『イカゲーム』
監督・脚本・演出/ファン・ドンヒョク 出演/イ・ジョンジェ、パク・ヘス、オ・ヨンス、ホ・ソンテ 配信/ネットフリックス
2021年/韓国/全9話
2021年の最大級の話題作!
『イカゲーム』で繰り広げられるのは、賞金456億ウォンをかけたサバイバルゲーム。謎の巨大施設に集められた参加者たちが、勝利を目指して各ゲームに挑戦する。ギャンブル癖を抱えて借金にまみれたソン・ギフン(イ・ジョンジェ)をはじめ、一家離散の憂き目に遭った脱北者のカン・セビョク(チョン・ホヨン)、会社の金を横領したエリート証券マンのチョ・サンウ(パク・ヘス)ら参加者の顔触れは様々だが、共通するのは大金を手に入れたい意思。それぞれの事情を抱えた者たちが寝食を共にしつつ、“負けたら即死亡”の世界へといざなわれていく。
なんとも不穏な展開だが、サバイバルゲームの内容自体は妙に素朴で、例えば、第1ゲームの“だるまさんが転んだ”は施設の一角にある運動場で実施。ルールはほぼ従来通りだが、鬼に動きを察知された者は銃殺。鬼は、可愛いと言えば可愛いが不気味と言えば限りなく不気味な少女型ロボット。“ほっこり”と残虐性を容赦なく混ぜながら、参加者はもちろん視聴者すら居心地悪くさせる。
怖気づいた参加者たちを、一度は日常に帰しもする。それによって浮かび上がるのは、参加せざるを得ない現実、背後にある社会。一方、行方不明の兄を追って施設に潜入する警察官ファン・ジュノ(ウィ・ハジュン)を介し、犯罪行為にまみれた運営側に目を向けることも忘れていない。児童への性的虐待問題を扱った社会派映画『トガニ 幼き瞳の告発』などで知られるファン・ドンヒョクが全9話の監督、脚本を手掛け、腕を振るっている。
『ザ・サーペント』
監督/トム・シャンクランド、ハンス・ヘルボッツ 脚本/リチャード・ワーロウ、トビー・フィンリー 出演/タハール・ラヒム、ジェナ・コールマン、ビリー・ハウル、エリー・バンバー、アメシュ・エディレウィーラ、ティム・マキナニー 配信/ネットフリックス/1シーズン全8話(1話56〜59分)
実在の連続殺人犯を描いたスリラー!
今年1月にBBC Oneでオンエアされ、4月からネットフリックスでの世界配信が始まった『ザ・サーペント』は、1970年代半ばに東南アジアやインドを震撼させた実在の連続殺人犯シャルル・ソブラジの物語。親切な宝石商を装って若い欧米人旅行者たちに近づき、詐欺と殺人を繰り返したソブラジの凶行と、事件の解決に人生を捧げた男の攻防が全8話の中で展開していく。
実話に着想を得た物語であることを冷淡に示すかのように、第1話の冒頭に登場するのは、何件もの殺人を犯してなお自由を得ているらしき事件後のソブラジ。「えっ。凶悪な殺人犯に制裁が下ってめでたし…ではないの?」という不安を容赦なく投下するストーリー構成が、かなり意地悪だ。やはりこちらも実在の殺人鬼“切り裂きジャック”を話の入り口にし、ミステリードラマとして高い評価を得た『リッパー・ストリート』の脚本家リチャード・ワーロウが、リアリティとドラマ性を交錯させながら手腕を振るう。
さらに、交錯するのはリアリティとドラマ性だけでなく、物語の時間軸も。ソブラジとその恋人らが犯罪に手を染める過程をシビアに描きながら、彼らを追うことになる外交官ヘルマン・クニッペンバーグの奮闘にも目が向けられていく。バンコクのオランダ大使館で働く中、ソブラジが殺したオランダ人カップルの事件を知り、現地警察に頼れない状況に翻弄されながら独断で動くヘルマンのストーリーは犯罪捜査ドラマらしいスリルと苦みが伴うもの。ソブラジらによる“事件時”とヘルマンらによる“捜査時”の間隔が、話が進むにつれ、ヘルマンがソブラジに近づくにつれ、徐々に狭まっていく感覚にもドキドキさせられる。
『瞳の奥に』
出演/シモーナ・ブラウン、イヴ・ヒューソン、トム・ベイトマン、ロバート・アラマヨ
配信/ネットフリックス
2021年/イギリス/全6話:各46〜53分
予測不能な衝撃サスペンス!
イギリスの作家サラ・ピンバラのベストセラー小説を原作にした物語は、シングルマザーのルイーズ(シモーナ・ブラウン)がバーで出会った既婚男性と意気投合するところからはじまる。しかも、相手の正体は、ルイーズが勤務する診療所の新任精神科医デイビッド(トム・ブラウン)だと判明。惹かれ合う気持ちを抑えられない2人はたちまち肉体関係を持つようになるが、その一方、ルイーズはデイビッドの妻アデル(イヴ・ヒューソン)ともひょんなことから友人に。抜き差しならない状況に悩まされつつ、ルイーズは夫婦が抱える秘密に翻弄されていく。
不倫ドラマにサスペンスをミックスした味わいの展開は、それだけでスリル満点。夫婦の間で揺れ動くことになった主人公ルイーズへの共感は薄いが、どこか追い詰められたようなデイビッドの物悲しく頼りない佇まいや美しい分だけ狂気をはらんだアデルの言動が物語世界へと引き込む。
映像や登場人物たちの表情の中にそれとなく張り巡らされた伏線もあれば、悩ましいミスリードもあり。それらがすべて、“驚愕のラスト”へとつながる。
『YOU-君がすべて-』
原作/キャロライン・ケプネス プロデューサー・脚本/セラ・ギャンブル、グレッグ・バーランティ 出演/ペン・バッジリー、エリザベス・ライル、ヴィクトリア・ペドレッティ 配信/ネットフリックス
シーズン1(全10話)、シーズン2(全10話)、シーズン3(全10話)
面白さ=異常さが魅力のサイコサスペンス作品!
動画配信サイトで連続ドラマを楽しむ際に必要になってくるのが、“一息つく勇気”。「◯話まで見たら、今日は終わりにしよう」「あと1話くらいは見たいかも」の攻防が視聴者の中で起こりがちになる。現在、ネットフリックスでシーズン3まで配信中の『YOU-君がすべて-』も、“一息つく勇気”を問われるシリーズ。だが、3シーズン経てなお面白さは健在で、悩ましい攻防にもなかなか勝たせてくれない。それどころか、シーズンを重ねるごとに面白さは加速。もっとも、このドラマの場合、面白さ=異常さでもあるのだが。
物語の主人公は、書物を愛する好青年のジョー・ゴールドバーグ(ペン・バッジリー)。シリーズ冒頭のジョーは、ニューヨークの書店で店長を務め、大好きな本に囲まれながら穏やかな日々を送っている。ただし、このジョーという男が実は非常に厄介で、想いを寄せた女性への執着が異常。相手の住居に不法侵入したり、SNSをパトロールしたりするなどのストーカー行為はもちろん、時には恋愛成就を目指して邪魔な人間を排除したりもする。
原作小説(キャロライン・ケプネス著)通りとはいえ、ドラマの主人公としてはかなり挑戦的な人物設定。では、そんな男がなぜ主人公でいられるのか? そこがまた悩ましいところで、ジョーは危険なストーカーであると同時に、物語の中心人物として興味深く魅力的。基本的に生真面目で頭も切れるためストーキング術は実にスムーズで、仕事のできる人間が目標を達成していく姿を見せられている錯覚すら覚える。
そんなジョーが大学院生のベック(エリザベス・レイル)に一目惚れし、彼女を振り向かせるために手を尽くしたのがシーズン1。ジョーの想いはベックに届くの? 届かないの? のスリルと、その先に待ち受ける意外な結末がシリーズの人気を決定づけた。1つだけ明かしておくと、この作品ではターゲットにされる側も決して清廉潔白な人間ではなく、それが物語のバランスの鍵になっている。
続くシーズン2は舞台をロサンゼルスに移し、ジョーが新たな相手をストーキング(!)。ただし、このお相手となるラブ(ヴィクトリア・ペドレッティ)が予想の斜め上を行くキャラで、実はジョー並みにクレイジーな女性であることが判明。
サンフランシスコが舞台となるシーズン3では、似た者同士で家庭を築くことになったジョーとラブのサイコ合戦が展開する。しかも、2人の間にはすでに可愛い第1子が誕生。クレイジーな夫婦は永遠の愛を誓い合えるのか? 誘惑、不倫から監禁、殺人まで、歪んだ家族ドラマがホームコメディ半分、血みどろ半分のノリで展開し、シリーズ史上最も面白いシーズンとの声も。ジョーとラブの異常な攻防にハラハラさせられながら、視聴者は“一息つく勇気”の戦いも強いられるはずだ。
『マイネーム:偽りと復讐』
監督/キム・ジンミン 脚本/キム・バダ 出演/ハン・ソヒ、パク・ヒスン、アン・ボヒョン、キム・サンホ 配信/ネットフリックス
全8話(1話45分〜59分)
ヒロインのつらくて切ない死闘ぶりに心が動かされる!
主人公は、ハン・ソヒ演じる女子高生のユン・ジウ。父1人、子1人の家庭で育ったジウは、麻薬組織の一員だった父親を何者かに殺され、天涯孤独の身になってしまう。悲しみに暮れるジウは、父の親友だった麻薬組織のボス、チェ・ムジン(パク・ヒスン)のもとへ。父の復讐を果たすため、復讐する力を手に入れるため、組織の一員となって生きる決意をする。だが、そこは想像を絶する過酷な世界だった……。
と、これはまだシリーズ冒頭の展開でしかなく、ジウの復讐劇は何年にもわたる壮大なものへ。チェ・ムジンの後ろ盾を得ながら組織の中でサバイブしていくジウは、父を殺害した犯人が警察の人間であると確信。やがて正体を隠して警察官となり、新しい名前”オ・ヘジン”として生きることになる。ヘジンの目的は警察内部からチェ・ムジンをサポートすること、そして父の死の真相を突き止め、死に追いやった人物への復讐を遂げること。果たして彼女は目的を果たすことができるのか? ギリギリの状況に身を置くヘジンの死闘がノンストップで描かれていく。
シリーズも中盤を過ぎたころには、大半の視聴者は“マイネーム”を捨てて奮闘するヘジンに復讐を遂げさせてあげたくなるはず。身を置く状況の複雑さに反し、彼女の願いを最初から至ってシンプルなのだから。しかし、そう簡単にはいかないであろうことは、展開1つ1つの残酷さや壮絶なアクションシーンが物語っている。ヒリヒリとした全8話のラストに待ち受けているのは何なのか。先が気になり過ぎて居ても立ってもいられなくなるため、できれば一気に見る時間を作って楽しむのがおすすめ。
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