photo: 前島吉裕
昨年8 月15 日に喜多能楽堂にてはじめて上演され、大きな反響を呼んだ杉本修羅能『巣鴨塚 ハルの便り』。東京裁判のA 級戦犯であった板垣征四郎(陸軍大将)が収監中の巣鴨拘置所で刑死直前にしたためた漢詩を現代美術作家・杉本博司が落手し、それをもとに修羅能作品を書き上げ『新潮』(2013 年1 月号)に発表。その後、能公演の準備として"巣鴨塚プロジェクト"を開始。具体的な試みの第一弾として、2014 年に『巣鴨塚(修羅能)』のテキスト朗読を実施。それに続く第二弾として、2015 年には朗読能『春の便り~能「巣鴨塚」より~』を上演した。この"巣鴨塚プロジェクト"の集大成として本格的な能形式に整え、昨年の初演以来、大きな反響を呼んできた本作を、今年も敗戦記念日である8 月15 日に上演する。
photo: 前島吉裕
このプロジェクトについて、現代美術家・杉本はこのようなコメントを寄せている。
今年、我が国は大東亜戦争の敗戦から81 年の節目の年を迎えました。敗戦を終戦と言い含めた有耶無耶な戦後を、そろそろ整理しておかなければならないのではないのかと私は思うのです。敗戦時の昭和20 年に生まれた人は今年81 歳になります。あの戦争を生身で知る人はほとんどがあの世に召されました。そして私は思い出すのです、あの時もそうだったと。それは平家が壇ノ浦で滅亡したときのことです。あの戦(いくさ)が人々の記憶から薄れ行こうとするとき、どこからともなく、盲目の琵琶法師によって平家物語が語られるようになったのです。"平曲"と言われるこの物語は、のちに"能"となり、"浄瑠璃"になり、"歌舞伎"にも変調して、我が国における芸能の原点となったのです。
私は満州国建国の立役者であった板垣征四郎大将が、A 級戦犯として巣鴨拘置所に収監されていたときに詠んだ長文の漢詩コピーを偶然に入手しました。そこには刑死を前にして、この大戦に至る経緯と心情が簡潔に述懐されています。国を思う心情、理想の国、満州国建国への熱情、私はこの話は"能"にしておかなければならないのだという使命を感じたのです。
Ⓒ小田原文化財団
今、時代は右、左という思想的桎梏を超えた、さらなる混沌へと向かっているようです。あの、「先の大戦」は今、"物語り" となって語られるときが来たように私は思うのです。
杉本修羅能『巣鴨塚』は昨年の敗戦記念日、8月15日に初演を果たしました。しかし私はこの曲を捧げるべき方は板垣征四郎大将その人だと思い、A 級戦犯として巣鴨に刑死した12月23日当日に再演を果しました。修羅能『巣鴨塚』は、あの戦(いくさ)を忘れないためにも、演じ続けられます。今年もあの暑かった8月15日の敗戦記念日は無情にも巡ってくるからです。
能面:「十寸髪男」(室町時代)/杉本博司所蔵 Ⓒ小田原文化財団
昭和の戦(いくさ)の物語は、修羅能として中世の言葉に置き換えてあります。マッカーサー元帥は「松嵩(まつかさ)の中将」、東條英機は「東条の大臣(おとど)」、石原莞爾は「石原の少将」、板垣征四郎は「板垣征四郎常信」としています。副題の「ハルの便り」とは日米開戦のきっかけとなった「ハルノート」を暗示しています。
春の便りは魔の便りだったのです。
⚫️敗戦記念日公演 再再演 杉本修羅能『巣鴨塚 ハルの便り』
日時:2026 年8 月15 日(土)18:00 開演
会場:十四世喜多六平太記念能楽堂(喜多能楽堂)
主催:公益財団法人十四世六平太記念財団、公益財団法人小田原文化財団
原作:杉本博司『能 巣鴨塚(修羅能)』(「新潮」2013 年1 月号掲載)
能本:川口晃平(能楽シテ方観世流)
演出:大島輝久(能楽シテ方喜多流)、野村萬斎(能楽狂言方和泉流)
作調:亀井広忠(能楽大鼓方葛野流家元)
⚫️チケット情報
発売日:2026 年6 月16 日(火)より
料金:S 席 10,000 円、A 席 8000 円、B 席 7000 円、C 席(2 階)5000 円 *すべて税込 *未就学児入場不可
インターネット予約:https://kita-noh.com/
(喜多能楽堂チケット予約サイト| 24 時間対応、要登録・無料)
⚫️公演問い合わせ先
TEL: 03-3491-8813
(10:00 ~ 18:00 /休館日あり)



































































