PROFILE
1989年、イングランド生まれ。『アバウト・ア・ボーイ』で世界的に注目を集めた後、マーベルコミックス原作の『X-MEN』シリーズや『マッドマックス怒りのデス・ロード』などでハリウッドの人気スターに。ほかの出演作に、日本で撮影された『ロスト・エモーション』、ニコラ・テスラを演じた『エジソンズ・ゲーム』、『指輪物語』の作者J・R・R・トールキンを演じた『トールキン 旅のはじまり』などがある。2018年4月、交際中のモデルとの間に第1子となる男児が誕生し、父となった。
高い人気を博したイギリス映画『アバウ ト・ア・ボーイ』で、ラブコメ俳優とし て絶頂期のヒュー・グラントを相手に 堂々とわたり合っていた少年。あるいは、やはり 観客から熱烈に愛された『マッドマックス 怒り のデス・ロード』に、坊主頭&全身白塗りの奇怪な 姿で登場していた武装集団メンバー。はたまた、 獣のようにフサフサした青い毛に鋭い牙と爪を 持つ『X-MEN』シリーズのミュータント。ニコラ ス・ホルトという俳優は、いろいろな顔を持って いる。その素顔は実に端整だが、外見を生かした 役から素顔を文字どおり感じさせない役まで、取 り組んできたキャラクターは様々。役柄だけでな く、出演作のテイストも多岐にわたっているのが 長いキャリアの特徴だ。
イギリスの大女優アンナ・ニーグルを大伯母に 持ち、早くからショウビズの世界に足を踏み入れ ていたホルトだが、子役だった彼を一躍有名にし たのは前述の『アバウト・ア・ボーイ』。気ままな独 身男との間に奇妙な友情を築く少年をチャーミ ングに演じ、撮影時11歳にしてはじめての代表 作を得ることになった。実はこのとき、プロモー ションのための初来日も経験済み。ヒュー・グラ ントとともに出席した記者会見では、映画本編の 小柄な姿から一変、すでにすくすくと伸びた高い 身長で記者陣を驚かせてもいた。
その急速な成長ぶりを目にしていた人ならば、 次なるステップを予想するのも簡単だったかも しれない。約5年後、すっかりティーンエイジャ ーらしさの増したホルトは、後に伝説として語り 継がれる青春ドラマ『スキンズ』に主演。ブリスト ルに暮らす若者たちの日常を描いたこのTVシリ ーズで、いわゆるイケメンだが複雑な内面を持つ 男子高校生トニーを演じ、青春スターとしての人 気を獲得した。ドラッグ、アルコールからセック スまで、赤裸々な描写も話題を呼んだ作品だけに、 もちろんホルトも過激なシーンの数々に挑戦。そ の中に見え隠れする若者の繊細な心理を見事に 表現し、キュートな子役からの脱皮に難なく成功 した。『スキンズ』に出演した若手俳優たちは『ス ラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテルから本 年度アカデミー賞受賞者のダニエル・カルーヤま で後にも大きな成功を収める者ばかりだが、その 代表格こそがホルトと言えるかもしれない。子役 高から青春スターへ、青春スターから大人の実力派 へ。俳優道を駆け上がる彼の次なる分岐点となっ たのが、世界的ファッションデザイナー、トム・フ ォードの初監督作『シングルマン』だ。亡き恋人の 思い出に囚われた大学教授(コリン・ファース)が 鬱々とした人生を送る本作に、教授と複雑な関係 を織りなす学生役で登場。絶賛された作品ともど も、美しきキーパーソンを演じたホルトに注がれ る視線にも熱が帯びた。その勢いに後押しされ、 『X-MEN』シリーズに仲間入りしたのはすぐ後の こと。しばらくして『マッドマックス 怒りのデ ス・ロード』なども出演作に加わり、大作映画での 存在感も大きくなっていった。
とはいえ、本人は作品規模にさほど興味はない ようで、やはり作品のテイストも役柄も多岐にわ たっているのが第一印象。さらに近年は、少々風 変わりで、挑発的とすら思えるキャラクターを好 んで演じているように見える。なかでも印象的な のは、18世紀初頭の英国宮廷を舞台にした『女王 陛下のお気に入り』、そして米フールーのオリジ ナルドラマ『THE GREAT~エカチェリーナの 時々真実の物語~』だ。それぞれスパイスの効い た革新的史劇で、名脚本家トニー・マクナマラが 物語世界を創造。『女王陛下のお気に入り』で狡猾 な貴族をエキセントリックに演じたホルトをマ クナマラがいたく気に入り、続けて制作された 『THE GREAT~エカチェリーナの時々真実の物 語~』にも招き入れられた。こちらでの役柄は、横 暴すぎるロシア皇帝。ロシア帝国を率いる立場に ありながら、傲慢で淫らで堕落した皇帝ピョート ルを嬉々として演じ、ゴールデン・グローブ賞や 全米映画俳優組合賞などに主演俳優としてノミ ネートされている。
そんな彼の次なる日本公開作が、オーストラリ アの英雄ネッド・ケリーを主人公にした『トゥル ー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』だ。実 はこの作品、誰もが知る英雄の伝記ではあるもの のかなり奇抜な作風。ケリーの人生に絡む存在と してホルトが演じる警官フィッツパトリックも、 複雑怪奇で厄介な男だ。しかし、そのキャラクタ ー造形こそが出演理由だったようで、「茶目っ気 があり、変態で、ひねくれているフィッツパトリ ックを演じてみたら、きっと楽しいだろうなと思 った」と言及。 俳優ニコラス・ホルトを担う"多岐にわたった 出演作や役柄"の鍵を握っていたのはどうやら、 「楽しいだろう」というシンプルな思いのようだ。 今後の活躍がますます気になって仕方がない。
19世紀オーストラリアで貧しいアイルランド移民の家庭に生まれ、家族を支えてきたネッド・ケリー。だが、10代の若さにして投獄されるなど、ネッドの人生は困難の連続。ささやかな幸せを願う彼の日常を、警官のフィッツパトリック(ホルト)らがさらに脅かしていく。腐敗した権力に屈することなく、伝説の反逆者となった男の物語を斬新な語り口で映画化。
●6月18日より、渋谷ホワイトシネクイントほかにて全国順次ロードショー
©PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
Robinson's, it's... just a place to seek
sanctuary from life's monotony.
この場所(ロビンソン)は、単調な生活の外の聖域だ。
『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』より
『Urban Safari』Vol.22 P8~9掲載
photo : Emily Shur (COVER), Michelangelo di Battista / AUGUST / amanaimages text : Hikaru Watanabe