少年スピルバーグが挫折と喜びを味わう姿に共感する『フェイブルマンズ』
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出演しているスターではなく、監督の名前で多くの人に作品がアピールされる。ハリウッドにおいて、その最高峰といえば、やはりスティーヴン・スピルバーグ! しかも1970年代から現在までの半世紀、その威力は衰えないのがスピルバーグのスゴさ。新作は彼が映画監督になるまでの自伝的物語なので、映画ファンにはマストな一作だ。
主人公はスピルバーグ自身をモデルにした、サミー・フェイブルマン。少年時代、“暗い場所は好きじゃない”と映画館を恐れていた彼が、両親に半ば強引に連れて行かれ、初めて観た映画に心から夢中になってしまう。そんな“原点”が鮮やかに描かれる冒頭から、やがて巨匠になる才能の原風景に、われわれ観客も寄り添っていく演出は、さすがスピルバーグだ。
8㎜カメラでの撮影の虜になったサミーは、10代になると友人と協力して本格的な作品を撮るようになるが、実際にスピルバーグが作った西部劇や戦争映画が当時のままに再現され、その本格的な撮影風景に驚くばかり。しかもこれらの作品が後の大傑作の基礎になっていたりして、スピルバーグ映画を観てきた人には感涙モノである。
サミーの家族も、実際のスピルバーグと近い設定になっており、とくに両親との関係はドラマチックに胸に迫ってくる。子供時代にはわからなかった両親それぞれの複雑な事情や秘密にふれ、大人として成長する主人公に共感せずにはいられない。両親の離婚や学校でのいじめなど、屈折した部分も真っ直ぐ見据えているので、感動も大きくなる。大好きな何かを発見した瞬間の喜び。それを将来の職業にしたいという夢。そして家族や仲間との絆……。
ハリウッドの巨匠の物語ながら、誰もがどこかに自分の人生のターニングポイントを見つけ、重ねられるのも『フェイブルマンズ』の魅力。そしてスピルバーグは、自身の青春ストーリーをどんなエピソードで締めくくったのか? 思わぬ方向から心を揺さぶるクライマックスが待っている。
『フェイブルマンズ』
製作・監督・脚本/スティーヴン・スピルバーグ 出演/ミシェル・ウィリアムズ、ポール・ダノ、セス・ローゲン、ガブリエル・ラベル 配給/東宝東和
2022年/アメリカ/上映時間151分
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