予測不能な衝撃サスペンス!
ネットフリックス『瞳の奥に』に驚愕するワケとは!?
驚愕のラストが待つ映画やドラマは、驚愕が待つとは知らずに見たほうがいい。しかしながら、“驚愕のラスト”が興味を引くことは往々にしてあるわけで、その存在を知らせないでおくのも勿体ない。ネットフリックスで配信中の英国ドラマ『瞳の奥に』は、まさにそのジレンマが伴う秀逸なシリーズだ。とはいえ、驚愕のラストが待ち受ける事実を知っていたところで、衝撃性が損なわれることはない。予想の斜め上を軽やかに行く、驚愕にも程がある結末が話題になっている。
主人公のルイーズは、精神科のクリニックで助手として勤務。明るく前向きな性格で、息子アダムと2人暮らしをしている
イギリスの作家サラ・ピンバラのベストセラー小説を原作にした物語は、シングルマザーのルイーズ(シモーナ・ブラウン)がバーで出会った既婚男性と意気投合するところからはじまる。しかも、相手の正体は、ルイーズが勤務する診療所の新任精神科医デイビッド(トム・ブラウン)だと判明。
クリニックに赴任してきたセラピストのデイビッド。見た目は、知的で優しそうなイメージだが……
惹かれ合う気持ちを抑えられない2人はたちまち肉体関係を持つようになるが、その一方、ルイーズはデイビッドの妻アデル(イヴ・ヒューソン)ともひょんなことから友人に。抜き差しならない状況に悩まされつつ、ルイーズは夫婦が抱える秘密に翻弄されていく。
新しい土地で友人が少ないアデルは、ルイーズを頼りにするように。スポーツジムで一緒に汗を流すなど、仲良くなっていく
不倫ドラマにサスペンスをミックスした味わいの展開は、それだけでスリル満点。夫婦の間で揺れ動くことになった主人公ルイーズへの共感は薄いが、どこか追い詰められたようなデイビッドの物悲しく頼りない佇まいや美しい分だけ狂気をはらんだアデルの言動が物語世界へと引き込む。
イケメン夫のデイビッドに、若くて妖艶な妻アデル。一見、理想的な夫婦に見えるのだが、2人の間には、どこか奇妙なところも存在する
全6話の中で絶妙なバランスを取る構成も巧みで、ルイーズの視点に寄り添いながら、デイビッド&アデルの秘密に1歩ずつ迫っていく思わせぶり。デイビッドとアデルの過去に何があったか、夫婦の現在の気持ちはどこに向いているのか。それらを覆う1枚のベールが容易にはがされることはなく、視聴者はルイーズと一緒にもどかしさを味わっていく。また、そのルイーズ自身も毎夜悪夢に悩まされる問題を抱えており、単なる巻き込まれ型のヒロインではなさそうだ。
キーマンとなるアデルを演じるのはイヴ・ヒューソン。U2のボーカル、ボノの娘で、スピルバーグ監督作『ブリッジ・オブ・スパイ』にも出演している、注目株の俳優だ
しかしながら、不倫ドラマやサスペンスの印象に騙されてはいけない。夫に裏切られる格好の妻アデルには確かな狂気があるが、ドロドログチョグチョした展開を見越すのは安易だ。謎の充満は本作における大きな鍵だが、大勢に愛されてきた伝統的な英国ミステリーのように、謎を丁寧に解き明かすことに終始した作品ともひと味違う。
アデルはかつて、とある施設に収容されていた。そこで出会ったロブ(写真右)は、なんでも話し合える貴重な存在
映像や登場人物たちの表情の中にそれとなく張り巡らされた伏線もあれば、悩ましいミスリードもあり。それらがすべて、“驚愕のラスト”へとつながる。
動画配信サービスが充実して作品数が圧倒的に増え、“判断力”が必要となってきた昨今。予告編を見て本編を見るか判断、第1話を見て最終話まで見るか判断……など選択パターンは様々だ。そんな中、本作に限って1つ言えるのは、作品の印象も、登場人物たちも、“見た目で判断してはいけない”ということ。それだけは、知っておいてほしい。
『瞳の奥に』
出演/シモーナ・ブラウン、イヴ・ヒューソン、トム・ベイトマン、ロバート・アラマヨ
配信/ネットフリックス
2021年/イギリス/全6話:各46〜53分