
暑さもやわらぎ、旅心がくすぐられる秋。贅沢な大人の旅先として提案したいのが、世界中の美食家を魅了してやまないスペインだ。各地の風土や気候が育んだ極上グルメ&ワインはもちろん、その土地の歴史やアート、建築に触れる時間は、食欲だけでなく知識欲までも満たしてくれるはず。今回は『地球の歩き方 スペイン編』編集担当の伊澤慶一が、この秋おすすめしたい『スペインのグルメな旅先5選』を紹介する。
1. ゲタリア|魚介の炭火焼きとモードな歴史に浸れるバスクの港町

ゲタリアに来たら必食の『ロダバージョ・ア・ラ・パリージャ(イシビラメの炭火焼き)』。筆者おすすめのレストランは『エルカノ』か『カイア・カイペ』だ
美食の街サン・セバスティアンからクルマを走らせること約30分。美しい海岸線沿いに現れる港町ゲタリアは、食通たちがわざわざ足を運ぶ“魚介の聖地”だ。港へと続くメインストリートを歩くと、各レストランの屋外グリルから炭火の香ばしい煙が漂ってくる。名物は、獲れたての魚や手長エビを丸ごとダイナミックに専用網で焼き上げる炭火焼き。微発泡の地ワイン『チャコリ』を高く掲げてグラスに注ぎ、鮮度抜群の海鮮とともに味わう時間はまさに至福のひとときだ。

旧市街の南側にあるバレンシアガ美術館。ブランド品は置いてないが、センスのよいミュージアムグッズを販売している
このゲタリアという街、実は世界的ファッションブランド〈バレンシアガ〉の創設者、クリストバル・バレンシアガの故郷でもある。食事の前後には、彼の功績を称えた『クリストバル・バレンシアガ美術館』へぜひ足を運んでみよう。世界で初めてひとりのファッションデザイナーに特化した美術館と言われており、コレクションの中にはモナコのグレース・ケリー王妃からの寄贈品も含まれるなど、非常に華やかな展示となっている。ファッションやモードの歴史に興味がある方なら、ぜひ訪れたいミュージアムだ。
2. バレンシア|伝統のパエリアと近未来建築が交差する地中海リゾート

伝統的なレシピで作られた『パエリア・バレンシアーナ(Paella Valenciana)』。オーダーは、だいたい2人前以上からとなる
マドリードからスペイン高速鉄道(AVE)に乗れば、わずか2時間弱で到着するバレンシア。マドリード、バルセロナに次ぐ、スペイン第3の都市で、パエリア発祥の地としても知られている。バレンシア州の名産であるオレンジの木の薪を使って強火で炊き上げる伝統のパエリアは、ウサギ肉や鶏肉、モロッコインゲンが主役。米の一粒一粒に肉と野菜の濃厚な旨味、そしてオレンジの木の燻煙香が凝縮されており、底にできた香ばしいおこげまで愛おしい一品。ぜひ一度は本場でパエリア・バレンシアーナを食べてみてほしい。

今から20年以上前に完成したとは思えないほど、未来的なデザインの芸術・科学都市
極上のパエリアでお腹を満たした後は、バレンシアの建築に注目してみよう。旧市街に佇む優美なゴシック建築『ラ・ロンハ・デ・ラ・セダ』は世界遺産に登録されており必見。また新市街へと少し歩けば、地元バレンシアが生んだ天才建築家サンティアゴ・カラトラバが手掛けた複合施設『芸術・科学都市』が姿を現す。オペラハウスや水族館、科学博物館などの文化施設が公園と融合しており、その近未来的な光景は旧市街とセットで訪問することでよりコントラストが鮮明になるはずだ。
3. ラ・リオハ州|スペイン屈指のブドウの産地は、ワイナリー建築巡りも楽しい

試飲や見学が可能なだけでなく、葡萄畑を乗馬やE-bikeで回ったり、気球から眺めたりと、ワインツーリズムが整備されている
スペイン屈指のワイン名醸地、ラ・リオハ州。ビルバオ空港からレンタカーを借りて1時間半ほど南下すると、そこには見渡す限りの葡萄畑が広がっている。ラ・リオハ州では9月中旬から10月下旬にかけて収穫期のピークを迎え、毎年聖マテオの日(9月21日)前後には収穫祭が行われ、州都ログローニョで伝統的な「ブドウの足踏み」や新酒のお披露目なども行われる。全生産量の8〜9割が赤ワインというラ・リオハ州だが、近年では突然変異種であるテンプラニーリョ・ブランコを使った白ワインも人気が高い。市場に出回る量が少ないため、ラ・リオハ州を訪れたらぜひ試してみてほしい。

この地方で最も古いボデガ(ワイナリー)のひとつ『マルケス・デ・リスカル』。超モダンな外観とのギャップが興味深い
また、ラ・リオハ州とバスク州の州境は、“ワイナリー建築の宝庫”でもある。グッゲンハイム・ビルバオのデザイナーで知られるフランク・ゲーリーが手がけた『マルケス・デ・リスカル』は特に有名で、泊まれるワイナリーとしてホテル機能も有している。遠くからでもひときわ目立つチタンの波打つ屋根は、それ自体が芸術作品のようだ。ほかにも背景にそびえるカンタブリア山脈の稜線と美しく調和するように設計されたサンティアゴ・カラトラバの『ボデガス・イシオス』、ブドウにダメージを与えないよう重力のみで果汁を移動させる設計が施されたイニャキ・アスピアスの『ボデガス・バイゴリ』など、建築にも酔いしれるのがこの地方ならではの楽しみと言える。
4. ハエン|良質なオリーブと、レコンキスタの歴史が香るアンダルシアの古都

秋は採れたて・搾りたてのオリーブオイルが味わえるベストシーズン。最高級のエキストラバージンオリーブオイルを堪能しよう
アンダルシア州の古都グラナダからクルマで約1時間。ハエン県に入ると、まるで“オリーブの海”かのごとく、オリーブ畑が地平線を埋め尽くす光景が出迎えてくれる。スペインはもちろん、世界でも屈指の生産量を誇るこの地では、11月頃から本格的な収穫シーズンが始まり、毎年11月初旬にはハエンで『Fiesta del Primer Aceite(オリーブ新油祭り)』も行われる。さらにこの時期、ハエンの製油所やレストランでは、強い果実味とコク、わずかな辛味が特徴のノンフィルター(無濾過)・オリーブオイルを楽しむことができる。保存が難しく、限られた時期、限られたエリアでしか味わえない貴重なオイル。秋にハエンを訪れたなら、ぜひこちらも試してみてほしい。

サンタ・カタリーナの丘から見下ろすハエン大聖堂。その後ろに見渡す限り広がるのはすべてオリーブ畑だ
ハエンでは、歴史のロマンを味わいたい。まずは旧市街中心に鎮座する『ハエン大聖堂』へ。ルネサンス建築の巨匠バンデルビラが手掛けた傑作で、のちに南米の各地で大聖堂建築のモデルになったと言われている。その外観の美しさを最もドラマチックに観賞できる特等席が、高さ約250mの小高い丘に立つサンタ・カタリーナ城だ。かつてはイスラムの要塞であり、後にキリスト教勢力によるレコンキスタ(国土回復運動)の最重要拠点として歴史を刻んだ古城。大聖堂とどこまでも続くオリーブ畑の絶景を目に焼き付けたら、隣にある国営ホテル『パラドール・デ・ハエン』で、カフェやランチでひと休みしていこう。
5. エクストレマドゥーラ州|中世の街並みと、どんぐりが育む最高峰ハモン・イベリコ(イベリコ豚生ハム)

スペイングルメの定番といえばやはり生ハム!現在、日本への輸入や持ち帰りは厳しく制限されているので、現地でとことん楽しんで帰ろう
マドリードから南西へクルマで約3時間。ポルトガル国境に接するエクストレマドゥーラ州は、最高峰の生ハム『ハモン・イベリコ・デ・ベジョータ』の故郷だ。「デエサ」と呼ばれる広大な敷地に放牧され、どんぐりをたっぷり食べて育ったイベリコ豚の生ハムは、まさに食の芸術品。職人が手切りした極薄のハムを口にすると、舌の上でじわりと溶け出し、芳醇な脂の甘みとナッツのような香ばしさが口いっぱいに広がる。地元エクストレマドゥーラ州で作られたテンプラニーリョ主体の濃厚な赤ワインと一緒にいただけば、至高のマリアージュを堪能できるはずだ。

『エクストレマドゥーラ州の宝石』の異名をもつカセレス。中世の頃の街並みを残し、旧市街は世界遺産に登録されている
エクストレマドゥーラ州観光の際に訪問をおすすめしたいのがカセレスだ。重厚な旧市街に一歩足を踏み入れれば、まるで映画のセットに迷い込んだかのよう。実際に大ヒット海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のロケ地としても知られている。マヨール広場(写真)やその隣のサン・フアン広場には、テラス席付きのレストランが数多くある。夜になって観光客が去り、静けさに包まれた旧市街。ワイングラスを傾けながら、五感で味わう地産の生ハムと秋の夜風。そのひとときは、まさに旅の醍醐味と言えるだろう。
極上グルメ、歴史ある街並み、そして建築やアートなど、旅のロマンが詰まった国、それがスペインだ。まだまだ秋は始まったばかり。食欲と好奇心を満たしに、秋のスペインへ出かけてみてはいかがだろうか。
Photo by Shutterstock






































































