモデルが登場。
さらに〈コルム〉は、 複雑機構でも魅せた。2012年、なんとミニッツリピーターを搭載したのだ。 その2年後には、ダブルトゥールビヨン搭載モデルも発表している。また同年、93年に登場した潮位計などが備わるキャリバーCO277搭載モデルが復活。現行モデルにも、トゥールビヨンが再登場するなどアドミラルは、アイコニックな外観と機構でさらなる魅力を増す。
2014年:ブルーが爽やか!
潮位計などを装備するCal.CO 277を搭載した“アドミラルズカップ AC-One 45 タイド”。インデックスは通常のバーに置き換えられているものの、12角形ベゼルは健在。レイヤード構造を採用し、ブルー PVDを施したインサートによるステップベゼルで立体感を増した
2017年8月、高級時計に精通したジェローム・ビアールを新CEOとして招へい。新体制となったことで2018年以降の新作は、外装は上質さを増し、よ り個性豊かになった。アドミラルも、国際海洋信号旗インデックスを古い海洋コンパス状に仕立てたり、バイカラーのケースに高級ヨットで使われるチーク製ダイヤルを組み合わせるなど、いっそうアイコニックな独創性を高めた新作が、次々とリリースされている。さらにフルオープンダイヤルも新登場。ユニークな革新性を発揮し続けている。
ケース径42mm、自動巻き、SSケース &ブレス。83万円(コルム/GMインターナショナル)
1983年モデルと同じく、外装をPVDでガンブルーに。 ワントーンなのに表情豊かなのは鏡面とサテンとの組み合わせと、立体的なダイヤルによる。インダイヤルの針はコンパスに似る。
ケース径42mm、自動巻き、SS+18 KRGケー ス、カーフストラップ。125万円(コルム/GMインターナショナル)
12角形ベゼルがRG製となり、いっそうアイコニックに装った。さらにダイヤルは、チーク製に。フラッグ・モチーフがカラフルにコントラストを成し、浮き立って目立つ。
ケース径45mm、自動巻き、18 KRG +チタンケース、ラバー+ファブリック ストラップ。480万円(コルム/ GM インターナショナル)
自社製新ムーブをスケルトナイズ。ダイヤル側のブリッジを、フラッグモチーフと巧みに融和させた。3時位置にパワーリザーブ計を装備する。
スポーツとしてのヨットセーリングは、18世紀のイギリス王室ではじまったという。スタートの合図に大砲の空砲が使われるのは、当時の名残。また上流階級のスポーツとして広まったため、アフターパーティにはドレスコードが あり、クラブに入会するのも会員の紹介制であることが多い。つ まりヨットクラブは、紳士の社交場。初代アドミラルズカップがドレスウォッチであったのも、今に繋がる1983年製モデルがエレガントさを併せ持っていたのも、そうしたヨットクラブの雰囲気にマッチさせるためだ。ドレスアップした手元を華やかに演出するアドミラルは、ヨットクラブのアフターパーティでステイタスとなっている。
●GMインターナショナル
TEL:03-5828-9080
雑誌『Safari』3月号 P208〜211掲載
text : Norio Takagi