1990年代を代表するカルトムービー『エンパイア・レコード』(1995年)は、当時流行ったグランジ・ファッションの宝庫。つまりそれは、今に繋がる着こなしが世に出た瞬間でもある。
物語自体が服を見せるために設えたようなもので、田舎で暮らす若者たちがとんがった音楽の趣味や洋服のセンスをお披露目する場所として、大手チェーンへの売却の危機に晒されながらも、何とか生き延びている老舗レコードショップを舞台にしているのだ。
写真左/コリー(リヴ・タイラー)
ジーナ(レネー・ゼルウィガー)
リヴ・タイラーが演じるレコード店のアルバイト店員、コリーは、クロップド丈ニットのヘソ出しニット&チェックのミニ&ハイカットブーツ、ロビン・タニーが演じる店の常連、デブラは、スキンヘッド&やっぱりクロップド丈タンク&ジャージパンツ、レネー・ゼルウィガー扮するジーナもヘソ出しニット&ミニという、見た目を気にしない、その実、自由に執着したようなグランジで競い合っている。
A.J(ジョニー・ホイットワース)
男子も元気一杯なのだが、中でも、ジョニー・ホイットワースが演じるA.Jが着ているチェックのインナーの上に厚めのカーディガンというニットonニットのレイヤードは、グランジの生みの親であるロックパンド”ニルヴァーナ”のボーカリスト、カート・コバーンのスタイルを彷彿とさせるもの。馴染み方が半端ないので調べてみたら、やっぱり、カーディガンはホイットワースの私物で、チェックのインナーはリヴ・タイラーと一緒に映画のロケ地、ノースキャロライナのガレージセールで見つけてきた物だとか。
また、ほかの共演者たちも全員、劇中で着る服に対して発言権を持っていて、すべてが選りすぐられ、撮影中に劣化すると配給元のワーナー映画の衣装部が同じ物をリメイクしてくれたらしい。つまり、『エンパイア・レコード』はハリウッドのメジャースタジオが本気で服にこだわったファッションムービーでもあるのだ。
今やグランジは女性ファッションだけでなく、男性たちの間でもブームになっている。それは、ロックだった1990年代と混沌の極みにある2020年代を繋ぐカルチャー・ムーブメント、と言ったら言い過ぎだろうか。でも、たとえば〈グッチ〉を超人気ブランドに押し上げた鬼才デザイナー、アレッサンドロ・ミケーレが発表している古着っぽいモヘアカーディガン&デニムのオーバーオールというコーデなどは、明らかにグランジ風。無頓着に見えて計算された、グランジ愛が強烈なミケーレの代表作なのだ。
『エンパイア レコード』
製作年/1995年 監督/アラン・モイル 脚本/キャロル・ヘイッキネン 出演/リヴ・タイラー、ジョニー・ホイットワース、アンソニー・ラパーリア、ロリー・コクレーン、レネー・ゼルウィガー
Photo by AFLO